能力が舞い戻っちゃいました

花結 薪蝋

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【本章】異端と天災の力比べ

【17】試験終了

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「火蘭くん!!大丈夫か!?」

なんの戸惑いなく会場に飛び込んできた暁人。
火蘭は顔をあげた。

「ア、キトお兄ちゃん……」

息絶え絶えに、火蘭は呟いた。
暁人は痛ましいものを見るように、どこか憤りを感じさせる表情で火蘭を見た。
そしてキョロキョロと辺りを見回す。

「創始さんは!?なんでいないんだ?」

「地面にもぐったの……、それに『分子分解』が……」

と火蘭は言って出口の方を指差した。

「わかった」

神妙な顔つきで頷いた暁人は火蘭を抱き上げた。

「俺の肌に触れておくんだぞ」

火蘭は言われた通りに、暁人のシャツを捲られた腕をぎゅっと掴んだ。
掴んだと確認した暁人は、出口に向かって走り出す。
火蘭は自分が消えないか、恐ろしかったが、暁人を信じるしかなかった。

ぱっと暗くなった。
会場を抜けたのだ、と気づいたのは固く瞑っていた目を開けた時だった。

「火蘭くん……。悪いけど、俺は創始さんを助けに行かなくちゃいけないんだ」

火蘭が緩く顔をあげると、会場からの光で陰って表情が見えなかった。

「……うん」

「ごめんね……」

暁人は火蘭をベンチに横たえた。
そして、走って行ってしまった。

***

「創始さん!!どこにいる!?もう試験は終わった!もう出てきても大丈夫だ!!」

そう叫んだ。

アナウンスも観客も、乱入者を咎めなかった。
ただ、しーんと静まり返っていたのが、また騒めく。
中には席を立って、帰る人もちらほらいた。

世界は答えなかった。
暁人は焦りが募る。

「誰か、助けてくれ!!このままじゃ、創始さん死んじまう!!」

必死に訴えたが誰の足を止めることもできなかった。

世界は犯罪者だ。
観客の多くは心の根底で、死ねばいいと思っていたから。

「クソッ……!」

暁人は悪態をついて、近くの硬い地面を素手で掘り始めた。
当てのない悪足掻きだった。

そんな暁人を面白く思った人物がひとり。
高い場所から、会場を見下ろす
ぎらり、と紫色に目が光った。

ボコ、ボコボコボコ……

地面が、割れてばらばらに浮き上がった。

「うおっ!?」

暁人の地面は浮き上がらなかったものの、周りの地面の変動に影響されて揺れた。
紫色に縁取られた土の塊。
恐らく誰かがサイコキネシスで浮かび上がらせたのだ。

暁人は、その誰かに感謝しながら、急いで辺りを見渡した。

「創始さん!!どこだ!?」

そしてひとつだけ、自分の手では届きようもなかった深い所に不自然に盛り上がった土塊があった。
暁人は、近くのしっかりした足場に飛び降りた。

「創始さん!!」

その時、ぼろぼろと土が内側に崩れていった。

暁人は手を突っ込んだ。
そして冷たい手を掴んだ。

グッと引っ張った。
土に埋もれた体はすごく重い。
暁人は引っ張り続けた。

「うおおおおおおおおお!!」

いきなりスッと軽くなって、世界が出てきた。
白かった頬が焼けただれ、土まみれだった。

「創始さん!」

暁人は世界を見た瞬間、じわりと涙が滲んだ。
そして、世界に腕を回して軽くて飛んでいきそうな体を抱きとめた。

「よかった……っ!生きてた……!!」

そう言った途端、がくん、と世界の体から力が抜けた。

「え…?創始さん?起きてくれ!!創始さん!!」

暁人は体を少し離して、世界を揺さぶろうとした。
が、ドスンッと音を立てて地面が落ちた。
出口までの道がはっきり見えて、暁人は揺らすよりも医務室に連れて行くべきだと考えを改めた。

壊れ物を扱うように抱き上げて、最も近い第一保健室に向かって静かに走り出した。

試験の主要人物二人と乱入者が去った会場は、後味の悪い気まずげな雰囲気を漂わせていた。

《これにて試験を終了します……。退場時は混み合いますので、係員の指示に従ってください……》

波乱の試験の幕が降りた。


***


会場の気まずさなんて関係ないと言わんばかりの涼しい顔をした男、学園長の姐奴札さなふだ 康嗣郎こうじろう

「君、彼を手助けしただろう」

ちらりとその傍にいる女を見て、言った。

「うふふ。してませんよ」

厚くぷっくりとした唇を左右に引き上げて、女は返す。

「ふん、まあいい。アレが死にかけたら、お前に助け出させるつもりだったからな」

薄く笑みを浮かべて女は姐奴札さなふだの背中を見つめた。
姐奴札さなふだは会場を見下ろし、苦々しげに表情を歪める。

「……あの男、面倒だな。お節介なことに、アレに肩入れし始めた。人選ミスだったな」

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