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10.想いのたどりつく場所
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ちこく、ちこくしちゃうよ~!
わたしは集合場所の公園に向かって、急いでいた。
もう夕方だってのに、空気が生あたたかい。昼すぎまで降っていた雨のせいで、湿気が多くてジメジメしていた。
……ああ、もう、歩きにくい!
雨上がりのぬれた道を、履き慣れない草履で歩いているので、スピードを出すわけにもいかない。走りでもしたら、浴衣の裾が、グショグショに汚れてしまう。
チラッと空を見上げると、まだ日が沈むまでは時間がありそう。あたりの草むらには、名前のわからない虫たちが、ジージーと鳴いていた。
どうやら、本格的な夏がやってきたようだ。
公園の入り口まで来たところで腕時計を確認すると、時間はギリギリセーフ。
わたしはホッと胸をなでおろしながら公園に入った。
約束の場所に決めていたのは、公園の奥にある見晴らし台のあたり。早足で向かうと、すでにやよいちゃんがいた。
やよいちゃんはわたしに気付くと、ニコッと笑って手を振る。アサガオ柄の袖がゆれて、花畑のように広がった。紺色の浴衣姿が大人っぽくて、よく似合っていた。
「うわぁ、やよいちゃんの浴衣、とってもきれいだね!」
「ありがとう! あずさの浴衣もかわいいわよ!」
お互いの浴衣をほめて、笑い合った。
ピーヒャラピーヒャラ、トントントン。
この公園まで来ると、祭り囃子の音が、はっきりと聞こえてくる。
今日はこの近くの神社で、夏祭りをやっているのだ。
「他の二人はまだなの?」
カケルとコウタくんのことは、やよいちゃんが呼んでくれていたはずだ。わたしがギリギリなのに二人がいないってことは、遅刻なのかな? カケルはともかく、コウタくんが遅れるとはめずらしい。
今日ここに集まるのは、みんなで夏祭りに行こう、とやよいちゃんが誘ってくれたからだ。4人で集まろうとするのは、遊園地以来である。うれしい気持ちはあったのだけど、同時にすごく不安だった。わたしとカケルは、遊園地の帰り以来、まともにしゃべってはいないから……。
今日いっしょに遊ぶことで、元通りになればいいんだけど……。
いや、絶対に元の幼なじみになるんだ! がんばれわたし!! ファイト、オー!!!
気合いを入れていたら、やよいちゃんが、
「ああ、あの二人なら、しばらく来ないわよ。集合時間をわざと遅く伝えといたから」
とあっさりした口調で言った。
わたしはびっくりして、「なんでそんなことを?」とたずねようとして、息をのむ。やよいちゃんが、すっごく真剣な顔をしていたから。
「少しだけ、あずさと二人で話したかったの」
そう言って、やよいちゃんはクルッとフェンスの方に、体の向きを変える。
わたしは何も言わずに、ゆっくりと、やよいちゃんのとなりに並んだ。やよいちゃんが何を話したいのか気になるけど、急かすことはしない。フェンスの向こうには、夕暮れの街が広がっていた。ここは昔から、わたしたちのお気に入りの場所なんだ。
しばらく、いっしょに景色を眺めていると、やよいちゃんが口を開いた。
「……わたしさ、コウタと付き合おうと思うんだ」
「えぇええええっ!」
やよいちゃんの爆弾発言に、大声を上げてしまった。
「驚きすぎよ、あずさ」
やよいちゃんが苦笑するけど……、だって、だって!
こんなの驚くなってのが、無理に決まってるじゃん!
しばらく驚きで頭がグルグルしてたけど、今度はうれしい気持ちがこみ上げてきた。
「日向くんにフラれたばっかで、もうちがう人と付き合おうなんて、いい加減だと思う?」
やよいちゃんは不安げにゆれる目で見てくるけど、わたしはとびっきりの笑顔でこたえた。
「思うわけないじゃん! おめでとう、やよいちゃん!」
いい加減なわけがない!
やよいちゃんは、きっとすごく考えたんだと思う。わたしから見ても、すごくお似合いの二人だし、きっと上手くいくはず。
おめでとう、コウタくん!
