初恋迷路

稲葉海三

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1.中学生活スタート

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「わぁ! きれいだなぁ」

 正門をくぐって、校舎へとつづく道の左右には、わたしたち新入生を歓迎してくれるように、満開の桜が迎えてくれている。
 ピンク色のトンネルのようになっていて、歩いているだけで、別の世界に行けてしまいそう。
 このおとぎ話のようなな光景を見ただけで、わたしはこの学校が好きになった。

 これから3年間、この学校に通うのが楽しみ♪
 わたしの名字が桜井なのもあって、桜が大好きなんだ。
 あ、小学校を卒業したわたしとカケルは、ここ、若宮中学に入学したんだよ。

 家から徒歩8分の近所にある学校だから、よっぽど寝坊をしなければ、遅刻はしないキョリにある。
 この学校の制服は、紺色の襟なしブレザーにグレーのプリーツスカート、そして、胸もとのリボンがアクセントになっている。
 落ち着いた上品なデザインで、ステキなんだ。
 はじめて制服に着替えたときはうれしくて、カガミの前で何度もクルクルと回って、お母さんに笑われちゃった。
 小学校を卒業して、少しだけのびてきた髪は、うしろで結ぶようにしてみた。
 新しい制服に包まれたわたしは、少しだけ大人っぽく見えるようになったと思う。
 制服のサイズが大きめで、ちょっとブカブカだけど……。


 それで今日は、入学初日ってわけ。
 クラス分けには、ちょっとだけドキドキ。
 新入生の半分くらいは、同じ小学校の生徒なので、知り合いがいないってことはないけどね。
 でもできれば、仲がよかった子と同じクラスになりたいよ。

(部活はどうしようかな?)

 せっかく中学生になったんだから、なにかはじめてみたいよね。
 わたしは桜の花びらの舞う校内で、これからはじまる中学生活に、希望の花を咲かせていた。


   ***


 そして、入学から2週間がたった。
 桜のピンクの花びらは散ってしまい、すっかり緑の葉っぱへと変化をとげていた。

「ダメだぁ~、まったく見つからない」

 放課後の教室で、わたしは両手を前に投げだし、机に顔をつっぷして、目を閉じる。
 全力で落ちこんでますってアピールだ。
 なぐさめてほしい! わたしを全力で甘やかしてほしい!

「おーよしよし、かわいそうに」

 願いどおり、わたしの頭をやさしくなでてくれる親友。

 ……ああ、なんていい子なの。

 しばらく、ゴロゴロと猫のように、されるがままになっていた。

「それで、テニス部はどうだったの?」
「経験者じゃないと、1年間はほぼ球ひろいだって。そんなに待てないよ!」

 わたしは頭をなでられながら、こたえる。
 大会に出て試合に勝ちたいってムチャは言わないけど、せめてラケットを握って練習したいじゃん。
 高校受験を考えると、中学で部活をできるのって2年とちょっとくらい。
 1年間の球拾いってのは、半分くらいだ。
 部活の思い出が、球拾いばっかりというのは、イヤすぎる……。 
 わたしの中で、テニス部は却下だ。

 こんな感じで、中学に入学してからのわたしは、部活の見学を積極的にしている。
 でも、わたしができそうな部活ってのが、なかなか見つからない。
 わたしになにか、人に自慢できるような特技があればいいんだけどねー。
 お菓子を作ったり、本を読んだりするのは好きだけど、特技ってほどのものではない。

「大変ねー。この学校、運動部は結構強いみたいだから」

 わたしの頭から手をはなし、やよいちゃんは苦笑した。
 この子の名前は、如月やよいちゃん。わたしの小学校からの友だち。
 黒髪のサラサラなロングヘアとメガネが特徴で、すっごくかわいい子。
 頭もよくて、全国模試はトップレベル。
 おまけに、お父さんは会社の経営をしているお嬢さまでもあったりする。
 わたしとは、住んでいる世界がちがう人みたいだけど、小学6年生のときにクラスがいっしょになったんだ。
 そのときに、勇気をだして話しかけてみたら、すぐに仲よくなっちゃった。
 今では、わたしのいちばんの親友だよ。

 ……そして、カケルの好きな女の子。

「はははっ。あずさは、運動オンチだしな」
「うっさいよ!」

 頭の上から聞こえてきた悪口に、わたしは顔を向けずに言い返す。
 だれの声なんて、考える必要はない。毎日のように聞いている声だから。

(そりゃ、あんたに比べたら、ほとんどの人が運動オンチだよ!)

 わたしは別に、運動がニガテなわけじゃない。
 でも、得意じゃないって感じの、いたってフツーだ。
 毎日、ランニングや筋トレをしている人には、かないっこないってだけ。
 顔を上げると、予想どおり、カケルがからかうように笑っていた。
 目つきがするどく、意地悪そうな顔だ。
 小学校の頃は、もっとおとなしくて、かわいげのある顔立ちしてたんだけどね。

「カケルは、どこの部に入るか決めたの?」
「ああ。とりあえずはバスケ部に仮入部するつもりだ」
「そう……」

 カケルの言葉に、わたしは複雑な気分になる。
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