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一幕目

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冒険者ギルド、依頼を取りまとめ所属する冒険者達に仕事を斡旋する。
ここトライアズにおいては更に街の運営にも大きく携わる。
冒険者ギルド、商工ギルド、そして有力なパーティー、商会、工房の代表者がこの街の指針を決めていた。
剣と盾を模した紋章、その旗が幾つも冒険者ギルドの外壁に飾られ風で揺れている。
開放された大きく重厚な両開きの扉、そこをリーリエに支えられながらヤスナはくぐる。
正面の一番奥には幾つもの受付のカウンターが並んでいる。
左手側の壁にはランク別の依頼が張り出され、右手側には軽食を出す食堂が備えつけられ、丸いテーブルが幾つも設置されている。
まだ午前中ということもあり冒険者ギルドの中には大勢の冒険者達の姿があるが水を打った様に静まり帰っている、それは受付や食堂にいる職員たちも同様で、リーリエとヤスナの姿をじっとみつめている。

「ありがとうございます、リーリエさん」

ヤスナはそう言うとおぼつかない足取りで中央まで歩くと、ぐるりとまわりを見渡し、大きく深呼吸をする。

「おう、もう大丈夫みたいだな」

そんなヤスナに話しかけるのは禿頭の男フィディク。
リーリエはヤスナに彼がフィディクだと説明をすると、ヤスナはフィディクに向かって大きくお辞儀をする。

「ありがとうございます。リーリエさんから話は聞きました、皆を助けていただいて」

そしてヤスナは改めて冒険者、ギルド職員の顔を見渡し、再び深く頭を下げる。

「皆さんありがとうございます。 本当にありがとうございます」

どれくらいの時間がたったであろうか。
長い沈黙を破るように一斉に声が上がる。

「いいってことよ!」
「おたがいさまだ!」
「無事で良かったぜ!」
「リーリエに恩を売れるいい機会だ!」

口々に声を上げる近づいて来る冒険者達にヤスナはもみくちゃにされながらその無事を祝福される。

「ほんとうにぶじで良かった」

フィディクもヤスナの肩に手を置き笑う。
ヤスナはそんな冒険者たちにもみくちゃにされながら何度も何度も頭を下げた。


「ほら、あんた達、ヤスナはまだ病み上がりなんだ、あんまり無茶するんじゃないよ」

リーリエは救出するようにヤスナの手を取ると受付へ向かう。

「ギルマスは?」
「二階にみえます。今は来客もありませんから大丈夫だとおもいます」
「そう、ありがと。ほら行くよ」

受付の横の階段を登り、一つのドアの前へ。

「リーリエだ、入るよ」

ドアを開けるとリーリエは遠慮無く部屋へ入っていく。

「リーリエか、もう少し遠慮したらどうだ」
「はっ! 何気取ってんのよ、連れてきたわよ」

リーリエはドカッと大きな机の前に置かれていたソファーに腰を降ろすとヤスナにも座るように促す。

「君がヤスナ君だね。遠慮無く座ってくれ、リーリエみたいなのは困るけど」

そう言ってギルドマスターである獅子の獣人グレンはリーリエが腰を降ろしたソファーとはテーブルを挟んで向かいのソファーに腰をおろした。

「この度はありがとうございます」

ソファーに座ったヤスナが頭を下げるとグレンは豪快に笑い声を上げる。

「なんだリーリエのところの奴にしてはできた奴じゃないか。俺はギルドマスターをさせてもらっているグレンというよろしくな」

そう出された手をヤスナは握り握手をする。

「まあ、ここに運ばれてきた時にはあらかた治療は終わっていたからな。感謝するならあの場に居た奴らにしてくれればいいさ」
「もう手荒い歓迎をされたばかりだよ」
「あぁ、聞こえていたよ、リーリエ。それでだヤスナ君何があったか聞かせてくれるかな?」

ヤスナは事の顛末を語る。
自分がポーターとして同行した経緯、順調に魔石を集めていた事、そして

「変異種か……」

ゴブリンロードが現れた事の話をするとグレンの顔が険しくなる。

「はい……カカチさんが倒れ、ナユさん、エフロ=パさん、テティスさんが倒れました」
「うむ…… ゴブリンロード相手ではまだ彼女たちには荷が勝ちすぎているな」
「皆に隠れていろと言われていたのですが、集まるゴブリン達が彼女達に手をかけようとしたの見て居ても立ってもいられなくなり、飛び出したのですが……もっと早く僕が勇気を出していればもしかしたらもっと」
「いや、君が何かをしたところで何もかわらなかっただろう」
「わかっています……僕には戦う力はありませんから」
「しかし、それでも飛び出していったのだろう? 彼女等を守ろうと」
「でも、あっけなくゴブリンロードの一撃で」
「事実はそうかも知れないでも、その行為自体は、その気持は称賛されるべきものだ」
「グレンさん……ありがとうございます」
「うむ……しかし、彼女らも君も倒れてしまった訳だが」
「はい、そうなんですが……助けられたのです」
「助けられた?」
「不思議な格好をした男女二人組で」
「不思議な格好?」
「はい、男はその顔を仮面で隠していました、女性の方は獣人の方なのでしょうかその尾がとても印象的でした」

ヤスナはそう言うとその二人組の活躍を語りだす、まるで高ランクの冒険者の様なそれをグレンは険しい顔で聞いていた。


「彼の話どう思った、カラン」

ヤスナ達がさった部屋、グレンは一人声をだすと彼の背後から一人のエルフの女性が姿を現した。

「彼の語った内容に嘘は感じられませんでした」

隠形の魔法で姿を隠していた彼女、その手には天秤型の魔道具『ルフフの天秤』があった。
裁判を司ると言われているルフフの持つ天秤を模したそれは嘘を見抜く力があった。

「そうか、気になるな彼が語った二人組」
「はい、その様な二人組は聞いたことがありません」

ギルドマスターであるグレン、副マスターであるカランの知らぬ冒険者。
それも話を聞けば高ランクの冒険者。

「厄介な事にならなければいいな」
「えぇ、一応その様な二人組が居ないか調べておきます」

塔に入る入口は一つ、そこにはギルドの受付もあれば多くの冒険者達の目がある。
それなのに受付名簿には名前もなく、それらしい人物の話も聞いていない。
グレンはなんとも言えない気持ちのまま大きくため息を付いた。
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