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【本章】異端と天災の力比べ
【6】水の中に油
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今日は風が強かった。
雨が降りそうな淀んだ天気。
この学園にも、暗雲が垂れ込んでいる。
(あの女が……綾小路を……)
互いに不干渉という暗黙の了解のおかげで、やっと成り立っているような我の強い生徒ばかりのこのクラスに、二人の新顔がやって来た。
鈍感な教官は気づかないが、いつだってピンと張り詰めた空気が漂っている。
教官はパンっと手を叩いて注意を集めた。
「喜ばしいことに、我が校の誇る天才クラスに仲間が加わることになった。二人とも自己紹介を頼む」
我関せずな態度の生徒が多い中、歓迎とは程遠い憎しみの視線で女を見つめる。
そしてギリリ、と歯を噛み締めた。
(ムカつく。ムカつく)
綾小路の天真爛漫な姿頭に過る。
しかし、綾小路は表情を歪めて、蹂躙されていく。
その残酷無慈悲な相手は、今目の前にいる女の顔をしていた。
目の前が真っ赤に染まっていく。
(今ここで、テレパシーで読まれてしまえば、何にもできなくなる……)
ギッと、腕に爪を立てた。
小さな痛みが走る。
今はその痛みだけで理性を保てている。
***
吉野はちらりと私を見て、一歩前に出た。
「えー、っと……。
今日からこのクラスの一員になります、吉野 暁人で、す。
趣味は……特にないけど、毎日、学校の花壇で水遣りをしてます!花は青い花が今一番気に入ってて、この教室にも飾りたいと思ってます。もしも植物と相性の悪い人がいたら、やめますんで言って……ください。そんで、好物は--め
「もういい!次、創始!」
忌々しげに睨む担任(?)から、叱咤が飛んで口を噤んだ吉野。
またちらりと視線を寄越してきた。
奴の顔色を伺うような視線がうざったい。
「私の名前は、創始 世界」
ピクッと反応した人がちらほらといた。
どうも悪名が知れ渡っているらしい。
「皆さんもご存知だろうある事件を起こした、その所為で、この学園に転入することになった……」
敬語はやめた。
敬うべき人間は、この世にいない。
改めて、周りを見渡す。
九席しかない机。
並んでいない席に癖の強そうな六人が座っている。
そのうちの私と吉野を抜いても、ひとつ余る。
能力が記憶していた綾小路の言葉に、天災級がどうのこうの、とあった。
余った席が綾小路の席とは限らないが、あのお嬢様がこのクラスにいたのは間違いない。
ククッ、と口の端が引き攣った。
「だから……何が言いたいかって……お前たちが私に余計なことをしないよう忠告しとく。
私に歯向かう奴は、残らず殺す!
死にたくなかったら、極力、私に関わらないことだ」
あの女みたいに解体されて死ぬことになる、その言葉は呑み込んだ。
「この言葉は嘘でも誇張でもない」
うるさくはなかったが、何かしらごそごそと動きがあって落ち着きがなかった生徒たちが、ピタリと前を向いて静まり返ったのはこの時が初めてだった。
「っと!おいおい、今のは嘘だから!!みんなもそうピリピリするなよ!!」
吉野が私を押し退けて、前に出てきた。
すると、パチパチっと稲妻が走った。
「ッやめろ怒井っ!!!」
教師が叫んだ。
座ったまま、睨みつけてくるガラの悪そうな男子の体からバチバチっと放電している。
一本一本立ち上がった真っ赤な髪の毛。
吊り上がった目尻が、怒りを表現していた。
「てめぇ、誰に向かってそんな口きいてんだ?」
ドスの効いた声が、貫く。
「落ち着けって……」
まーまー、と言ってヘラっと笑う吉野など眼中にない赤毛の男。
「ははは。これは悪い例だ……」
私の呟きにピクッと青筋を立てたのを見た一瞬。
視界が白く染まった。
***
「ちょっとォ~。歓迎にしては手荒過ぎやしない?アンタもこのくらい言ってたでしょォ?」
豊満な胸を机に載せて頬杖をつく安藤 水木は窘めたものの、顔は笑っていた。
「「生きてる~~?」」
隣り合った机をくっつけていて、互いのそっくりな顔を見合わせたのは双子の真座澤 美蘭、火蘭。
そして椅子に横柄な態度で凭れて、白煙が上がる教卓付近を睨みつけているのが、この惨事を起こした怒井 吾妻。
地響きのような轟音の末、焦げ臭いにおいが充満している教室で本来の調子を取り戻した生徒たち。
もくもくもく……
美蘭が空気を動かして、煙を払う。
ぐにゃん、と歪に動く白い塊に人影が写った。
一同はその人影を、学園内トップクラスの『防壁』の持ち主の教官、もしくは、一つの建物を人間諸共消し去ったと噂の大罪人、創始 世界だと思った。
