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14.聖女様

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「このドレスはどうかしら?」
「ちょっとホーリー、それは少し露出が多すぎるわ」
「リリーお姉さま、これなんていかが?」

 リリアナは、ローアレス聖教国の聖女として何度か夜会や祭典に参加していたため、ドレスは着なれていた。
 しかし、こんなに揉みくちゃにされる試着ははじめてだった。

「あの、私これがいいんですが……」

 リリアナが選んだのは、”不吉な聖女”と言われていた頃に着ていた真っ黒い地味なドレス。
 女性三人から猛反対を受けたリリアナは、もう何も言うまいと心に決め、着せ替え人形になるよう努めた。

「こ、これだわ!」

 王妃が思わずと言って叫んだそのドレスは、首まで覆われた、露出度の低い、純白のドレスだった。

「なんて綺麗なの!」
「リリーお姉さま、美しいわ」

 ホーリーとアイビーも賞賛の声をあげている。

「そ、そうですか? 私にはすこし清楚すぎるといいますか」
「なにを言っているの! 清らかなあなたにぴったりじゃない。明日の夜会が楽しみだわ」

 明日、王子のはからいで、戦争終結のダンスパーティが開かれることになった。市井でも、”戦争終結祝典”が開かれ、盛り上がりを見せる予定だ。
 呪いに苦しめられていた民もすっかり元気になりようやく開催されるということで、みな張り切っていた。

 と、外からノックの音がした。
 王妃が許可を出すと、部屋にセオドラが入ってきた。

「ロ、ローレル様!? 私、まだドレスなのですが……!」

 焦るリリアナに、王妃はにやりと意地悪そうな笑みを向けた。

「いいじゃない、明日になったら見せる予定だったのだから」
「さ、お兄様ももっとこちらへ」

 やや頬を赤らめたセオドラは、「あ、ああ」と返事をしてリリアナに近づいた。

「リリアナ、すごく綺麗で緊張してしまうな……」
「どうかしたのかしら?」
「いや、その。明日、夜会に少し顔を出したら、一緒に過ごさないか」

 セオドラは確かにすこし緊張した面持ちで、リリアナを誘う。

「ええ、もちろん。私、まだこの国の祝典を見たことがないから、とっても楽しみ」

 セオドラはほっと胸をなでおろす。
 なぜかにやにやしている周囲の女性三人に首をかしげながら、リリアナは明日に胸を躍らせた。





「リリアナ、昨日よりももっと綺麗だ」

 翌日、王城のメイドによってしっかり仕立て上げられたリリアナは、普段の美しさをさらに輝かせていた。

「ふふ、ありがとう。セオドラの正装もとってもステキ」

 夜会に顔を出し、ひととおり貴族たちに囲まれたあと、リリアナとセオドラは中庭を歩いていた。

「リリアナ」

 セオドラは意を決したように、リリアナを呼ぶ。
 彼女もそれに気づき、真剣な表情で王子を見つめた。

「俺はいつの間にか、君のことがいとおしくてたまらなくなったんだ。俺と結婚してくれないか」

 頬を赤らめ、リリアナは固まってしまった。
 まさか、王子が自分のことを好きで、そしてまさか、いまプロポーズされるなんて思いもよらなかったから。
 それでも、リリアナはなんとか口を開いて言った。

「――――はい」

「はっ、良かったぁ……」

 大量の汗をかいている様子のセオドラに、リリアナは自分のハンカチを差し出す。

「それにしても、どうして突然?」
「突然じゃないよ。俺は”リリアナ王太子妃計画”をひそかに進めてたんだ」
「え? それはどういう?」

「リリアナ! 見てたわよ~」
「これで、リリーお姉さまは本当にわたくしたちのお姉さまだわ!」

 どこに隠れていたのか、王妃と王女がニタニタと現れる。
 ホーリーも、ルイスも、アーロンも、そして国王もいる。

「リリアナ、おまえはこの国の恩人だ。わしはリリアナをセオドラの妃――王太子妃として認めよう」

 リリアナがふと耳を傾けると、王城や、それより遠いところからもなにか聞こえてくる。

「ふふ、みんなリリアナとセオドラ様のことを喜んでいるのよ」

 よく聞いてみると、「聖女様、万歳!」と言っているようだった。
 リリアナは、なぜこの場にいない人まで? と思ったが、ホーリーが説明してくれた。

「セオドラ様、王城内や城下町の方にも手を回して、祝福するように頼み込んでいらっしゃるのよ」

 どうやら、リリアナの知らないところでどんどん話が進んでいたらしい。

「リリアナ、おまえはしっかり外堀を埋められたってことだ」

 アーロンは意地の悪い顔でそういう。

「叔父上やめてくださいよ。外堀を埋められたのは俺のほうだよ」
「え? 私、全然――」
「父上も母上も、僕の兄弟も、それから王太子妃筆頭候補の令嬢も、それに国民まで、いまや君のとりこなんだよ。これで外堀を埋められた以外の、なんだっていうんだ?」

 リリアナは恥ずかしそうに下を向いた。
 その様子をみた王子は、とても幸せそうに微笑んだ。
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