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6.やよいちゃんの決意
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わたしは廊下を早足で歩く。
約束の時間に少し遅れてしまったので、急いでいたのだ。
来週の実習のレシピについて、みんなで話し合っていたら、遅くなっちゃって……。
全力でダッシュしたいところだが、先生につかまったら余計に遅くなってしまう。
(もう、きてるかな? やよいちゃんのことだから、とっくに、きてるよねー)
1年5組の教室をガラガラッとあけて、いきおいよく入った。
「遅れてごめんね!」
窓ぎわに立っていたやよいちゃんが、こっちをふり向く。
窓から差しこむ夕日をあびたやよいちゃんは、ほんのりと赤くそまり、いつもよりさらにきれいに見えた。
思わずドキドキしてしまう。
「どうかしたの?」
入り口で見つめて固まっていたら、やよいちゃんがキョトンとした顔で首をかしげる。
あなたに見とれていましたとは、ちょっと言いにくい。
「……あ、うん、なんでもない。レシピの打ち合わせしてたらおそくなっちゃった。ごめんね」
「いいのよ。わたしのために、きてくれてるんだし。どう、料理部は?」
「うん。みんないい人ばかりで、活動も楽しいし。つづけられると思う」
「そっか、よかった」
そう言って、やよいちゃんがニッコリとほほえむ。
ずっと帰宅部だったわたしは、最近、料理部に入ったんだ。
昔からお菓子作りは大好きだったけど、どうせなら料理全般を学んでみようと思ってね。
みんなが部活に入って楽しそうにしていたので、うらやましかったのもある。
でも、思いきって入ってみて、よかったよ。
料理部の活動は、みんなで予算内でレシピを考えて、週に1回の実習で作るんだ。
そんなにいそがしくもなく、ゆるく楽しい部活なので、わたしにすごく合っている。
(この部活で女子力アップして、ステキな彼氏をゲットするのだ!)
最近はそんな風に、少し前向きに考えることもできるようになってきた。
「あのふたりがくるまで、どれくらいかな?」
「20分くらいだと思う。その前に、少し、試食をしてくれるかな? まだ自信がなくて……」
「うん、いいよ」
やよいちゃんが机の上に紙ナプキンをしいて紙皿をいくつかおき、クッキーをならべていく。
今日は部活が終わったら、みんなで集まる予定になっていた。
だからこのあと、カケルと八代くんがやってくることになっている。
最近、クッキー作りにはまっているやよいちゃんが、みんなにお菓子の差し入れをするって理由で。
先生に見つかったら怒られそうだけど、そのときはわたしが、料理部の実習で作ったと言い訳をする予定だ。
「わぁ、すごいや!」
皿にのっている大量のクッキーに、わたしは思わず歓声を上げた。
クッキーの形はいろいろで、星、ハート、イヌ、ネコなどの定番の形から、サッカーボールまである。
すべて、やよいちゃんがひとりで作ってきたんだ。
わたしが教えたレシピで、今日まで一生懸命、練習していたみたい。
「おいしそー。それじゃ、試食してみるね」
「うん、おねがい」
やよいちゃんが真剣な目で、うなずく。
わたしはサッカーボールの形をしたクッキーを手にとって、ひとくちかじってみた。
サクッ。
(うん、いい歯ごたえ!)
そのまま、クッキーをじっくりと味わう。
口の中には、バターの香りがいっぱいにひろがり、舌に感じる甘さもちょうどいい。
見た目も味も、文句を言うところが見つからない。
「うん、おいしい! カンペキだよ!」
「やった! あずさがそう言ってくれるなら、安心だわ」
やよいちゃんは、ホッと胸をなでおろす。
約束の時間に少し遅れてしまったので、急いでいたのだ。
来週の実習のレシピについて、みんなで話し合っていたら、遅くなっちゃって……。
全力でダッシュしたいところだが、先生につかまったら余計に遅くなってしまう。
(もう、きてるかな? やよいちゃんのことだから、とっくに、きてるよねー)
1年5組の教室をガラガラッとあけて、いきおいよく入った。
「遅れてごめんね!」
窓ぎわに立っていたやよいちゃんが、こっちをふり向く。
窓から差しこむ夕日をあびたやよいちゃんは、ほんのりと赤くそまり、いつもよりさらにきれいに見えた。
思わずドキドキしてしまう。
「どうかしたの?」
入り口で見つめて固まっていたら、やよいちゃんがキョトンとした顔で首をかしげる。
あなたに見とれていましたとは、ちょっと言いにくい。
「……あ、うん、なんでもない。レシピの打ち合わせしてたらおそくなっちゃった。ごめんね」
「いいのよ。わたしのために、きてくれてるんだし。どう、料理部は?」
「うん。みんないい人ばかりで、活動も楽しいし。つづけられると思う」
「そっか、よかった」
そう言って、やよいちゃんがニッコリとほほえむ。
ずっと帰宅部だったわたしは、最近、料理部に入ったんだ。
昔からお菓子作りは大好きだったけど、どうせなら料理全般を学んでみようと思ってね。
みんなが部活に入って楽しそうにしていたので、うらやましかったのもある。
でも、思いきって入ってみて、よかったよ。
料理部の活動は、みんなで予算内でレシピを考えて、週に1回の実習で作るんだ。
そんなにいそがしくもなく、ゆるく楽しい部活なので、わたしにすごく合っている。
(この部活で女子力アップして、ステキな彼氏をゲットするのだ!)
最近はそんな風に、少し前向きに考えることもできるようになってきた。
「あのふたりがくるまで、どれくらいかな?」
「20分くらいだと思う。その前に、少し、試食をしてくれるかな? まだ自信がなくて……」
「うん、いいよ」
やよいちゃんが机の上に紙ナプキンをしいて紙皿をいくつかおき、クッキーをならべていく。
今日は部活が終わったら、みんなで集まる予定になっていた。
だからこのあと、カケルと八代くんがやってくることになっている。
最近、クッキー作りにはまっているやよいちゃんが、みんなにお菓子の差し入れをするって理由で。
先生に見つかったら怒られそうだけど、そのときはわたしが、料理部の実習で作ったと言い訳をする予定だ。
「わぁ、すごいや!」
皿にのっている大量のクッキーに、わたしは思わず歓声を上げた。
クッキーの形はいろいろで、星、ハート、イヌ、ネコなどの定番の形から、サッカーボールまである。
すべて、やよいちゃんがひとりで作ってきたんだ。
わたしが教えたレシピで、今日まで一生懸命、練習していたみたい。
「おいしそー。それじゃ、試食してみるね」
「うん、おねがい」
やよいちゃんが真剣な目で、うなずく。
わたしはサッカーボールの形をしたクッキーを手にとって、ひとくちかじってみた。
サクッ。
(うん、いい歯ごたえ!)
そのまま、クッキーをじっくりと味わう。
口の中には、バターの香りがいっぱいにひろがり、舌に感じる甘さもちょうどいい。
見た目も味も、文句を言うところが見つからない。
「うん、おいしい! カンペキだよ!」
「やった! あずさがそう言ってくれるなら、安心だわ」
やよいちゃんは、ホッと胸をなでおろす。
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