初恋迷路

稲葉海三

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6.やよいちゃんの決意

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「そろそろかな?」
「コウタからの連絡だと、もうすぐみたい」

 やよいちゃんがスマホを確認して言った(わたしは持ってないんだ)。
 その言葉通りに、すぐに入り口の扉がガラッとひらいた。

「きたよー」
「うまいもん、食わせてくれるんだって?」

 八代くんとカケルが、さわがしく教室に入ってくる。

 わたしは入り口に駆けていって、

「へいらっしゃい! 2名さま、ごあんな~い!」

 と、さっきまでの暗い気分をふきとばすように、おどけてみせる。

「すし屋かよ!」
「あはははっ。桜井さん、おもしろい!」

 カケルにつっこまれ、八代くんは笑ってくれた。

「これ全部、如月が作ったのか? すっげー!」
「そう、わたしは何もやってないよ。やよいちゃんが、全部作ってきたんだ」
「やるねー、やよい。店で売っててもおかしくないよ」
「そんな、大したものじゃないわ」

 みんなにほめられて、やよいちゃんは照れている。

「しかしこのサッカーボール、よくできてるな」

 予想通り、カケルはサッカーボールに感心している。
 食べる前に手にとって、じっくりとながめていた。

「それ、あずさにほめてもらった自信作なんだ。味はどうかな? 日向くんの口に合うといいけど……」

 やよいちゃんにじっと見つめられ、カケルはクッキーを口の中に入れる。

 そして、ひとくち味わうと、驚きに目を見ひらいた。

「どうかな?」
「……あ、ああ、すげーうまい」

 やよいちゃんから不安げな表情が消えて、パッと笑みがひろがる。

「ふふっ、よかった。余らせても困るから、遠慮なく全部食べてね」
「おうっ、サンキュー」

 部活でお腹が空くのは本当みたいで、カケルと八代くんは大量にあるクッキーをいきおいよく食べていく。
 やよいちゃんはその光景を、うれしそうにながめていた。
 作ったものをよろこんで食べてもらうのって、いちばん幸せな時間なんだよね。
 ましてや、それが好きな人だったらさ。
 山岸先輩の作戦が、大当たりだ。


 しばらくすると、大量にあったクッキーは、カケルと八代くんが中心となって、すべて食べつくした。
 カケルは満足そうにお腹をさすっている。

 さてここからは、わたしの出番である。
 みんなが食べ終わったタイミングを見計らって、わたしはパンパンと手をたたく。

「さてみなさん、ちゅうも~く! なんと今日は、これだけではございません!」
「なんだ?」

 カケルが、不思議そうな顔をした。
 わたしはやよいちゃんに借りていたチケットを、みんなに向かって見せた。

「なんと、やよいちゃんのお父さんが、『若宮ファンタジーランド』のチケットを全員分もらってきてくれましたー。今度の休みに、みんなで行かない? 行こうよ! はい、決定!」
「桜井さん、強引だね。うん、だけど、ぼくは賛成! 行きたい!」

 八代くんは苦笑しながらも、ナイスなアシストをしてくれる。
 あとはカケルだが……。

「部活の休みの日なら行きたいけど……、オレが参加していいのか?」

(あんたが参加しないと意味ないでしょうが!)

 とわたしは心の中で全力でつっこむ。

「うちの両親は遊園地に興味ないから、このままだとチケットがむだになってしまうの。日向くんもよかったら、参加してくれないかな?」
「そうか。そういうことなら、オレも行きたい! ありがとな」
「どういたしまして!」

 クッキーでいい感じになったし、遊園地にもさそえた。

 大成功だよ!
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