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7.交錯する想い
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電車を降りて、家に向かう河原沿いの道を歩いているとき、カケルがはじめて口をひらいた。
「如月とヒーローショーを観てもまだ時間があったから、ふたりで観覧車にのったんだ」
「うん」
あのとき考えた計画どおりだ。
観覧車なら、ふたりっきりで、だれにもジャマされない。
きれいな景色をながめながら、とてもロマンチックな告白になるはずだった。
「あずさは、知っていたのか?」
「……うん」
わたしは正直に話す。
わたしが計画し、コウタくんに協力してもらったことも。
「あずさは、オレが如月と付き合えばいいと思ったのか?」
「うん、そうだよ」
わたしの言葉に、カケルは深くため息をついた。
「オレの気持ちは、考えてくれなかったのか?」
「……だって、カケルもやよいちゃんのことが好きだって言ってたし、ふたりが両想いなら――」
「――なんだって! オレがいつそんなこと言った!」
「小学5年生のときにふたりでやった罰ゲームで……」
「あっ……!!」
カケルがギリッと歯をかみしめた。
驚いたような、くやしそうな、怒っていそうな、そんな顔。
「あんなくだらないこと、まだ覚えていたのかよ!」
「そんな……」
(くだらなくなんてない! カケルは、まさか忘れてたの?)
そう言いたいけど、そんなことを言えるフンイキではない。
……言う権利もない。
わたしにとっては、はじめての失恋で大事件だったけど、カケルにとっては、ムリヤリ好きな子を言わせられた、イヤな思い出でしかないのだから。
「……今のオレは、他に好きなやつがいるし」
「え、だれ?」
わたしは驚いて聞き返す。
でも、カケルは質問にはこたえず、わたしのことをにらみつけ、
「もういい……、おまえには、関係ない」
と言い捨てた。
そしてクルりとわたしに背を向けると、全速力で走りだした。
「あっ……」
わたしも追いかけようかと考えたけど、カケルに追いつけるわけがない。
小さくなるカケルの背中を、見送ることしかできなかった。
すぐにカケルの姿は、道のはるか向こうへと消えてしまう。
それからわたしは、家に向かって歩こうとする気にならず、そばにあった石の階段に座って、ボーッと川をながめ、今日のできごとを考えた。
やよいちゃんとカケルは両想いだと思っていたけど、実際にはちがっていたようだ。
あのころとカケルの気持ちが変わっているなんて、まったく考えなかったよ。
(いや、ウソだ!)
本当はその可能性もちょっぴりあるかもしれないと考えていたけど、確認する勇気がなかっただけ。
だって……。
カケルの口からもういちど、やよいちゃんのことが好きだと聞いてしまったら、わたしはあのときと同じく、失恋した気分を味わってしまう。
カケルの前で涙をこらえる自信が、まったくない。
とっくにあきらめたはずなのに、わたしはまだ、カケルのことが好きだという気持ちを捨てきれていない。
ひょっとして……、ひょっとしてだよ。
あのときとカケルの気持ちが変わっていて、わたしのことを好きだと言ってくれるかもしれない。
そんな都合のいい妄想をしたことも、何度かある。
でも、そんなことがあったとしても、つらいだけだよね。
やよいちゃんを裏切って、カケルと付き合えるわけがない。
だからわたしは、さっさとふたりに幸せなカップルになってもらい、わたしの初恋を終わらせてほしいと願っていたんだ。
そんな自分勝手な気持ちで、やよいちゃんの初恋が叶うように協力し、コウタくんを巻きこんで傷つけてしまった。
カケルもやよいちゃんの告白を断って傷ついた。
みんなで幸せになる、一番いい方法を選んだはずなのに。
わたしは……完全にまちがってしまった。
こんなことになるのなら、こないだわたしの部屋でふたりっきりになったときに、それとなく、カケルの気持ちを聞いておくべきだった。
そんなどうしようもない後悔ばかりが、頭に浮かんでくる。
(カケルの今の好きな人ってだれだろう?)
