初恋迷路

稲葉海三

文字の大きさ
上 下
11 / 35
4.やよいちゃんの初恋

2

しおりを挟む
 午前中の競技は無難に終わり、午後の2つ目の競技である借り物競走がスタートした。

「うちのクラスの得点は、どうなってるのかな?」
「さっきの大玉転がしで2位になったわね」
「へー、ホントに優勝をねらえそうじゃん」

 まだ得点が掲示板で発表されてないけど、やよいちゃんが頭の中で計算して教えてくれる。
 借り物競走はカケルが参加しているから、やよいちゃんとならんで観戦していた。

「日向くんって、足がすごく速いよね」
「うん、昔からそうなんだ」

 足の速さなら、サッカーのチームでいちばんだった。
 カケルはだれよりも速く、お題が置いてある場所にいき、箱に手を入れる。
 そして、お題の紙をとりだすと、いきおいよくひらいた。

「…………!」

 そこで、カケルの動きがとまった。
 眉にしわを寄せて、目をパチパチしている。
 あれは、困っているときの顔だ。
 借り物競走は、足が速いだけでは勝てない。
 運が悪く、むずかしいお題を引いてしまうと大変なのだ。

(いったい、なにが書いてあったのだろう?)

 カケルは自信なさげな顔で観客席をキョロキョロと見回していたが、わたしたちと目があうと、ハッとした顔をした。
 そしてこっちに向かって、一直線に走ってくる。

「あ、日向くんが来るよ! あずさの持ちものじゃない?」
「わっ、わっ、なんだろ? ヘアゴムとかかな?」

 お題になったものを、急いでわたさないと不利になる。
 わたしはカケルになんでもわたせるように、準備をしていると、

「如月、すぐに来てくれ!」

 とやよいちゃんの手をとる。

「えっ、えっ!」
「いいから、すぐに!」

 そう言うと、カケルはやよいちゃんの手を引っぱって、走りだした。
 わたしには、目もくれない……。

(やよいちゃんがピッタリのお題だったのかな?)

 頭がいい子とか。
 身がまえていたのにポツンととりのこされて、ちょっとだけ、さびしい気分になる。
 カケルたちはすぐにゴールにたどりついたが、借り物競争は、これで終わりではない。
 審判がお題をチェックして、合格する必要がある。
 ゴール前で審判をしていた生徒が、カケルから紙を受けとって、お題を読み上げた。

「えーと、お題は、『メガネをかけた、かわいい女の子』でした。この子なら、文句なしの合格です! 1位は5組で確定となりました!」

 ゴール近くで観戦していた生徒たちが、ワッと盛り上がった。
 やよいちゃんが恥ずかしそうに、モジモジとしている。
 どうやら、体育委員の人たちが、悪ノリして作ったお題だったみたい。

(これはあとで、先生たちから大目玉を食らいそう……)

 全員の順位が確定して1位の得点が入り、カケルたちは手をとりあってよろこんでいる。
 その姿は、初々しいカップルのようで、とってもお似合いで……。
 わたしはつい、目をそらしてしまった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

王女様は美しくわらいました

トネリコ
児童書・童話
   無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。  それはそれは美しい笑みでした。  「お前程の悪女はおるまいよ」  王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。  きたいの悪女は処刑されました 解説版

お姫様の願い事

月詠世理
児童書・童話
赤子が生まれた時に母親は亡くなってしまった。赤子は実の父親から嫌われてしまう。そのため、赤子は血の繋がらない女に育てられた。 決められた期限は十年。十歳になった女の子は母親代わりに連れられて城に行くことになった。女の子の実の父親のもとへ——。女の子はさいごに何を願うのだろうか。

悪女の死んだ国

神々廻
児童書・童話
ある日、民から恨まれていた悪女が死んだ。しかし、悪女がいなくなってからすぐに国は植民地になってしまった。実は悪女は民を1番に考えていた。 悪女は何を思い生きたのか。悪女は後世に何を残したのか......... 2話完結 1/14に2話の内容を増やしました

友梨奈さまの言う通り

西羽咲 花月
児童書・童話
「友梨奈さまの言う通り」 この学校にはどんな病でも治してしまう神様のような生徒がいるらしい だけど力はそれだけじゃなかった その生徒は治した病気を再び本人に戻す力も持っていた……

理想の王妃様

青空一夏
児童書・童話
公爵令嬢イライザはフィリップ第一王子とうまれたときから婚約している。 王子は幼いときから、面倒なことはイザベルにやらせていた。 王になっても、それは変わらず‥‥側妃とわがまま遊び放題! で、そんな二人がどーなったか? ざまぁ?ありです。 お気楽にお読みください。

ローズお姉さまのドレス

有沢真尋
児童書・童話
最近のルイーゼは少しおかしい。 いつも丈の合わない、ローズお姉さまのドレスを着ている。 話し方もお姉さまそっくり。 わたしと同じ年なのに、ずいぶん年上のように振舞う。 表紙はかんたん表紙メーカーさまで作成

きたいの悪女は処刑されました

トネリコ
児童書・童話
 悪女は処刑されました。  国は益々栄えました。  おめでとう。おめでとう。  おしまい。

処理中です...