しかし、現れたのはヘラヘラしたままの吉野 暁人だった。
雨が降りそうな淀んだ天気。
この学園にも、暗雲が垂れ込んでいる。
(あの女が……綾小路を……)
互いに不干渉という暗黙の了解のおかげで、やっと成り立っているような我の強い生徒ばかりのこのクラスに、二人の新顔がやって来た。
鈍感な教官は気づかないが、いつだってピンと張り詰めた空気が漂っている。
教官はパンっと手を叩いて注意を集めた。
「喜ばしいことに、我が校の誇る天才クラスに仲間が加わることになった。二人とも自己紹介を頼む」
我関せずな態度の生徒が多い中、歓迎とは程遠い憎しみの視線で女を見つめる。
そしてギリリ、と歯を噛み締めた。
(ムカつく。ムカつく)
綾小路の天真爛漫な姿頭に過る。
しかし、綾小路は表情を歪めて、蹂躙されていく。
その残酷無慈悲な相手は、今目の前にいる女の顔をしていた。
目の前が真っ赤に染まっていく。
(今ここで、テレパシーで読まれてしまえば、何にもできなくなる……)
ギッと、腕に爪を立てた。
小さな痛みが走る。
今はその痛みだけで理性を保てている。
***
吉野はちらりと私を見て、一歩前に出た。
「えー、っと……。
今日からこのクラスの一員になります、吉野 暁人で、す。
趣味は……特にないけど、毎日、学校の花壇で水遣りをしてます!花は青い花が今一番気に入ってて、この教室にも飾りたいと思ってます。もしも植物と相性の悪い人がいたら、やめますんで言って……ください。そんで、好物は--め
「もういい!次、創始!」
忌々しげに睨む担任(?)から、叱咤が飛んで口を噤んだ吉野。
またちらりと視線を寄越してきた。
奴の顔色を伺うような視線がうざったい。
「私の名前は、創始 世界」
ピクッと反応した人がちらほらといた。
どうも悪名が知れ渡っているらしい。
「皆さんもご存知だろうある事件を起こした、その所為で、この学園に転入することになった……」
敬語はやめた。
敬うべき人間は、この世にいない。
改めて、周りを見渡す。
九席しかない机。
並んでいない席に癖の強そうな六人が座っている。
そのうちの私と吉野を抜いても、ひとつ余る。
能力が記憶していた綾小路の言葉に、天災級がどうのこうの、とあった。
余った席が綾小路の席とは限らないが、あのお嬢様がこのクラスにいたのは間違いない。
ククッ、と口の端が引き攣った。
「だから……何が言いたいかって……お前たちが私に余計なことをしないよう忠告しとく。
私に歯向かう奴は、残らず殺す!
死にたくなかったら、極力、私に関わらないことだ」
あの女みたいに解体されて死ぬことになる、その言葉は呑み込んだ。
「この言葉は嘘でも誇張でもない」
うるさくはなかったが、何かしらごそごそと動きがあって落ち着きがなかった生徒たちが、ピタリと前を向いて静まり返ったのはこの時が初めてだった。
「っと!おいおい、今のは嘘だから!!みんなもそうピリピリするなよ!!」
吉野が私を押し退けて、前に出てきた。
すると、パチパチっと稲妻が走った。
「ッやめろ怒井っ!!!」
教師が叫んだ。
座ったまま、睨みつけてくるガラの悪そうな男子の体からバチバチっと放電している。
一本一本立ち上がった真っ赤な髪の毛。
吊り上がった目尻が、怒りを表現していた。
「てめぇ、誰に向かってそんな口きいてんだ?」
ドスの効いた声が、貫く。
「落ち着けって……」
まーまー、と言ってヘラっと笑う吉野など眼中にない赤毛の男。
「ははは。これは悪い例だ……」
私の呟きにピクッと青筋を立てたのを見た一瞬。
視界が白く染まった。
***
「ちょっとォ~。歓迎にしては手荒過ぎやしない?アンタもこのくらい言ってたでしょォ?」
豊満な胸を机に載せて頬杖をつく安藤 水木は窘めたものの、顔は笑っていた。
「「生きてる~~?」」
隣り合った机をくっつけていて、互いのそっくりな顔を見合わせたのは双子の真座澤 美蘭、火蘭。
そして椅子に横柄な態度で凭れて、白煙が上がる教卓付近を睨みつけているのが、この惨事を起こした怒井 吾妻。
地響きのような轟音の末、焦げ臭いにおいが充満している教室で本来の調子を取り戻した生徒たち。
もくもくもく……
美蘭が空気を動かして、煙を払う。
ぐにゃん、と歪に動く白い塊に人影が写った。
一同はその人影を、学園内トップクラスの『防壁』の持ち主の教官、もしくは、一つの建物を人間諸共消し去ったと噂の大罪人、創始 世界だと思った。
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