初恋迷路

稲葉海三

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6.やよいちゃんの決意

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 教室を片づけて解散したら、久々にカケルといっしょに帰る。
 わたしたちは夕暮れの道を、おしゃべりしながら、ならんで歩いた。

「でさ、お父さんは『腰がイタいから、今日はムリ』とか言いだすんだよ」

 お父さんが作ってくれるはずだった組み立て式の本棚が、部屋のすみに積まれたままなのを、わたしはカケルにぐちっていた。
 お父さんは休みの日になると、言い訳をするんだよね。
 買うときは「まかせろ!」と胸をたたいていたのにさ。

「わかった。オレが作ってやる」
「えっ、なんで? いいよ。そんなつもりで言ったんじゃないし」
「いいから! 夕飯まで30分くらいなら時間あるな、急ぐぞ!」
「ちょっと、待ってよ、ねえ……」

 ただの雑談のつもりだったのに……。なぜかわたしの部屋で、本棚の組み立てをすることになってしまった。

(そういうやさしさは、やよいちゃんに向けろっての!)

   *

 わたしの部屋で、カケルが本棚の組み立てをはじめて、15分ぐらいがたった。
 ピンク色の板を組み合わせていくうちに、だんだん、本棚らしくなってきた。
 わたしも手伝おうとしたけど、ジャマにしかならなくて……。
 今は大人しく見ていて、ドライバーやネジなどの道具を手わたすだけにしていた。

 カケルは真剣な表情でネジをしめながら、話しかけてきた。

「今日の如月のクッキーさ」
「おいしかったでしょ」
「ああ、うまかったが……、あずさの味がしたな」
「えっ!」
「かなり前だけど、あずさが作ってきたじゃん」

 …………あっ、覚えていたんだ! もう、ずっと昔のことなのに!

 覚えたてのアイスボックスクッキーのレシピで、一生懸命作って、カケルにごちそうしたんだ。
 あのときのカケルは「うまい! うまい!」とよろこびながら、食べてくれた。

「……よく覚えていたね。わたしがやよいちゃんにレシピを教えたんだ。ただ、今日のクッキーは、やよいちゃんひとりで作って、わたしはまったく手伝ってないよ。まさか、サッカーボールを作ってくるとは思わなかったな」
「あれは、よくできてたな。すげえな如月は」
「うん、やよいちゃんはすごいんだよ」

 ……やっぱり、カケルを部屋に連れてきちゃダメだね。

 お菓子の味を覚えてくれていたってだけで、わたしの心はどうしようもなく、はずんでしまう。
 そのあとに必ず、さびしくなってしまうだけなのに……。

「……あのさ、カケル」
「んっ?」
「これからはね。あんまり気軽に部屋にきてほしくないんだ。わたしたち、もう、小さな子供じゃないんだよ? こうやって、ふたりで部屋にいるのは、よくないよ」

 つい、早口になってしまう。
 カケルを拒絶するような言葉を口にだすのは、つらい……。
 カケルが顔をそらしながら「そうだな」とつぶやいた。

「あずさが迷惑に感じるなら、これからはもう、こないようにする」
「うん、ごめんね。カケルがキラいとかそういうわけじゃないから」
「ああ、わかってる」

 素直にうなずいてくれて、ホッとした。
 カケルとは気まずい関係にはなりたくない。
 ずっと仲のいい幼なじみでいたいから。
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