初恋迷路

稲葉海三

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4.やよいちゃんの初恋

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 午前中の競技は無難に終わり、午後の2つ目の競技である借り物競走がスタートした。

「うちのクラスの得点は、どうなってるのかな?」
「さっきの大玉転がしで2位になったわね」
「へー、ホントに優勝をねらえそうじゃん」

 まだ得点が掲示板で発表されてないけど、やよいちゃんが頭の中で計算して教えてくれる。
 借り物競走はカケルが参加しているから、やよいちゃんとならんで観戦していた。

「日向くんって、足がすごく速いよね」
「うん、昔からそうなんだ」

 足の速さなら、サッカーのチームでいちばんだった。
 カケルはだれよりも速く、お題が置いてある場所にいき、箱に手を入れる。
 そして、お題の紙をとりだすと、いきおいよくひらいた。

「…………!」

 そこで、カケルの動きがとまった。
 眉にしわを寄せて、目をパチパチしている。
 あれは、困っているときの顔だ。
 借り物競走は、足が速いだけでは勝てない。
 運が悪く、むずかしいお題を引いてしまうと大変なのだ。

(いったい、なにが書いてあったのだろう?)

 カケルは自信なさげな顔で観客席をキョロキョロと見回していたが、わたしたちと目があうと、ハッとした顔をした。
 そしてこっちに向かって、一直線に走ってくる。

「あ、日向くんが来るよ! あずさの持ちものじゃない?」
「わっ、わっ、なんだろ? ヘアゴムとかかな?」

 お題になったものを、急いでわたさないと不利になる。
 わたしはカケルになんでもわたせるように、準備をしていると、

「如月、すぐに来てくれ!」

 とやよいちゃんの手をとる。

「えっ、えっ!」
「いいから、すぐに!」

 そう言うと、カケルはやよいちゃんの手を引っぱって、走りだした。
 わたしには、目もくれない……。

(やよいちゃんがピッタリのお題だったのかな?)

 頭がいい子とか。
 身がまえていたのにポツンととりのこされて、ちょっとだけ、さびしい気分になる。
 カケルたちはすぐにゴールにたどりついたが、借り物競争は、これで終わりではない。
 審判がお題をチェックして、合格する必要がある。
 ゴール前で審判をしていた生徒が、カケルから紙を受けとって、お題を読み上げた。

「えーと、お題は、『メガネをかけた、かわいい女の子』でした。この子なら、文句なしの合格です! 1位は5組で確定となりました!」

 ゴール近くで観戦していた生徒たちが、ワッと盛り上がった。
 やよいちゃんが恥ずかしそうに、モジモジとしている。
 どうやら、体育委員の人たちが、悪ノリして作ったお題だったみたい。

(これはあとで、先生たちから大目玉を食らいそう……)

 全員の順位が確定して1位の得点が入り、カケルたちは手をとりあってよろこんでいる。
 その姿は、初々しいカップルのようで、とってもお似合いで……。
 わたしはつい、目をそらしてしまった。
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