14 / 15
14.聖女様
しおりを挟む「このドレスはどうかしら?」
「ちょっとホーリー、それは少し露出が多すぎるわ」
「リリーお姉さま、これなんていかが?」
リリアナは、ローアレス聖教国の聖女として何度か夜会や祭典に参加していたため、ドレスは着なれていた。
しかし、こんなに揉みくちゃにされる試着ははじめてだった。
「あの、私これがいいんですが……」
リリアナが選んだのは、”不吉な聖女”と言われていた頃に着ていた真っ黒い地味なドレス。
女性三人から猛反対を受けたリリアナは、もう何も言うまいと心に決め、着せ替え人形になるよう努めた。
「こ、これだわ!」
王妃が思わずと言って叫んだそのドレスは、首まで覆われた、露出度の低い、純白のドレスだった。
「なんて綺麗なの!」
「リリーお姉さま、美しいわ」
ホーリーとアイビーも賞賛の声をあげている。
「そ、そうですか? 私にはすこし清楚すぎるといいますか」
「なにを言っているの! 清らかなあなたにぴったりじゃない。明日の夜会が楽しみだわ」
明日、王子のはからいで、戦争終結のダンスパーティが開かれることになった。市井でも、”戦争終結祝典”が開かれ、盛り上がりを見せる予定だ。
呪いに苦しめられていた民もすっかり元気になりようやく開催されるということで、みな張り切っていた。
と、外からノックの音がした。
王妃が許可を出すと、部屋にセオドラが入ってきた。
「ロ、ローレル様!? 私、まだドレスなのですが……!」
焦るリリアナに、王妃はにやりと意地悪そうな笑みを向けた。
「いいじゃない、明日になったら見せる予定だったのだから」
「さ、お兄様ももっとこちらへ」
やや頬を赤らめたセオドラは、「あ、ああ」と返事をしてリリアナに近づいた。
「リリアナ、すごく綺麗で緊張してしまうな……」
「どうかしたのかしら?」
「いや、その。明日、夜会に少し顔を出したら、一緒に過ごさないか」
セオドラは確かにすこし緊張した面持ちで、リリアナを誘う。
「ええ、もちろん。私、まだこの国の祝典を見たことがないから、とっても楽しみ」
セオドラはほっと胸をなでおろす。
なぜかにやにやしている周囲の女性三人に首をかしげながら、リリアナは明日に胸を躍らせた。
*
「リリアナ、昨日よりももっと綺麗だ」
翌日、王城のメイドによってしっかり仕立て上げられたリリアナは、普段の美しさをさらに輝かせていた。
「ふふ、ありがとう。セオドラの正装もとってもステキ」
夜会に顔を出し、ひととおり貴族たちに囲まれたあと、リリアナとセオドラは中庭を歩いていた。
「リリアナ」
セオドラは意を決したように、リリアナを呼ぶ。
彼女もそれに気づき、真剣な表情で王子を見つめた。
「俺はいつの間にか、君のことがいとおしくてたまらなくなったんだ。俺と結婚してくれないか」
頬を赤らめ、リリアナは固まってしまった。
まさか、王子が自分のことを好きで、そしてまさか、いまプロポーズされるなんて思いもよらなかったから。
それでも、リリアナはなんとか口を開いて言った。
「――――はい」
「はっ、良かったぁ……」
大量の汗をかいている様子のセオドラに、リリアナは自分のハンカチを差し出す。
「それにしても、どうして突然?」
「突然じゃないよ。俺は”リリアナ王太子妃計画”をひそかに進めてたんだ」
「え? それはどういう?」
「リリアナ! 見てたわよ~」
「これで、リリーお姉さまは本当にわたくしたちのお姉さまだわ!」
どこに隠れていたのか、王妃と王女がニタニタと現れる。
ホーリーも、ルイスも、アーロンも、そして国王もいる。
「リリアナ、おまえはこの国の恩人だ。わしはリリアナをセオドラの妃――王太子妃として認めよう」
リリアナがふと耳を傾けると、王城や、それより遠いところからもなにか聞こえてくる。
「ふふ、みんなリリアナとセオドラ様のことを喜んでいるのよ」
よく聞いてみると、「聖女様、万歳!」と言っているようだった。
リリアナは、なぜこの場にいない人まで? と思ったが、ホーリーが説明してくれた。
「セオドラ様、王城内や城下町の方にも手を回して、祝福するように頼み込んでいらっしゃるのよ」
どうやら、リリアナの知らないところでどんどん話が進んでいたらしい。
「リリアナ、おまえはしっかり外堀を埋められたってことだ」
アーロンは意地の悪い顔でそういう。
「叔父上やめてくださいよ。外堀を埋められたのは俺のほうだよ」
「え? 私、全然――」
「父上も母上も、僕の兄弟も、それから王太子妃筆頭候補の令嬢も、それに国民まで、いまや君のとりこなんだよ。これで外堀を埋められた以外の、なんだっていうんだ?」
リリアナは恥ずかしそうに下を向いた。
その様子をみた王子は、とても幸せそうに微笑んだ。
0
お気に入りに追加
322
あなたにおすすめの小説
【完結】聖女召喚に巻き込まれたバリキャリですが、追い出されそうになったのでお金と魔獣をもらって出て行きます!
