能力が舞い戻っちゃいました

花結 薪蝋

文字の大きさ
上 下
22 / 29
【本章】異端と天災の力比べ

【12】時期外れの試験

しおりを挟む


「試験?」

《そうだ》


暁人はにこにこしながら、洗濯して濡れた制服を物干し竿に干していた。
そんな時に通信機からけたたましい呼び出し音がした。

“無能”やテレパス以外の通話が必要な能力者が携帯して使う通信機で、テレパシーを一切受けつけない暁人には色んな意味で必需品だった。
授業開始の合図も、暁人だけはこの通信機から知らされていた。
監視役として呼び出しを受けるのも、この機械からであった。



《あの女は、試験を受けていない。

学園長が身柄を拘束の際、目視の判断でクラスを決めてしまったからな。超能力安全管理委員会が実力を測定していないはずはないが、あくまで数字的なものだけだ。

もっと、本質的なーーー強さを、優劣をつけるために試験を受けてもらう》

部屋に響く硬い声から、校長の怖い顔が見えるようだった。

本来の試験は、学年の終わりに行われるものだ。
そして新学年には、能力にあったクラスに振り分けられる。
ほとんどの場合は前年度とクラスは変わらないが、稀にランクが落ちたり上がったりする人もいる。
暁人はその稀な能力者の中でも、学園史上前代未聞の昇格を遂げている男だった。

試験は、似通った能力の者を集めて、上から順に優秀な者を並べていく。
能力者でも数の多いエスパーならば、使える能力の数、範囲、継続時間などで比較されていく。
暁人のような他に確認されていない能力や使用者が少ない能力は比較が難しいので、少数派の能力者は特性で選別され、その中でまた比較していくのだ。

事前に対策を練るなどの不正を防ぐ為に、試験の相手や内容は一切知らされない。
監視役とはいえ一介の生徒である暁人も同様だ。

《では、伝えておけ。試験日時は一週間後だ。……また、用があれば連絡する》

ブツッ

無愛想な校長らしい一方的な切り方だった。
いつもなら少しムッとするところだが、今日の暁人の機嫌はすごぶるよかった。
へらっと相好を崩した。

その理由も、世界が頼みごとをしてくれたから。
頼みごとの内容は穏やかな物ではなかったが、どこかズレた暁人の気にするほどのことではなかった。

(あの絶対零度の創始さんが!顔を赤らめて、しかも敬語だった!!)

不覚にもきゅんきゅんしていた暁人。
誰にでも等しく噛みつく警戒心の強い猫が自分にだけ懐いているような甘い優越感に満たされていた。

頭が麻痺していた暁人は、試験のことを右から左へ聞き流していた。


***


翌日には、焼け焦げた教室は修復され、体力を回復して復帰してきた吾妻は、何事もなかったように平穏な日常に戻ったように表明上は見えた。
しかし、吾妻の暁人への過剰な警戒心であったり、南条が世界の一挙一動に目を光らせていたりと、教室のギスギスした雰囲気は隠しようもなかった。

まさに一触即発。
決定的な亀裂が入っていた。

付き纏ってくる暁人に、世界はほとほと嫌気がさしていたが、毒味役を頼む傍ら邪険に扱うわけにもいかなくなっていたので、ふたりは常に行動を共にしていた。
暁人は世界のデレを引き出そうと必死だった。

そうして、崖で綱渡りをするような、一歩踏み違えば奈落の底、のような状況で一週間が過ぎた。

今日は暁人が世界に言い忘れた試験の日だった。

「創始さん!テストどうだった?」

「……」

小テストの返却が行われた授業が終わったすぐ後だった。

ピピピピピッビーッビーッビーッ!!!

「おわっ!?」

けたたましい電子音が教室に鳴り響いた。
暁人から音が聞こえていて、本人は慌ててポケットをまさぐっていた。
教室は一瞬にして、しん、と静まり、警戒するような視線が暁人に突き刺さった。

《ジジーーおい、吉野》

「はいっ」

《今日の放課後に決まった。授業が終わり次第、奴を連れて第三競技場へ来い》

教室から出るべきか、とドアに足を向けた暁人だったが脈絡のない言葉に足を止めた。

「ん?なんかありましたっけ、今日?」

《……なにを呆けている。試験だ!!

連絡しただろう!

ゴホン、……まあいい。兎に角、放課後、必ず連れて来い。いいな!ーーブツ》

暁人は不思議な顔をしていたが、あやふや~っと記憶が蘇ってきて顔を青くした。

「ああっ!忘れてた!!……ごめんっ創始さん!!」

「なに?」

小テストに目を落としたまま、世界は言った。

「じ、実は~……」

ゴニョゴニョ、と試験のことを伝える暁人。
世界は冷たい目をしながら、動揺することもなく耳を傾けていた。

「ーーーつまり、その試験とやらを受ければいいんだろ。わかった」

「え!?ウン、そうだけど……。やっぱ心の準備とか必要じゃない……ですか」

「別に……」

「マジでごめん、創始さん……」

拝むような姿勢で頭を下げる暁人。

それよりもーー、と言葉を続けた世界。

「なんなんだ、このテスト」

ピラ、と暁人にテストを示した。
そこには赤いインクで『0点』、そして『もっと頑張りましょう』の文字が。

「えっ」

「意味がわからない……」

頭を抱えた世界に暁人は驚く。

高校の一年を“無能”として過ごしていた世界は、超能力学という分野を全く知らなかった。
二年になって少し高度になった授業に一切ついていけていなかった。

「0点……」

優等生な性分の世界は多大なるショックを受けていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あなたがそう望んだから

まる
ファンタジー
「ちょっとアンタ!アンタよ!!アデライス・オールテア!」 思わず不快さに顔が歪みそうになり、慌てて扇で顔を隠す。 確か彼女は…最近編入してきたという男爵家の庶子の娘だったかしら。 喚き散らす娘が望んだのでその通りにしてあげましたわ。 ○○○○○○○○○○ 誤字脱字ご容赦下さい。もし電波な転生者に貴族の令嬢が絡まれたら。攻略対象と思われてる男性もガッチリ貴族思考だったらと考えて書いてみました。ゆっくりペースになりそうですがよろしければ是非。 閲覧、しおり、お気に入りの登録ありがとうございました(*´ω`*) 何となくねっとりじわじわな感じになっていたらいいのにと思ったのですがどうなんでしょうね?

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

〖完結〗王女殿下の最愛の人は、私の婚約者のようです。

藍川みいな
恋愛
エリック様とは、五年間婚約をしていた。 学園に入学してから、彼は他の女性に付きっきりで、一緒に過ごす時間が全くなかった。その女性の名は、オリビア様。この国の、王女殿下だ。 入学式の日、目眩を起こして倒れそうになったオリビア様を、エリック様が支えたことが始まりだった。 その日からずっと、エリック様は病弱なオリビア様の側を離れない。まるで恋人同士のような二人を見ながら、学園生活を送っていた。 ある日、オリビア様が私にいじめられていると言い出した。エリック様はそんな話を信じないと、思っていたのだけれど、彼が信じたのはオリビア様だった。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【書籍化進行中、完結】私だけが知らない

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った

五色ひわ
恋愛
 辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。アメリアは真実を確かめるため、3年ぶりに王都へと旅立った。 ※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話

処理中です...