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出会いと不穏の兆し
異変の前兆
しおりを挟む姉様との時間を過ごすことがなくなって、数日後。私はモルヴィスやケニスと冒険者としての稽古をして、モルヴィスたちと一緒に狩猟に来ている。冒険者としての稽古をするのは、万が一のことを考えてだ。
両親の思惑はわからないけれど、私たちを道具としてしか見ていないのはもう目に見えている。と言うのも、私が生まれた時のあの優しそうな目ではなく同部を見るような目で私たちを見ているからだ。
これが過激するようならいつでも逃げられる準備をしておかないといけないし。
まあ、5歳児の私ができることは限られているけどね。とりあえず13歳まであと8年もの時間があるんだ。何があっても生き残れるようにしておかないとね。
「お嬢、あのキノコは食えるがこれはダメだ。向こうの木の実は匂いがいいが腹を下すから食えねえ。しっかり覚えておけ」
「はい!」
色とりどりやキノコや木の実を指差して色々と教えてくれるモルヴィス。口調がだいぶ違うのは狩猟中ということもあるし、何があるかわからないヴァイスと出会ったあの森の中にいるからだ。と言うのも最近モンスターの数が多くなってきていて、群がることをしないモンスターまで群れを成している状態らしい。
ヴァイスと出会った時、ゴブリンの群れが迫ってきているってケニスが焦っていてて、その群れをヴァイスが全部倒したはず。それでもゴブリン以外のモンスターたちが群れを成しているなんて……。一体何が起こってるんだろう?
「お嬢、これを見ろ」
「わあ、おおきなあしあと」
モルヴィスが見せてきたのは私の頭よりも大きな人のような足跡だ。こんな大きな足跡見たことない。
(ゴブリンロードの足跡じゃな)
(ゴブリンロード?)
(うむ。ゴブリンたちの長じゃ。この地にはおらんはずなのじゃが……)
そう言って言葉を濁すヴァイス。彼が言葉を濁す程と言うことは、この自然界の緊急事態なんだろう。
「……お嬢、この足跡はトロールの足跡だ。時間が経つと埃や土が被るんだが、この足跡はそれがない。何を言いたいかわかるか?」
「まだちかくにいるかも?」
「正解だ。こんなに真新しい足跡だ。すぐ近くにいてもおかしくはない」
近くにいてもおかしくない。その言葉を聞いて今更ながら恐怖心が滲み湧いてきた。
今まで森の中を散策した時はヴァイスがいたから遭遇しなかったし、この道のりの中でも魔物とは遭遇していない。だから、これが初めて目の当たりにすることになるんだけど……。初めて遭遇する魔物がトロールなんて思わなかったよ。
「ケニス、いざと言う時はお嬢を連れて逃げろ」
「しかし……、わかりました」
何かを言いかけていたケニスは、モルヴィスの目を見てすぐに引き下がる。狩猟は冒険者の生業だけど、今モルヴィスたちがしているのはレイフォード家の護衛。つまり今することは私の護衛ということだ。
私が負担となって周りが甚大な被害を受けるのは見過ごせないよね。ここは、彼らの実力に任せよう。
「モルヴィス、トロールのひがいはおおきいんでしょ?なら、たおすことかひかせるのをゆうせんにして」
「いや、お嬢を守るのが俺たちの仕事なんだ。冒険者の仕事じゃねえ」
「だけど、このままじゃおうちもひがいかぶるとおもうの。たおしたらとうさまよろこぶとおもう」
きっと倒したら功績を讃えてそれなりの報酬とかを贈ってくれるだろう。父様だけじゃなく他からも賞賛してくれるはずだ。
「……お嬢がそういうのならそうしよう。屋敷までに被害が出ちまったら大変だしな。それに、お嬢の良い経験になるかもしれねえし?」
おや?さっきまでの言動が全く違くなった。
まあ、とりあえず私が経験を積むことができるようだから良しとしようかな?トロールと対峙するのは怖いけどね。
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