チャららA12・山もり
恋愛
二十七歳バリバリキャリアウーマンの鎌本博美(かまもとひろみ)が、交差点で後ろから背中を押された。死んだと思った博美だが、突如、異世界へ召喚される。召喚された博美が発した言葉を誤解したハロルド王子の前に、もうひとりの女性が現れた。博美の方が、聖女召喚に巻き込まれた一般人だと決めつけ、追い出されそうになる。しかし、バリキャリの博美は、そのまま追い出されることを拒否し、彼らに慰謝料を要求する。
お金を受け取るまで、博美は屋敷で暮らすことになり、数々の騒動に巻き込まれながら地下で暮らす魔獣と交流を深めていく。
逆行令嬢は聖女を辞退します
仲室日月奈
恋愛
――ああ、神様。もしも生まれ変わるなら、人並みの幸せを。
死ぬ間際に転生後の望みを心の中でつぶやき、倒れた後。目を開けると、三年前の自室にいました。しかも、今日は神殿から一行がやってきて「聖女としてお出迎え」する日ですって?
聖女なんてお断りです!
奴隷のような扱いを受けてきた私は、妹の代わりに婚約することになりました
四季
恋愛
再婚した父と後妻、そして二人の娘であるリリア。
三人から虐げられてきたレジーネは、ある日、リリアから「お願いがある」と言われ……。
醜い私を救ってくれたのはモフモフでした ~聖女の結界が消えたと、婚約破棄した公爵が後悔してももう遅い。私は他国で王子から溺愛されます~
上下左右
恋愛
聖女クレアは泣きボクロのせいで、婚約者の公爵から醜女扱いされていた。だが彼女には唯一の心の支えがいた。愛犬のハクである。
だがある日、ハクが公爵に殺されてしまう。そんな彼女に追い打ちをかけるように、「醜い貴様との婚約を破棄する」と宣言され、新しい婚約者としてサーシャを紹介される。
サーシャはクレアと同じく異世界からの転生者で、この世界が乙女ゲームだと知っていた。ゲームの知識を利用して、悪役令嬢となるはずだったクレアから聖女の立場を奪いに来たのである。
絶望するクレアだったが、彼女の前にハクの生まれ変わりを名乗る他国の王子が現れる。そこからハクに溺愛される日々を過ごすのだった。
一方、クレアを失った王国は結界の力を失い、魔物の被害にあう。その責任を追求され、公爵はクレアを失ったことを後悔するのだった。
本物語は、不幸な聖女が、前世の知識で逆転劇を果たし、モフモフ王子から溺愛されながらハッピーエンドを迎えるまでの物語である。
悪役令嬢と呼ばれて追放されましたが、先祖返りの精霊種だったので、神殿で崇められる立場になりました。母国は加護を失いましたが仕方ないですね。
蒼衣翼
恋愛
古くから続く名家の娘、アレリは、古い盟約に従って、王太子の妻となるさだめだった。
しかし、古臭い伝統に反発した王太子によって、ありもしない罪をでっち上げられた挙げ句、国外追放となってしまう。
自分の意思とは関係ないところで、運命を翻弄されたアレリは、憧れだった精霊信仰がさかんな国を目指すことに。
そこで、自然のエネルギーそのものである精霊と語り合うことの出来るアレリは、神殿で聖女と崇められ、優しい青年と巡り合った。
一方、古い盟約を破った故国は、精霊の加護を失い、衰退していくのだった。
※カクヨムさまにも掲載しています。
転生おばさんは有能な侍女
吉田ルネ
恋愛
五十四才の人生あきらめモードのおばさんが転生した先は、可憐なお嬢さまの侍女でした
え? 婚約者が浮気? え? 国家転覆の陰謀?
転生おばさんは忙しい
そして、新しい恋の予感……
てへ
豊富な(?)人生経験をもとに、お嬢さまをおたすけするぞ!
行き遅れにされた女騎士団長はやんごとなきお方に愛される
めもぐあい
恋愛
「ババアは、早く辞めたらいいのにな。辞めれる要素がないから無理か? ギャハハ」
ーーおーい。しっかり本人に聞こえてますからねー。今度の遠征の時、覚えてろよ!!
テレーズ・リヴィエ、31歳。騎士団の第4師団長で、テイム担当の魔物の騎士。
『テレーズを陰日向になって守る会』なる組織を、他の師団長達が作っていたらしく、お陰で恋愛経験0。
新人訓練に潜入していた、王弟のマクシムに外堀を埋められ、いつの間にか女性騎士団の団長に祭り上げられ、マクシムとは公認の仲に。
アラサー女騎士が、いつの間にかやんごとなきお方に愛されている話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる