初恋迷路

稲葉海三

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7.交錯する想い

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「体育祭のときからね。やよいはずっと、カケルの話ばっかりしてくるんだ。いじめっ子から助けてくれたのが、よっぽどうれしかったみたいだ。きっとあれが、やよいの初恋だったんだろうね」

 コウタくんは苦笑しながら、やよいちゃんのことを話す。

「うまくいくといいね」

 ふたりは両想いだから、うまくいくに決まってるけどね。

「あずさちゃんは、ホントにそう思ってる?」

 コウタくんのいつものやわらかなフンイキが、一変する。
 わたしのことを、射るようなするどい視線でにらんできた。
 わたしは背中に氷を入れられたように、ビクッとなってしまった。

(こ、こわい……)

 なに?
 どうかしたの?
 わたし、何かまずいこと言っちゃったかな?

 コウタくんを怒らせた原因がわからずに、あわあわとあせってしまった。

「……ごめんなさい。わたし……」
「ああっ、いや。こっちこそ、ごめんね。あずさちゃんは何も悪くない」
「う、うん……?」

 コウタくんは、すぐにいつものやわらかなフンイキにもどった。

 今のは、なんだったんだろう?
 気のせい?

 でも、コウタくんのつづけた言葉で、わたしはガツンと頭をたたかれたような衝撃をうけた。

「体育祭の話を聞いたとき思ったよ……。なんで、あのとき、あの場所に……ぼくはいなかったんだろう? ってね」

 コウタくんは、つらそうな表情で言った。
 その表情を見て、すべてわかってしまった。

(わたしは……バカだ!)

 どうして、コウタくんの気持ちについて、いちども考えなかったんだろう。
 やよいちゃんとコウタくんは、わたしとカケルみたいな関係だって知ってたのに。

 わたしがカケルを好きになったように、コウタくんだって……。

 何か言おうとしたけど、のどがカラカラで、あわててミルクティーを口にふくんだ。
 さっきまで、あれほど甘かったミルクティーなのに……何も味がしなかった。

「カケルのことが好きになったとやよいに聞かされて……。はじめてぼくは、やよいのことが好きだと気づいたよ。あのときに、体育委員だからって仕事を押しつけてきた、若松先生をうらんだことまである」

 自嘲気味に話すコウタくんに、わたしはかける言葉が見つからない。
 いつも、トラブルがあれば真っ先に解決してくれるコウタくん。

 たまたま、あの場にいなくて。
 たまたま、やよいちゃんがクラスの女子にいじめられて。
 たまたま、カケルが助けた。

 これが運命というなら、神様はものすごく意地悪だ。
 コウタくんは今まで、自分の好きという気持ちを押し殺して、笑顔で協力してくれていたんだ。

 ……わたしはなんて、ひどいことをしていたのだろう。
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