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5.おかしな先輩
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「あずさちゃんに、やよいちゃんに、コウタくんだね。よろしく!」
山岸先輩は、わたしたちの名前を呼びながら、笑いかけてきた。
いきなり下の名前で呼ばれたけど、それが自然で、イヤな感じはしなかった。
放送部なだけあって、よく通るいい声をしている。
男の人みたいな話し方も、なんだかカッコいい。
出会ったばかりだけど、わたしは山岸先輩が、ちょっと好きになってきたかも。
この先輩なら、きっと、ステキなアドバイスをくれるような予感がした。
「それで、片想いの相手をふり向かせる方法でいいのかな?」
「はい」
本当は、やよいちゃんとカケルは両想いだけど……。
それはわたしの中だけの秘密という、ややこしい状況である。
「まず、はじめに言っておくと、恋愛にぜったい成功する方法なんてないよ。そんなものがあるのなら、だれも悩んだりしないんだ。わたしにできるのは、ちょっとしたアドバイスだけ」
「そうですか……」
山岸先輩の言葉に、少しだけ、がっかりしてしまう。
(まあ、そんな都合のいい話があるわけないよね……)
「でも、セオリーというのはあるんだ。まずはきっかけを作らないとはじまらない。男の子相手だと、『胃袋をつかむ』という方法が有効だろうね」
山岸先輩は、八代くんのほうを見た。
「コウタくん、部活が終わると、お腹が空かないかね?」
「あ、はい。すっごくお腹が空くんで、カケルとコンビニに寄って、買い食いすることはあります」
「そうだろ。運動したあとは、お腹が空くに決まってる。特に男の子の食欲はすごいからねー」
ちょっと意外である。
カケルはともかく、まじめな八代くんが校則違反の買い食いをしていたとは……。
やよいちゃんの眉がピクリと動くが、口をはさむことはない。
山岸先輩の話が気になるから、ジャマしたくないんだろうね。
「そこで、練習終わりにお菓子を持ってきてくれる子がいたら、ありがたいと思わないかね?」
八代くんは少し考えて、コクコクとうなずく。
「ええ、すっごくうれしいです。さすがに、それだけで好きになるとは思いませんけど、いい方法だと思います。ぼくが部活終わりに、カケルを連れてくればいいか。やよい、差し入れのお菓子を作れるかい?」
「うーん、わたし、お菓子とかあんまり作ったことなくて……」
「それなら大丈夫! わたしが手伝うよ!」
カケルの好きそうなお菓子を、やよいちゃんと作ればいい。
やっと、わたしが協力できそうなことなので、気合いが入る。
「本当!? なら、やってみようかな」
やよいちゃんも、やる気になったようだ。
「男の子と仲よくなるコツは、おいしいものを食べさせてあげて、いっぱいおしゃべりすることさ。がんばってね」
「どうして……。山岸先輩は、アドバイスしてくれようと思ったんですか?」
わざわざ立ち聞きしてたことを正直に言って、下級生の恋バナなんかに参加する必要はない。
話を聞いて、そのまま立ち去ってもよかったのに、不思議だった。
「お礼だよ」
「……えっと、どういうことですか? わたしたち、なにもしていませんけど」
山岸先輩は、フッと小さくほほえむ。
「秋の若宮祭が、わたしにとって、放送部での最後の仕事になる。どんな企画にしようかずっと悩んでいたのだが、君たちの話を聞いているうちに、すばらしいテーマを思いついた」
「なにをするんですか?」
「まだ秘密だけど、恋に悩む男女の背中を押してあげるような……。みんなの思いでに残る企画にしたいと思う。ぜひ、楽しみにしてくれたまえ! ハッハッハ」
そう言って、山岸先輩は豪快に笑ったが、壁の時計を見ると顔色が変わる。
「おっと、いかん! そろそろ行かないと副部長が怖い。それじゃね、バイバイ」
「「「ありがとうございました!!」」」
あいさつもそこそこに、急いで教室から出ていく山岸先輩に、わたしたちはあわててお礼を言う。
おかしな先輩だったけど、おもしろい人だった。
