初恋迷路

稲葉海三

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8.さびしい放課後

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「なるほど……。あずさちゃんは小学生のとき、カケルくんにきちんと告白しとけばよかったかもね」
「えっ、でも。他に好きな子がいるのに、告白したって……」
「それでも、わたしは告白すべきだったと思うよ。きちんと相手に気持ちを伝えられずに、一方的にあきらめてしまったから。中途半端に想いが残り、苦しんでいるんだと思う」
「……フラれるために、告白してればよかった、と?」

 少しだけきつい声になってしまう。
 他に好きな子がいるって聞いただけで、あんなに泣いたのに……。
 山岸先輩はもっとつらい思いをしろって言っているのだ。
 先輩はわたしの目を見て、苦笑した。

「まあまあ、そんな顔しないで。そもそもカケルくんって本当にやよいちゃんのことが好きだったのかな? 小学生男子って、恋愛に興味ないって子も多いし」
「でも、カケルはやよいちゃんの名前を言ったし……」
「罰ゲームで言わされただけじゃ、本音かどうかなんてわからないよ」

 そう言われてしまうと、自信がなくなってしまう。
 たしかにカケルは、最初は好きな人がいないって言っていた。
 それを私は、ムリヤリ言わせてしまったのだ。

 山岸先輩の言葉を聞いているうちに、あのときのカケルの気持ちが、わからなくなってきた。

「本当の気持ちなんて……そんなのわからないですよね」

 山岸先輩は大きくうなずいた。

「ああ、わからないよ。だから、あずさちゃんは告白すべきだったと思ったんだ。本当の気持ちをぶつけていれば、きっとカケルくんも、本当の気持ちを返してくれてたはずさ。けれど、あずさちゃんは逃げちゃったんだ。自分から告白するのが怖くて、罰ゲームなんかに頼ってしまった」
「……はい」

 何も言い返せない。
 あのときのわたしは、まちがっていた。
 カケルのことが好きで、彼女になりたかった。
 だけど、そのことを自分から伝える勇気がなかった。

「やよいちゃんは、きちんと自分の気持ちを伝えて、立派だったと思うよ。今は傷ついているかもしれないけど、きっと立ち直って、前に進めるようになるだろう。あずさちゃんは、どうするかい?」

 そんなのは決まっている。
 ずっと前から、わかっていたんだ。
 山岸先輩の目を見て、わたしは大きくうなずいた。

「はい、わたしもカケルに、自分の気持ちを伝えようと思います」

 もう、逃げない。
 カケルは好きな人がいると言っていた。
 わたしが告白しても、きっとフラれてしまうだろう。

 でもちゃんと気持ちを伝えて、わたしも初恋に決着をつけるんだ!

「うんうん。わたしもそれがいいと思うよ」

 山岸先輩は満足そうにうなずくと、わたしの頭をなでる。
 先輩の手の感触が心地よく、ひどく安心した気分になった。

「でもその前に、やよいちゃんにも、自分の気持ちを伝えたいと思います。うざがられるかもしれないけど、落ちこんでいる親友を放っておけません! 早く元気になってもらいたいから!」

 わたしがそう言うと、山岸先輩はちょっと驚いた顔したが、すぐにニッコリと笑った。

「それはいい。やよいちゃんは、図書室にいるのかい?」
「ええっ、たぶん」
「よし、善は急げだ。すぐに来たまえ」

 そう言うと、わたしは山岸先輩に手を引っぱられた。

「えっ、どこに行くんですか?」
「いいから、いいから。とっておきの場所だよ!」

 山岸先輩は、イタズラっぽい笑みを浮かべながら、わたしを連れていく。
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