初恋迷路

稲葉海三

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3.わたしは信じてるよ!

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 ここ、どこだろ?

 気づいたら、わたしは外にいた。
 キョロキョロとあたりを見回すと、ちょっとした広場にいるみたい。

 ……この景色、見たことあるな。

 広場の地面には、空のペットボトルが、あちこちに立てられていた。

 あ、わかった! 
 昔、わたしとカケルで作った練習場だ!

 ザッザッザッザッ、タンッタンッ。

 今度は、リズミカルな音が聞こえてきた。
 わたしは、この音を知っている。
 昔は、毎日のように聞いていた。
 カケルのドリブルの音だ。
 向こうから、カケルがドリブルしながら、こっちに向かってくるのが見えた。
 ジグザグに、すばやく。
 よどみのない、なめらかな動きで、ペットボトルの間をスイスイと走りぬけていく。
 ボールをペットボトルにぶつけると失格のルールなので、これってすごくむずかしいんだ。わたしもやったことあるんだけど、ぜんぜんできなかった。
 カズトさんが小学生のときに練習していた方法で、カケルもマネしてはじめたんだ。 最初は失敗ばかりしていて、毎日練習しているうちに、少しずつできるようになっていった。
 カケルがゴールのラインを通過したときに、わたしは手にしていたストップウォッチのスイッチを押した。

「どうだった?」
「えっと、18.3秒」
「やった! 新記録だ!」
「すごいよ、カケル! これで次の試合はバッチリだね!」

(ああ、カンペキに思い出した)

 これは、小学4年生のとき。
 カケルのサッカーの練習の手伝いをしていたときだ。
 カケルの身長はわたしより小さく、顔はあどけなくて、かわいらしい。いっしょにいると、歳上の気分になるんだよね。この頃のわたしは、カケルのことを弟みたいに思っていた。カズトさんは、年のはなれたお兄さんって感じ。
 それが、わたしたち3人の関係だった。
 わたしの「次の試合」という言葉に、カケルはうつむいてしまう。

「どうしたの?」

 さっきまで浮かれていたのに、自信なさげな、落ちこんだような顔になる。

「ぼく、才能がないのかな?」
「なんで? 上手くなってるじゃん。そんなわけないって!」

 新記録までだせたのに、どうしてそんなことを言うのか、わたしには、さっぱりわからなかった。

「だって、いくら練習しても、カズ兄のようなプレイはできないし……」

(あ~、そういうことか)

 このときのカズトさんは、ジュニアユースに選抜されるような、ものすごい選手になっていた。

「いくら牛乳を飲んでも、カズ兄のように大きくなれないし……」

 カケルのサッカーのポジションであるフォワードは、体の大きいほうが有利だ。
 体の小さなカケルは、敵チームのメンバーとぶつかると、はじき飛ばされてしまうこともある。
 カケルの身長がのびてくるのは、小学校を卒業するころなんだ。

「ひょっとして、だれかになんか言われた?」
「うん、日向カズトの弟のくせに、下手くそって」

(うわっ、むかつく!)

 その場にいたら、わたしがつかみかかってしまいそうだ。
 カズトさんとくらべてくる人が、必ずいるんだよね。
 そういう人たちの言葉のせいで、カケルは何度も傷つけられた。

(カケルはいっぱい練習してるし、下手じゃない!)

 だけどカズトさんとくらべられるせいで、損をしてしまう。
 わたしはカケルの手を包みこむように、両手でギュッとにぎりしめた。

「お母さんが言っていたよ。好きなことをがんばれる人ってのは、それだけで才能があるんだって。カケルは毎日のようにサッカーの練習をいっぱいしてるから、ぜったいに才能があるよ!」

 カケルをはげましたくて、わたしは必死だった。
 だれかのイヤな言葉に傷ついて、大好きなサッカーをキラいになってほしくないから。

「身長なんて成長期がくればそのうち大きくなるし、サッカーだって練習すれば上手くなれる! カケルは将来、すごいサッカー選手になれるって、わたしは信じてるよ!」
「ホントにそう思う?」
「うん、もちろん!」

 わたしは力強くうなずいてみせた。

「わかった! あずさがそう言ってくれるなら、次の試合もがんばる!」

 カケルもようやく、笑顔を浮かべた。


   ***


 次にカケルが出場した試合は、わたしにとって忘れられないものになった。
 この試合、カケルは後半から出場したんだ。
 最初はなかなかボールが回ってこなくて、敵にもジャマされて苦戦していた。
 だけど、試合終了3分前。
 味方のパスが、ゴール前に高く上がる。
 そしたら、カケルは敵をふりきって、ボールに向かって一直線にダッシュした。
 風を切って走るカケルに、だれも追いつけない。
 グングンとスピードを上げ、背中に翼が生えたかのように、ボールに向かって高くとび上がる。そしてそのまま、空中でボールをけって、シュートをした。
 キーパーはボールにまったく反応できずに、ゴールが決まる。
 これが決勝点となってチームは勝利し、カケルはこの試合のヒーローとなったんだよ。
 カケルがしたシュートは、ジャンピングボレーって言うらしい。一流のプロにしかできないようなシュートなので、みんながおどろいていた。

 ……もっとも、こんなシュートを決めたのは、このときの1回だけなので、まぐれだったと言われちゃったけどね。
 でも、ものすごくカッコよかったんだ。
 わたしはこのときのカケルの姿を、一生、忘れることはないと思う。
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