コウタくんの長年の想いが伝わったってことだもん。こんなにおめでたいことはないよ。
「ありがとう、あずさ。それでね、コウタとは別の場所で約束してるんだ。だから、あずさは、日向くんと二人で、今夜のお祭りを楽しんでね♪」
「ええっ!」
……そりゃ、付き合ったというのなら、コウタくんと二人でお祭りを楽しみたいってのはわかるよ。でも、突然こんな勝手なことを言うなんて、やよいちゃんらしくない。
わたしが困ったようにやよいちゃんを見たら、両手をギュッとにぎられた。
「初めての恋で浮かれて、初めての失恋で落ちこんで……。こないだまでのわたしは、周りがまったく見えなくなってた。あずさにもいっぱい迷惑かけちゃって、本当にごめんなさい」
「そんな、やよいちゃんが謝ることなんて、何もないよ」
「ううん」
やよいちゃんは、ブンブンと首を振った。
「迷惑をかけたあずさに、わたしがしてあげられることってあるかな? って、ずっと考えてた」
そして、やよいちゃんは、わたしをまっすぐ見て言った。
「勝手なことしてごめんなさい。でも、あずさには、日向くんと二人っきりで話す機会が必要だと思うの」
「そう言われても……」
わたしは、やよいちゃんから目をそらした。
やよいちゃんの言っていることは、わかる。
……でも、怖いんだ。
遊園地の帰り道に、カケルに拒絶されたことを、まだ、はっきりと覚えていた。
「わたし……みっともないことをいっぱいしちゃったけど、今回で一つだけわかったことがあるの。『大事なことは、言葉にしないと伝わらない』ってね。失恋して落ちこんでいても、あずさとコウタの本気の言葉は、わたしの心に響いたわ」
やよいちゃんが、わたしの手を、さらに力強くにぎりしめた。
「あずさは今まで、わたしに遠慮してたんじゃない? これからは、自分の心に、素直になってよ!」
その言葉を聞いて、確信した。おそらく、やよいちゃんは、わたしの気持ちに気付いている。コウタくんが言うわけはないから、おそらく、やよいちゃんが自分で気付いたんだろう。元気なやよいちゃんは、とんでもなく頭がいいしね。
「わかったよ。ありがとう、やよいちゃん!」
わたしも、やよいちゃんの手をにぎりかえして、お礼を言った。
やよいちゃんも、コウタくんも、勇気を出して気持ちを伝えたから、付き合うことになったはず。
わたしも、いつまでも逃げているわけにはいかない!
元の幼なじみに戻れればいいと思っていたけど。
……やっぱり、それだけじゃ、イヤだよ!
他に好きな子がいるって言ってたし、断られるかもしれないけど……。
何も伝えずには、あきらめられない!
わたしも勇気を出そうと思う。
カケルのことが、好きなのだから。
***
わたしは集合場所の公園に向かって、急いでいた。
もう夕方だってのに、空気が生あたたかい。昼すぎまで降っていた雨のせいで、湿気が多くてジメジメしていた。
……ああ、もう、歩きにくい!
雨上がりのぬれた道を、履き慣れない草履で歩いているので、スピードを出すわけにもいかない。走りでもしたら、浴衣の裾が、グショグショに汚れてしまう。
チラッと空を見上げると、まだ日が沈むまでは時間がありそう。あたりの草むらには、名前のわからない虫たちが、ジージーと鳴いていた。
どうやら、本格的な夏がやってきたようだ。
公園の入り口まで来たところで腕時計を確認すると、時間はギリギリセーフ。
わたしはホッと胸をなでおろしながら公園に入った。
約束の場所に決めていたのは、公園の奥にある見晴らし台のあたり。早足で向かうと、すでにやよいちゃんがいた。
やよいちゃんはわたしに気付くと、ニコッと笑って手を振る。アサガオ柄の袖がゆれて、花畑のように広がった。紺色の浴衣姿が大人っぽくて、よく似合っていた。
「うわぁ、やよいちゃんの浴衣、とってもきれいだね!」
「ありがとう! あずさの浴衣もかわいいわよ!」
お互いの浴衣をほめて、笑い合った。
ピーヒャラピーヒャラ、トントントン。
この公園まで来ると、祭り囃子の音が、はっきりと聞こえてくる。
今日はこの近くの神社で、夏祭りをやっているのだ。
「他の二人はまだなの?」
カケルとコウタくんのことは、やよいちゃんが呼んでくれていたはずだ。わたしがギリギリなのに二人がいないってことは、遅刻なのかな? カケルはともかく、コウタくんが遅れるとはめずらしい。
今日ここに集まるのは、みんなで夏祭りに行こう、とやよいちゃんが誘ってくれたからだ。4人で集まろうとするのは、遊園地以来である。うれしい気持ちはあったのだけど、同時にすごく不安だった。わたしとカケルは、遊園地の帰り以来、まともにしゃべってはいないから……。
今日いっしょに遊ぶことで、元通りになればいいんだけど……。
いや、絶対に元の幼なじみになるんだ! がんばれわたし!! ファイト、オー!!!
