初恋迷路

稲葉海三

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4.やよいちゃんの初恋

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「八代くんは?」
「あいつは体育委員だから、先生に呼ばれちまった。選抜リレーまでには、もどってくるだろ」
「そうなんだ。あ、もうすぐやよいちゃんの出番だ」
「如月は緊張してそうだな」

 順番待ちしている子たちの中で、どことなく不安そうな顔をしている。
 声をかけてあげたいけど、キョリがありすぎて、ここからだとムリ。

「優勝をねらうとか、悪いことを言っちまったかな」

 カケルはバツが悪そうに、頭をかく。

「あれっ、優勝をねらってたんじゃないの?」
「そうだけど。優勝をねらって全力でがんばれば楽しいってだけで、結果はどうでもいいんだ」
「そうだったんだ」

 なんだか急に、カケルが大人っぽくなったような……。
 やっぱり兄弟なのか、どことなくカズトさんにフンイキが似てきた気がする。

「やよいちゃん、がんばれー!」

 聞こえるかわからないけど、近くを通ったときに、わたしは声援を送った。
 やよいちゃんはバトンを受けとったときのまま、2位をキープして走っている。

(ぜんぜん、足なんか引っぱってないし……すごいよ!) 

 体育の時間のときよりもはるかに速い。きっとゲンカイまで全力で走っているんだろう。
 こんなにがんばってるやよいちゃんなんて、はじめて見たかもしれない。
 次の子にバトンをわたすまで、あと少し。
 がんばって! とわたしが心の中で応援したときだった。

「あっ!」

 あとちょっとのところで、やよいちゃんが転んでしまった。
 あわてて立ち上がったけど、足をイタそうに引きずっている。
 ゴールをしたときには、5位くらいになっちゃったけど、そんなことはどうでもいい。
 わたしはすぐに、やよいちゃんのところまで行こうとした。
 だけどわたしたちがいたのは、コースの反対側だし、人が多いのですぐにはいけない。

(もどかしい……)

 すると、カケルがわたしの横を風のようにかけぬけていく。
 人ごみの間をぬうように、やよいちゃんのもとへと。
 遠くに見えるやよいちゃんは、クラスの女子たちに囲まれていた。
 以前、カケルとトラブルになった3人組だ。
 ケガの心配をしている様子ではない。
 やよいちゃんがうつむいて、泣きそうになっている。

(あいつら、なにしてんのよ!)

 そこに、カケルが割って入った。
 ここからじゃ聞こえないけど、大きな声でしかったみたい。
 3人組の女子はシュンとしてる(ザマーミロ)。
 ナイスだ、カケル! と思ったところで、頭がすっと冷えた。

 やよいちゃんの肩を抱いて連れていくカケル……。
 まるでドラマのワンシーンのようだ。
 もちろん、主役はカケルで、ヒロインはやよいちゃん。
 わたしはそのドラマの脇役でしかなく……。
 それを望んでいたはずなのに、それがとてもさびしくて。

(……ううん、ダメ)

 わたしの恋は、決して実ることはないのだけど。
 ふたりが幸せなカップルになれるようにがんばるって決めたのは、わたしじゃん!
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