教室ではわたしたち以外の女子と話している姿を見ないから、部活関係で知り合った子がいるのかもしれない。
(わたしには関係ない……か)
カケルの拒絶の言葉が、胸に深くつきささった。
川の水面が急にぼやけて見える。
目が熱くなって、涙があふれてくるのを感じた。
あわてて目をこすって空を見上げると、空から水滴がポツリポツリと。
すぐに、ザーッと、はげしくふってきた。
わたしは雨やどりをせずに、しばらくそのまま、灰色の空をながめていた。
*
家に帰ると、雨にずぶぬれになっていたことをお母さんに怒られ、風呂に放りこまれた。
でも、雨が涙を洗い流してくれて、泣いていたことには気づかれなかったみたい。
ラッキーだったよね、あははははっ。
「如月とヒーローショーを観てもまだ時間があったから、ふたりで観覧車にのったんだ」
「うん」
あのとき考えた計画どおりだ。
観覧車なら、ふたりっきりで、だれにもジャマされない。
きれいな景色をながめながら、とてもロマンチックな告白になるはずだった。
「あずさは、知っていたのか?」
「……うん」
わたしは正直に話す。
わたしが計画し、コウタくんに協力してもらったことも。
「あずさは、オレが如月と付き合えばいいと思ったのか?」
「うん、そうだよ」
わたしの言葉に、カケルは深くため息をついた。
「オレの気持ちは、考えてくれなかったのか?」
「……だって、カケルもやよいちゃんのことが好きだって言ってたし、ふたりが両想いなら――」
「――なんだって! オレがいつそんなこと言った!」
「小学5年生のときにふたりでやった罰ゲームで……」
「あっ……!!」
カケルがギリッと歯をかみしめた。
驚いたような、くやしそうな、怒っていそうな、そんな顔。
「あんなくだらないこと、まだ覚えていたのかよ!」
「そんな……」
(くだらなくなんてない! カケルは、まさか忘れてたの?)
そう言いたいけど、そんなことを言えるフンイキではない。
……言う権利もない。
わたしにとっては、はじめての失恋で大事件だったけど、カケルにとっては、ムリヤリ好きな子を言わせられた、イヤな思い出でしかないのだから。
「……今のオレは、他に好きなやつがいるし」
「え、だれ?」
わたしは驚いて聞き返す。
でも、カケルは質問にはこたえず、わたしのことをにらみつけ、
「もういい……、おまえには、関係ない」
と言い捨てた。
そしてクルりとわたしに背を向けると、全速力で走りだした。
「あっ……」
わたしも追いかけようかと考えたけど、カケルに追いつけるわけがない。
小さくなるカケルの背中を、見送ることしかできなかった。
すぐにカケルの姿は、道のはるか向こうへと消えてしまう。
それからわたしは、家に向かって歩こうとする気にならず、そばにあった石の階段に座って、ボーッと川をながめ、今日のできごとを考えた。
やよいちゃんとカケルは両想いだと思っていたけど、実際にはちがっていたようだ。
あのころとカケルの気持ちが変わっているなんて、まったく考えなかったよ。
(いや、ウソだ!)
本当はその可能性もちょっぴりあるかもしれないと考えていたけど、確認する勇気がなかっただけ。
だって……。
カケルの口からもういちど、やよいちゃんのことが好きだと聞いてしまったら、わたしはあのときと同じく、失恋した気分を味わってしまう。
カケルの前で涙をこらえる自信が、まったくない。
とっくにあきらめたはずなのに、わたしはまだ、カケルのことが好きだという気持ちを捨てきれていない。
ひょっとして……、ひょっとしてだよ。
あのときとカケルの気持ちが変わっていて、わたしのことを好きだと言ってくれるかもしれない。
そんな都合のいい妄想をしたことも、何度かある。
でも、そんなことがあったとしても、つらいだけだよね。
やよいちゃんを裏切って、カケルと付き合えるわけがない。
だからわたしは、さっさとふたりに幸せなカップルになってもらい、わたしの初恋を終わらせてほしいと願っていたんだ。
そんな自分勝手な気持ちで、やよいちゃんの初恋が叶うように協力し、コウタくんを巻きこんで傷つけてしまった。
カケルもやよいちゃんの告白を断って傷ついた。
みんなで幸せになる、一番いい方法を選んだはずなのに。
わたしは……完全にまちがってしまった。
こんなことになるのなら、こないだわたしの部屋でふたりっきりになったときに、それとなく、カケルの気持ちを聞いておくべきだった。
そんなどうしようもない後悔ばかりが、頭に浮かんでくる。
(カケルの今の好きな人ってだれだろう?)
教室ではわたしたち以外の女子と話している姿を見ないから、部活関係で知り合った子がいるのかもしれない。
(わたしには関係ない……か)
カケルの拒絶の言葉が、胸に深くつきささった。
川の水面が急にぼやけて見える。
目が熱くなって、涙があふれてくるのを感じた。
あわてて目をこすって空を見上げると、空から水滴がポツリポツリと。
すぐに、ザーッと、はげしくふってきた。
わたしは雨やどりをせずに、しばらくそのまま、灰色の空をながめていた。
*
家に帰ると、雨にずぶぬれになっていたことをお母さんに怒られ、風呂に放りこまれた。
でも、雨が涙を洗い流してくれて、泣いていたことには気づかれなかったみたい。
ラッキーだったよね、あははははっ。
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