気合いを入れていたら、やよいちゃんが、
「ああ、あの二人なら、しばらく来ないわよ。集合時間をわざと遅く伝えといたから」
とあっさりした口調で言った。
わたしはびっくりして、「なんでそんなことを?」とたずねようとして、息をのむ。やよいちゃんが、すっごく真剣な顔をしていたから。
「少しだけ、あずさと二人で話したかったの」
そう言って、やよいちゃんはクルッとフェンスの方に、体の向きを変える。
わたしは何も言わずに、ゆっくりと、やよいちゃんのとなりに並んだ。やよいちゃんが何を話したいのか気になるけど、急かすことはしない。フェンスの向こうには、夕暮れの街が広がっていた。ここは昔から、わたしたちのお気に入りの場所なんだ。
しばらく、いっしょに景色を眺めていると、やよいちゃんが口を開いた。
「……わたしさ、コウタと付き合おうと思うんだ」
「えぇええええっ!」
やよいちゃんの爆弾発言に、大声を上げてしまった。
「驚きすぎよ、あずさ」
やよいちゃんが苦笑するけど……、だって、だって!
こんなの驚くなってのが、無理に決まってるじゃん!
しばらく驚きで頭がグルグルしてたけど、今度はうれしい気持ちがこみ上げてきた。
「日向くんにフラれたばっかで、もうちがう人と付き合おうなんて、いい加減だと思う?」
やよいちゃんは不安げにゆれる目で見てくるけど、わたしはとびっきりの笑顔でこたえた。
「思うわけないじゃん! おめでとう、やよいちゃん!」
いい加減なわけがない!
やよいちゃんは、きっとすごく考えたんだと思う。わたしから見ても、すごくお似合いの二人だし、きっと上手くいくはず。
おめでとう、コウタくん!
コウタくんの長年の想いが伝わったってことだもん。こんなにおめでたいことはないよ。
「ありがとう、あずさ。それでね、コウタとは別の場所で約束してるんだ。だから、あずさは、日向くんと二人で、今夜のお祭りを楽しんでね♪」
「ええっ!」
……そりゃ、付き合ったというのなら、コウタくんと二人でお祭りを楽しみたいってのはわかるよ。でも、突然こんな勝手なことを言うなんて、やよいちゃんらしくない。
わたしが困ったようにやよいちゃんを見たら、両手をギュッとにぎられた。
「初めての恋で浮かれて、初めての失恋で落ちこんで……。こないだまでのわたしは、周りがまったく見えなくなってた。あずさにもいっぱい迷惑かけちゃって、本当にごめんなさい」
「そんな、やよいちゃんが謝ることなんて、何もないよ」
「ううん」
やよいちゃんは、ブンブンと首を振った。
「迷惑をかけたあずさに、わたしがしてあげられることってあるかな? って、ずっと考えてた」
そして、やよいちゃんは、わたしをまっすぐ見て言った。
「勝手なことしてごめんなさい。でも、あずさには、日向くんと二人っきりで話す機会が必要だと思うの」
「そう言われても……」
わたしは、やよいちゃんから目をそらした。
やよいちゃんの言っていることは、わかる。
……でも、怖いんだ。
遊園地の帰り道に、カケルに拒絶されたことを、まだ、はっきりと覚えていた。
「わたし……みっともないことをいっぱいしちゃったけど、今回で一つだけわかったことがあるの。『大事なことは、言葉にしないと伝わらない』ってね。失恋して落ちこんでいても、あずさとコウタの本気の言葉は、わたしの心に響いたわ」
やよいちゃんが、わたしの手を、さらに力強くにぎりしめた。
「あずさは今まで、わたしに遠慮してたんじゃない? これからは、自分の心に、素直になってよ!」
その言葉を聞いて、確信した。おそらく、やよいちゃんは、わたしの気持ちに気付いている。コウタくんが言うわけはないから、おそらく、やよいちゃんが自分で気付いたんだろう。元気なやよいちゃんは、とんでもなく頭がいいしね。
「わかったよ。ありがとう、やよいちゃん!」
わたしも、やよいちゃんの手をにぎりかえして、お礼を言った。
やよいちゃんも、コウタくんも、勇気を出して気持ちを伝えたから、付き合うことになったはず。
わたしも、いつまでも逃げているわけにはいかない!
元の幼なじみに戻れればいいと思っていたけど。
……やっぱり、それだけじゃ、イヤだよ!
他に好きな子がいるって言ってたし、断られるかもしれないけど……。
何も伝えずには、あきらめられない!
わたしも勇気を出そうと思う。
カケルのことが、好きなのだから。
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