アドバイスも助かったしね。
今年の文化祭は、放送部の企画をぜったいに見のがさないようにしよう。
山岸先輩は、わたしたちの名前を呼びながら、笑いかけてきた。
いきなり下の名前で呼ばれたけど、それが自然で、イヤな感じはしなかった。
放送部なだけあって、よく通るいい声をしている。
男の人みたいな話し方も、なんだかカッコいい。
出会ったばかりだけど、わたしは山岸先輩が、ちょっと好きになってきたかも。
この先輩なら、きっと、ステキなアドバイスをくれるような予感がした。
「それで、片想いの相手をふり向かせる方法でいいのかな?」
「はい」
本当は、やよいちゃんとカケルは両想いだけど……。
それはわたしの中だけの秘密という、ややこしい状況である。
「まず、はじめに言っておくと、恋愛にぜったい成功する方法なんてないよ。そんなものがあるのなら、だれも悩んだりしないんだ。わたしにできるのは、ちょっとしたアドバイスだけ」
「そうですか……」
山岸先輩の言葉に、少しだけ、がっかりしてしまう。
(まあ、そんな都合のいい話があるわけないよね……)
「でも、セオリーというのはあるんだ。まずはきっかけを作らないとはじまらない。男の子相手だと、『胃袋をつかむ』という方法が有効だろうね」
山岸先輩は、八代くんのほうを見た。
「コウタくん、部活が終わると、お腹が空かないかね?」
「あ、はい。すっごくお腹が空くんで、カケルとコンビニに寄って、買い食いすることはあります」
「そうだろ。運動したあとは、お腹が空くに決まってる。特に男の子の食欲はすごいからねー」
ちょっと意外である。
カケルはともかく、まじめな八代くんが校則違反の買い食いをしていたとは……。
やよいちゃんの眉がピクリと動くが、口をはさむことはない。
山岸先輩の話が気になるから、ジャマしたくないんだろうね。
「そこで、練習終わりにお菓子を持ってきてくれる子がいたら、ありがたいと思わないかね?」
八代くんは少し考えて、コクコクとうなずく。
「ええ、すっごくうれしいです。さすがに、それだけで好きになるとは思いませんけど、いい方法だと思います。ぼくが部活終わりに、カケルを連れてくればいいか。やよい、差し入れのお菓子を作れるかい?」
「うーん、わたし、お菓子とかあんまり作ったことなくて……」
「それなら大丈夫! わたしが手伝うよ!」
カケルの好きそうなお菓子を、やよいちゃんと作ればいい。
やっと、わたしが協力できそうなことなので、気合いが入る。
「本当!? なら、やってみようかな」
やよいちゃんも、やる気になったようだ。
「男の子と仲よくなるコツは、おいしいものを食べさせてあげて、いっぱいおしゃべりすることさ。がんばってね」
「どうして……。山岸先輩は、アドバイスしてくれようと思ったんですか?」
わざわざ立ち聞きしてたことを正直に言って、下級生の恋バナなんかに参加する必要はない。
話を聞いて、そのまま立ち去ってもよかったのに、不思議だった。
「お礼だよ」
「……えっと、どういうことですか? わたしたち、なにもしていませんけど」
山岸先輩は、フッと小さくほほえむ。
「秋の若宮祭が、わたしにとって、放送部での最後の仕事になる。どんな企画にしようかずっと悩んでいたのだが、君たちの話を聞いているうちに、すばらしいテーマを思いついた」
「なにをするんですか?」
「まだ秘密だけど、恋に悩む男女の背中を押してあげるような……。みんなの思いでに残る企画にしたいと思う。ぜひ、楽しみにしてくれたまえ! ハッハッハ」
そう言って、山岸先輩は豪快に笑ったが、壁の時計を見ると顔色が変わる。
「おっと、いかん! そろそろ行かないと副部長が怖い。それじゃね、バイバイ」
「「「ありがとうございました!!」」」
あいさつもそこそこに、急いで教室から出ていく山岸先輩に、わたしたちはあわててお礼を言う。
おかしな先輩だったけど、おもしろい人だった。
アドバイスも助かったしね。
今年の文化祭は、放送部の企画をぜったいに見のがさないようにしよう。
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