初恋迷路

稲葉海三

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5.おかしな先輩

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「みんな帰ったみたいだし。そろそろはじめようよ!」

 放課後の1年5組の教室にいるのは、わたし、やよいちゃん、八代くんの3人だけ。
 今日はたまたま、ふたりの部活のない日が重なったんだ。
 それで、これからはじめようとしているのは、秘密の作戦会議。
 だれかに聞かれたら困るので、教室の扉はとじている。
 先生に怒られちゃうので、カギまではしめてないけど。

 わたしたちは、主役であるやよいちゃんの席を囲みながら座っていた。
 まずは、八代くんが口をひらく。

「話を整理しようか。やよいがカケルのことが好きで、どうやって、付き合おうかってことでいい?」
「うん」

 八代くんの言葉に、やよいちゃんは恥ずかしそうにうなずいた。
 この話し合いに八代くんが参加しているのは、やよいちゃんが八代くんにも相談したから。
 こんなことまで相談できるのって、ふたりの信頼関係はすごいよね。
 わたしだけを頼ってほしかったという気持ちもあるんだけど、八代くんが協力してくれるのは心強い。

「だったら、やよいがカケルに告白すればいいんじゃないの?」
「そんなこと、できるわけないでしょ! わたしと日向くんは、普段からそんなに話してもないのに」
「うーん、それがいちばん早いと思うんだけど」

(そうなんだよねー。八代くんが大正解)

 やよいちゃんが、カケルに告白すれば、確実に成功するはず。
 だけど、やよいちゃんの気持ちもよくわかる。

(そんなかんたんに告白できるなら、苦労しないよ……)

「でもさ、ぶっちゃけ、ふたりともかなりモテるじゃん。こういう経験は豊富じゃないの?」
「そんなこと言われても……告白されたことはあるけど、全部ことわってたし。これまでだれかを好きになったことなんてないから、わたしの恋愛経験なんてゼロよ」 
「ぼくも同じく」

(……うーむ)

 うちのクラスでトップレベルにモテるふたりだが、恋愛は初心者のようである。
 ……ちなみに、わたしは告白された経験すらゼロだ。

(さて、これは困ったぞ)

 わたしにあるのは、少女マンガの知識くらいしかない。
 マンガと現実はちがうってのは、さすがにわたしもわかっている。
 

 3人で、ああでもないこうでもない、としばらくすすまない話し合いをしていたら、突然、教室の扉がガラッとあく音がして、わたしたち全員がビクッとなった。

 扉から入ってきたのは、背が高く、ショートヘアの女の人。
 胸元のリボンが緑色なので、3年生のようだ。
 驚いているわたしたちに、女の人は笑いかけてきた。

「おどろかせてしまって、すまないね。わたしの名は、3年の山岸やまぎし。放送部の部長をしているんだ」

 放送部というのは、校内でお知らせや音楽を流したりするのが仕事かな。
 こないだの体育祭では実況をして、盛り上げることもしていた。

(その部長さんが、どうして下級生の教室に?)

「あの……なんのご用でしょうか?」
「いや、なに。放送室に向かおうとしていたら、君たちの会話が聞こえてきて――」
「――ぬすみ聞きしてたんですか!」

 やよいちゃんは、山岸先輩のことをキッとにらむ。

「やよい、先輩に対して失礼だよ」
「だって……」

 普段は礼儀正しいやよいちゃんにしては、めずらしい。
 でも、自分の恋の相談については、だれであっても聞かれたくはないよね。

「はっはっは、かまわないよ。放送室に行こうと、たまたま通りかかったら、君たちの甘ずっぱい会話が聞こえてきて……その、つい、立ち聞きしてしまった」

 山岸先輩はポリポリと頭をかいた。

「ただ、放課後は静かだから、廊下に声がもれやすい。秘密の話をするなら、高窓もきちんとしめないと」

 そう言って、山岸先輩は、廊下側の高い位置にある窓を指さす。
 なるほど、あそこから声がもれていたんだね。

(……次からは、気をつけよう)

「それで、あの~、どこから聞いていましたか?」
「ああっ。『まず、話を整理しようか』のあたりからかな」
「最初からじゃない!」

 やよいちゃんは真っ赤になって、悲鳴のような声を上げる。
 恥ずかしくって、完全に余裕がなくなっているようだ。

「まあまあ、やよい、落ち着いて。それで先輩は、ぼくたちにどんなご用ですか?」
「話を聞いてしまったからには、年上として少しだけアドバイスさせてもらおうかなと。いちおう、わたしには彼氏がいるし」

(なんですと!)

 年上で彼氏持ちの先輩からのアドバイス。
 今のわたしたちには、のどから手がでるほどほしいものである。

「ぜひ! ぜひ! おねがいします!」
「ちょっと、あずさ! こんなあやしい先輩の言うことなんて」
「せっかくだし、聞いてみようよ。山岸先輩、おねがいします!」

 やよいちゃんが反対したけど、わたしたちふたりで説得したら、しぶしぶうなずく。
 お互いにかんたんな自己紹介をして、さっそく、山岸先輩のアドバイスを聞くことになった。
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