初恋迷路

稲葉海三

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1.中学生活スタート

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 やっぱり、カケルはサッカーをやめてしまうらしい。
 あんなに、大好きだったのに……。

「日向くん、バスケやるんだ」
「ああ時代はバスケだからな。1年のうちに、ぜったいにレギュラーをつかんでやるぜ!」
「お、やるきだねー。がんばって」
「おう、サンキュー!」

 カケルはやよいちゃんと明るく話しているが、やっぱりモヤモヤしてしまう。

「えー、カケル、そりゃないって! サッカー部に入ろうよ!」

 悲鳴のような声を上げながら、男の子が会話に入ってきた。
 この男の子の名前は、八代コウタくん。
 すらっとした体型のイケメンなので、入学早々、クラスの人気者である。性格もおだやかで、やさしいんだ。
 八代くんとも小学校がいっしょで、昔からの付き合いだ。八代くんとカケルとは、サッカークラブのチームメイトでもあった。
 それだけじゃなくて、やよいちゃんと八代くんは小さい頃からの幼なじみで、家はすぐ近所。八代くんとやよいちゃんの関係は、わたしとカケルみたいな関係かな。
 入学式の日には、この4人が同じクラスになった奇跡のような偶然に、みんなでよろこびあった。

「またいっしょにサッカーをしようよ! カケルがなかなか入部しないから、どうしたんろうと思っていたけど、バスケをやるなんて……」

 八代くんは一生懸命、カケルのことを勧誘しようとしている。

(八代くん、がんばって!)

 わたしは八代くんのことを心の中で全力応援するが、同時にダメだろうなー、というあきらめの気持ち。

「オレは、サッカーなんて、もうやらない!」

(ほらね……やっぱり)

 この程度でカケルの気持ちが変わるなら、わたしも苦労しない。
 わたしがなにを言っても、聞いてくれなかったし。

「どうしてなんだよ? これまで、ずっと同じチームでやってきたじゃん!」
「いくら練習しても、どうせレギュラーになれねえし。オレには、おまえや兄貴みたいに才能がないのがわかったから……」

 八代くんって、ほっそりしていて、一見、運動が得意そうに見えないのだけど、サッカーがすっごくうまいんだ。八代くんがドリブルしていると、ボールが生きているみたいと言われていた。いつも試合では大活躍で、チームの中心的な存在だったの。

 一方、カケルは…………。
 レギュラーにはなれず、試合の途中から出場できればいいほうだった。
 毎日いっぱい練習していたのに、出られなかった試合はたくさんある。
 出番がなく試合が終わったあとのカケルは、とてもくやしそうな顔をしていた。

「そんなことないって! カケルのシュートセンスは、すごいんだって! だから、試合終盤の一発逆転が必要な場面では、監督はカケルを使おうとしていたんだし。他のテクニックも磨けば――」
「――あー、うるせえ! オレはやめるって決めたんだ! ……帰る」

 カケルはふてくされたように言うと、カバンをつかんで、教室を出ていく。

「あ、待ってよ、カケル」

 八代くんは、カケルのあとをあわてて追いかけていく。
 最近は、カケルにサッカーの話をすると、すぐにこうなっちゃう……。

「ごめんね。カケルのやつ、サッカーの話をすると、機嫌が悪くなっちゃうんだ。普段は、そんなことないんだけど……」
 カケルが空気が悪くしてしまったので、あやまる。こんなことだと、やよいちゃんに嫌われちゃうでしょ、と注意したい。

「別に、あずさがあやまることないわよ。コウタがしつこいから、日向くんが怒ってもしょうがないし」
 やよいちゃんは、顔の前で手をパタパタとふりながら笑う。

(ううっ、やっぱりいい子だな)

 カケルの態度に気を悪くしてないようで、ホッとした。


 やよいちゃんには、カケルの気持ちを伝えてはいない。
 わたしが伝えるのは、まちがってると思うから。
 わたしはあのときのことを、とっても反省してるんだ。
 大事な告白を、罰ゲームなんかでやらせようとするなんて……。

(わたしって、なんてバカだったの!)

 だから決めたんだ。
 せめて、カケルの恋に協力しよう、と。

 もちろん、やよいちゃんの気持ちが最優先。
 でも……できれば、やよいちゃんには、カケルのことを好きになってほしいなって。
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