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9.おかえり
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教室から廊下に出てからも、わたしは山岸先輩に手をとられ、連れていかれる。
1階の廊下をずっと歩いていき、放送室の前までくると、ようやく山岸先輩は立ちどまった。
「ちょっと、ここで待っていてくれるかな」
そう言うと、山岸先輩はブレザーのポケットから銀色のカギをとりだし、放送室のカギをあけた。
「あ、こっちもか」
そう言いながら、隣接している視聴覚室のカギもあける。
そして、山岸先輩は放送室へと入っていった。
(いいところって、放送室? 何か用があったのかな? でも、どうしてわたしまで連れてきたのだろう?)
頭の中に、クエスチョンマークがいくつも浮かんだ。
先輩が何をしたいのか、さっぱりわからない。
そう思いながら、しばらく待っていると、
ピンポンパンポーン♪
と校内放送のBGMが流れてきた。
『1年5組の如月やよいさん、1年5組の如月やよいさん。校内にいましたら、至急、視聴覚室まで来てださい。くり返します……』
(えっ、えっ、ええええっ~~~~~!)
山岸先輩の大人びた声で、校内放送が流れた。
やよいちゃんを呼び出している。
わけがわからずパニックになっていると、放送室のドアがひらいて、山岸先輩が手まねきしてきた。
「あずさちゃん、早く入って!」
わたしはあわてて放送室に入ると、先輩が扉をしめる。
はじめて入った放送室の中は、思ったよりもせまかった。
いや、部屋がせまいというより、物が多すぎるのだろう。
壁際に長い机があり、床にはたくさんのケーブルがはっている。
あたりには、どうやって使うのかわからないけど、スイッチのたくさんついた機械が、いっぱいならんでいた。
「やよいちゃんが図書室にいたのなら、放送におどろいて、すぐに視聴覚室にくるだろうね」
「そう……でしょうね……って、あの放送はなんなのですか? 校内放送を勝手にして、怒られないんですか?」
「もちろん、バレたらめっちゃ怒られるよ。まー、そんなことはどうでもいいじゃないか。ドラマチックな演出には、必要なリスクだ!」
山岸先輩は、わはははっと豪快に笑った。
(この先輩、メチャクチャすぎる……)
「それより、このマイクを見てくれたまえ。スイッチを入れれば、となりの視聴覚室だけにつながるようにしといたよ。この部屋の防音はカンペキだし、わたしもすぐに出ていく。視聴覚室にいるやよいちゃんに伝えたいことを、遠慮せずに、さけびたまえ!」
長机の上においてある銀色のマイクを指さし、山岸先輩はイタズラが成功した小さな子どものような笑みを浮かべる。
わたしはもう、言葉がなかった。
いや、気持ちを伝えるとは言ったけど……こんな形でなんて、考えてもいなかったよ。
「それじゃ、30分ぐらいしたらもどるから。がんばってね~」
山岸先輩はそれだけ言うと、部屋から出ていってしまう。
わたしは、ポツンと放送室にとり残された。
わけがわからない……。
はじめて会ったときから、変な先輩だった。
わたしたちの話を立ち聞きして、勝手にわりこんできて……。
見知らぬ下級生なんて、放っておけばいいのに、世話を焼いてくれる。
大人だなと思ったら、急にイタズラっ子のようなことまでして。
……でも、とってもやさしい先輩。
(もう、やよいちゃんは来ているかな?)
図書室からなら、余裕だと思う。
わたしは胸をそらしながら、大きく息をすいこんだ。
マイクの向こうに、親友の顔を思い浮かべる。
ありったけの想いを言葉にして、マイクに向かって吐きだした。
「やよいちゃんのバカァーーーーーーーーーーッ!」
防音の放送室の中に、わたしのさけび声がひびきわたった。
1階の廊下をずっと歩いていき、放送室の前までくると、ようやく山岸先輩は立ちどまった。
「ちょっと、ここで待っていてくれるかな」
そう言うと、山岸先輩はブレザーのポケットから銀色のカギをとりだし、放送室のカギをあけた。
「あ、こっちもか」
そう言いながら、隣接している視聴覚室のカギもあける。
そして、山岸先輩は放送室へと入っていった。
(いいところって、放送室? 何か用があったのかな? でも、どうしてわたしまで連れてきたのだろう?)
頭の中に、クエスチョンマークがいくつも浮かんだ。
先輩が何をしたいのか、さっぱりわからない。
そう思いながら、しばらく待っていると、
ピンポンパンポーン♪
と校内放送のBGMが流れてきた。
『1年5組の如月やよいさん、1年5組の如月やよいさん。校内にいましたら、至急、視聴覚室まで来てださい。くり返します……』
(えっ、えっ、ええええっ~~~~~!)
山岸先輩の大人びた声で、校内放送が流れた。
やよいちゃんを呼び出している。
わけがわからずパニックになっていると、放送室のドアがひらいて、山岸先輩が手まねきしてきた。
「あずさちゃん、早く入って!」
わたしはあわてて放送室に入ると、先輩が扉をしめる。
はじめて入った放送室の中は、思ったよりもせまかった。
いや、部屋がせまいというより、物が多すぎるのだろう。
壁際に長い机があり、床にはたくさんのケーブルがはっている。
あたりには、どうやって使うのかわからないけど、スイッチのたくさんついた機械が、いっぱいならんでいた。
「やよいちゃんが図書室にいたのなら、放送におどろいて、すぐに視聴覚室にくるだろうね」
「そう……でしょうね……って、あの放送はなんなのですか? 校内放送を勝手にして、怒られないんですか?」
「もちろん、バレたらめっちゃ怒られるよ。まー、そんなことはどうでもいいじゃないか。ドラマチックな演出には、必要なリスクだ!」
山岸先輩は、わはははっと豪快に笑った。
(この先輩、メチャクチャすぎる……)
「それより、このマイクを見てくれたまえ。スイッチを入れれば、となりの視聴覚室だけにつながるようにしといたよ。この部屋の防音はカンペキだし、わたしもすぐに出ていく。視聴覚室にいるやよいちゃんに伝えたいことを、遠慮せずに、さけびたまえ!」
長机の上においてある銀色のマイクを指さし、山岸先輩はイタズラが成功した小さな子どものような笑みを浮かべる。
わたしはもう、言葉がなかった。
いや、気持ちを伝えるとは言ったけど……こんな形でなんて、考えてもいなかったよ。
「それじゃ、30分ぐらいしたらもどるから。がんばってね~」
山岸先輩はそれだけ言うと、部屋から出ていってしまう。
わたしは、ポツンと放送室にとり残された。
わけがわからない……。
はじめて会ったときから、変な先輩だった。
わたしたちの話を立ち聞きして、勝手にわりこんできて……。
見知らぬ下級生なんて、放っておけばいいのに、世話を焼いてくれる。
大人だなと思ったら、急にイタズラっ子のようなことまでして。
……でも、とってもやさしい先輩。
(もう、やよいちゃんは来ているかな?)
図書室からなら、余裕だと思う。
わたしは胸をそらしながら、大きく息をすいこんだ。
マイクの向こうに、親友の顔を思い浮かべる。
ありったけの想いを言葉にして、マイクに向かって吐きだした。
「やよいちゃんのバカァーーーーーーーーーーッ!」
防音の放送室の中に、わたしのさけび声がひびきわたった。
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