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【本章】異端と天災の力比べ
【9】妬ましくて鬱陶しくて憎らしい
しおりを挟む「貴女、お姉ちゃんでしょう!!どうして、弟よりできないの!!」
パシンッ
弱い力。あたしの頬を赤くもできない白魚の柔い手。
だけど、心を傷つけるには十分だった。
「ママ……」
すると、弱々しい声が聞こえてきて、あたしは舌打ちしたい気分になった。
ママは、物陰から心配そうにこちらを覗く出来の良い弟に気づいて相好を崩した。
「あら、火蘭。どうしたの?」
駆け寄ってきた火蘭の目線に合わせて腰を屈めたママ。
そんなママを、おどおどとした態度で見上げる火蘭が、今から何を言うのか想像がついてあたしはげんなりとした。
「そんなにお姉ちゃんをおこらないであげて……」
「良い子ねぇ、火蘭は。
火蘭がそう言うのなら、もう止すわ」
そう言って火蘭の頭を撫でた後、ママは向き直って、あたしを見下ろした。
「火蘭はこんなにもイイ子なんだから。貴女も見習いなさい!
もうニ度とこんなこと言わせないで。わかった?」
「はい……」
項垂れて、渋々発した言葉だったが、ママは満足したようでどこかへ行ってしまった。
残ったのは気まづい空気と、出来損ないのあたしと稀代の天才の名を欲しいままにしている弟。
「お姉ちゃん、だいじょうぶ……?」
そのおどおどした声を聞いた途端、沸々と込み上げるものがあった。
ーーー憎しみだ。
(おまえがそれを言うか!!)
あたしがこうも比べられるのは、おまえの所為なのに。
昔は可愛い弟だった。
あたしを追いかける鈍臭い弟を疎ましく思うことはあっても、憎んではいなかった。
いつの間にか、追い越された成績。
周りからの期待が失望へ変わり、品定めする視線が増えた。
あたしから特別を奪ったのは、弟だった。
何より耐え難かったのは、弟が学園から『天災クラス』に勧誘されたときのことだ。
あたしはその時、天災クラスよりひとつ下のSSランクのクラスに入る予定だった。
悔しかったけど、あたしはちゃんと納得していた。
それなのに、弟、火蘭はあたしにとって最大の侮辱行為ともとれることをした。
あたしを『天災クラス』に入れる為に、入学を断ったのだ。
『美蘭といっしょじゃないと、SSSクラスなんかはいらない!
ぼくもSSクラスにいく!!』
そう言って駄々を捏ねる弟に姿をよく覚えている。
その先には、困った顔の校長と学園長。
学園長は、それから二言くらい説得の言葉を弟に投げかけたけど、弟は頑なに拒んだ。
そして、あたしを冷めた目で見た。
言外にお荷物だと言われているようだった。
SSSクラスの能力者の減少が深刻化していた学園側は承諾せざるを得なくて、学園長はその要求を呑み、あたしの入学を許可した。
あたしは、学園長にもママにも、そんなことは望んでいないと告げた。
しかし、誰一人としてあたしの意思を尊重しなかった。
弟がそう言うから?
弟のおかげで、ランクの高いクラスに入れるから?
あたしが“あたし”じゃなくなる。
弟のおこぼれの結晶が、あたしへの評価。
何をしても付き纏う、弟の光。
照らされるあたしの影は濃くなり過ぎて、キレイさも失っていく。
弟なんか、消えればいい。
あたしを醜くしたおまえは、それでも“イイ子”のまんま。
才能もキレイな心も持たないあたし。
才能もキレイな心も持つ弟。
どちらの方が価値があるかなんて、一目瞭然だ。
***
「……ここは……?」
目を覚ました美蘭は、ぼんやりと天井を見つめていた。
泥のような倦怠感に動こうという考えは微塵も起こらず、呆然としていた。
(いやなゆめを見た)
シャッっとカーテンが引かれて、保健室の先生が現れた。
「あ、起きた?
気分はどう?どこか痛いところとかない?
ま、ないと思うけど。このワタシの施術に間違いないもの!」
自慢気な先生に白い目を向けるも、天狗になっている境は気づかない。
さすがに人前で寝ているわけにはいかない、と礼儀作法にうるさい母親に育てられた美蘭はそう思って、体を起こそうとした。
けれど、腕さえ上がらない。
感覚はあるものの動かしづらい。
少しの動きでドッと、怠さが美蘭を襲う。
「……なんか、ダルいよぉ?」
「ああ!それはね、『細胞増幅』の副作用よ。
傷を治したわけじゃなくて、内側の皮膚を無理矢理増やしたの。アナタ、酷い火傷だったから、沢山増やさなきゃならなかった。その分、カラダに負担がかかったってわけ。
だから、怠いのね」
「う、うん」
「たまーに、悪夢を見た!って騒ぐ子もいるけど、まぁ、大丈夫よ。アタシの知る限り、『細胞増幅』で異常を来した人はいないもの。
アナタも、大丈夫そうね~!まっ当然だけど!
それじゃ、怠さがなくなったら帰りなさい。真っ直ぐ、寮にね!」
「は、はい」
捲したてまくる境に呆気にとられているうちに、カーテンは閉じられてしまった。
カーテンの向こうに行ってしまった境は驚くほど静かになって、また静寂がやってきた。
もう一度寝ようか、と目を閉じてみるも眠れそうにない美蘭は、また呆然と天井を見た。
(なんか、ゆれてた気がする)
揺れと銀色の髪。
気を失う前、最後に見たのはそれだった。
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