能力が舞い戻っちゃいました

花結 薪蝋

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【本章】異端と天災の力比べ

【10】思惑

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 「あの~、創始さん?ここが、創始さんの部屋だけど……」

「……」

 解散と告げられてから、放課後に行う筈だった学園の案内をすることにしたオレ、吉野 暁人は先ほどから困惑していた。

何故なら、極秘の監視対象である創始 世界さんが不機嫌だからだ。

何か気に触るようなことをした覚えはないが、余計なことをしてしまった覚えはあった。

(でしゃばりすぎたな)

オレはよく、お節介だと言われる。
今回も存分にその性分を発揮してしまったようだ。

電気男の暴走を止めたのはまだいい。
火傷した子を運ぶ時、創始さんをひとりにするのは良くなかったな、と後悔していた。

創始さんは強い。
多分、オレなんか瞬殺されるだろう。
だけど、強いからといって、知らない奴に囲まれた状況で心細くなかった筈がない。

数字や文字だけで聞くと実感が湧かないが、彼女は多くの人間を殺している。
それなのに犯した罪の意識に苛まれる様子がないどころか、また殺すと言う彼女が痛々しかった。

彼女を極悪人とは思えなかった。
まるで、無力な子供だ。

(ちょっとだけ、罪悪感)

オレを一瞥することなく、自室に入っていった創始さん。

バタン。

目の前で強く閉じられた扉が彼女からの拒絶に感じた。

頭を掻いて、ふーっと息を吐いた。

監視なんかするもんじゃないな……と思った。
同時に、監視だなんて思わずに一緒に居てあげたいな、とも思う。

(ーーー可哀想だから)

もう一度、笑顔を浮かべて彼女に向き合おう。
何か、彼女のためにしてあげられることを探そう。

「あっ!

オレも同じ階に引っ越したって言うの忘れてた……」


***

同時刻。
気絶した吾妻あずまを水木のテレポートで保健室まで転送し終えたところで、後始末をしなければならない教官と、転送の準備を手伝った為に帰り損ねた南条 彩のふたりが、未だに焼け焦げた教室に残っていた。


「教官、少し伺いたいのですが」

と、割れてしまった窓を一枚ずつ指差して確認しながら、始末書に記入していく教官に南条が話しかけた。

「なんだ?」

そう言いながらも依然として、SSSクラス担任、左俣さまたの視線は紙と壁の往復をしている。
黙った南条はじっと作業が終わるのを待った。

始末書は学園の事務に提出して、事務から外部の修理屋に修復を依頼する。
損壊の程度で依頼料が決まる。
A~Dでランクがあり、Aの料金が最も高価で重度の損壊に対応し、Dは安いものの軽度のものにしか適応されない。
ちなみに、今回の放電で真っ黒な教室の損壊レベルはBである。

天災と呼ばれるほどには問題の多いSSSクラス。
力の強い子供ばかり集まる為、修理屋によく世話になるのは仕方がないが、学園の財政を圧迫していた。
よって散財に厳しい。
けれども、またしてもBレベルの修復を頼まなければならない。
肩身が狭い思いをするのは、いつだって担当教官の左俣さまただった。
今もゲッソリしている。


パタン
左俣さまたがファイルを閉じた音に、ガラスなしの窓枠からぼんやり別校舎を眺めていた南条は顔をあげた。

「……で?なんだ」

「はい。あのふたりーーー、創始 世界と吉野 暁人のことなんですが……」


***

 時刻は昼休憩。
左俣が去った今も、南条 彩は教室に残っていた。

煤けた窓枠に指を添わせ、黒く染まった指先をボコボコ、と湧いた水が洗い流した。
手のひら程の大きさになった水の球の形を変えて弄びつつ、彼女は笑みを浮かべた。

教官は「許可を得る」と煮え切らない態度で報告に行ってしまったが、南条は提案が通ること確信していた。
何故なら、あの学園長が却下する筈がないのだ。
南条は学園長の思惑を理解していた。

これから先、創始 世界を待ち受けている未来を予見していたのだ。

今は学園長と南条の利害の一致しているが、いつか必ず仲違いすることもわかっていた。
だから、学園長の手が及ぶまでに、目的を果たさねばならなかった。

その第一手として、あの提案をした。
けれども南条は懸念を禁じ得なかった。
かつての甘い尊敬が、逆に不安となって南条を襲っていた。

窓枠から空を見上げる南条は浮かない顔をしていたが、それも一瞬のこと。

何気なく落とした視線の先に、花壇があり、そこでひとりの女子生徒が花に水やりをしていた。

浮かない顔をした彼女とは反対に、南条の頬肉はグングン持ち上がっていく。

「良いものを見つけた」
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