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【本章】異端と天災の力比べ
【12】時期外れの試験
しおりを挟む「試験?」
《そうだ》
暁人はにこにこしながら、洗濯して濡れた制服を物干し竿に干していた。
そんな時に通信機からけたたましい呼び出し音がした。
“無能”やテレパス以外の通話が必要な能力者が携帯して使う通信機で、テレパシーを一切受けつけない暁人には色んな意味で必需品だった。
授業開始の合図も、暁人だけはこの通信機から知らされていた。
監視役として呼び出しを受けるのも、この機械からであった。
《あの女は、試験を受けていない。
学園長が身柄を拘束の際、目視の判断でクラスを決めてしまったからな。超能力安全管理委員会が実力を測定していないはずはないが、あくまで数字的なものだけだ。
もっと、本質的なーーー強さを、優劣をつけるために試験を受けてもらう》
部屋に響く硬い声から、校長の怖い顔が見えるようだった。
本来の試験は、学年の終わりに行われるものだ。
そして新学年には、能力にあったクラスに振り分けられる。
ほとんどの場合は前年度とクラスは変わらないが、稀にランクが落ちたり上がったりする人もいる。
暁人はその稀な能力者の中でも、学園史上前代未聞の昇格を遂げている男だった。
試験は、似通った能力の者を集めて、上から順に優秀な者を並べていく。
能力者でも数の多いエスパーならば、使える能力の数、範囲、継続時間などで比較されていく。
暁人のような他に確認されていない能力や使用者が少ない能力は比較が難しいので、少数派の能力者は特性で選別され、その中でまた比較していくのだ。
事前に対策を練るなどの不正を防ぐ為に、試験の相手や内容は一切知らされない。
監視役とはいえ一介の生徒である暁人も同様だ。
《では、伝えておけ。試験日時は一週間後だ。……また、用があれば連絡する》
ブツッ
無愛想な校長らしい一方的な切り方だった。
いつもなら少しムッとするところだが、今日の暁人の機嫌はすごぶるよかった。
へらっと相好を崩した。
その理由も、世界が頼みごとをしてくれたから。
頼みごとの内容は穏やかな物ではなかったが、どこかズレた暁人の気にするほどのことではなかった。
(あの絶対零度の創始さんが!顔を赤らめて、しかも敬語だった!!)
不覚にもきゅんきゅんしていた暁人。
誰にでも等しく噛みつく警戒心の強い猫が自分にだけ懐いているような甘い優越感に満たされていた。
頭が麻痺していた暁人は、試験のことを右から左へ聞き流していた。
***
翌日には、焼け焦げた教室は修復され、体力を回復して復帰してきた吾妻は、何事もなかったように平穏な日常に戻ったように表明上は見えた。
しかし、吾妻の暁人への過剰な警戒心であったり、南条が世界の一挙一動に目を光らせていたりと、教室のギスギスした雰囲気は隠しようもなかった。
まさに一触即発。
決定的な亀裂が入っていた。
付き纏ってくる暁人に、世界はほとほと嫌気がさしていたが、毒味役を頼む傍ら邪険に扱うわけにもいかなくなっていたので、ふたりは常に行動を共にしていた。
暁人は世界のデレを引き出そうと必死だった。
そうして、崖で綱渡りをするような、一歩踏み違えば奈落の底、のような状況で一週間が過ぎた。
今日は暁人が世界に言い忘れた試験の日だった。
「創始さん!テストどうだった?」
「……」
小テストの返却が行われた授業が終わったすぐ後だった。
ピピピピピッビーッビーッビーッ!!!
「おわっ!?」
けたたましい電子音が教室に鳴り響いた。
暁人から音が聞こえていて、本人は慌ててポケットをまさぐっていた。
教室は一瞬にして、しん、と静まり、警戒するような視線が暁人に突き刺さった。
《ジジーーおい、吉野》
「はいっ」
《今日の放課後に決まった。授業が終わり次第、奴を連れて第三競技場へ来い》
教室から出るべきか、とドアに足を向けた暁人だったが脈絡のない言葉に足を止めた。
「ん?なんかありましたっけ、今日?」
《……なにを呆けている。試験だ!!
連絡しただろう!
ゴホン、……まあいい。兎に角、放課後、必ず連れて来い。いいな!ーーブツ》
暁人は不思議な顔をしていたが、あやふや~っと記憶が蘇ってきて顔を青くした。
「ああっ!忘れてた!!……ごめんっ創始さん!!」
「なに?」
小テストに目を落としたまま、世界は言った。
「じ、実は~……」
ゴニョゴニョ、と試験のことを伝える暁人。
世界は冷たい目をしながら、動揺することもなく耳を傾けていた。
「ーーーつまり、その試験とやらを受ければいいんだろ。わかった」
「え!?ウン、そうだけど……。やっぱ心の準備とか必要じゃない……ですか」
「別に……」
「マジでごめん、創始さん……」
拝むような姿勢で頭を下げる暁人。
それよりもーー、と言葉を続けた世界。
「なんなんだ、このテスト」
ピラ、と暁人にテストを示した。
そこには赤いインクで『0点』、そして『もっと頑張りましょう』の文字が。
「えっ」
「意味がわからない……」
頭を抱えた世界に暁人は驚く。
高校の一年を“無能”として過ごしていた世界は、超能力学という分野を全く知らなかった。
二年になって少し高度になった授業に一切ついていけていなかった。
「0点……」
優等生な性分の世界は多大なるショックを受けていた。
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