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【本章】異端と天災の力比べ
【5】天才どもは災いをもたらす
しおりを挟む能力が舞い戻ってから、一週間が過ぎた。
夢のように現実味のない日々だった。
人を虐殺して、母さんと別れて、名前が本来のものに戻った。
私を知る人はいなくなって、けれどみんな私の罪を知っている。
そんな環境で、これから過ごさなきゃいけない。
何故か生き苦しい。
誰も怖くなくなった。私が一番強いから。
それなのに何故、息苦しいのだろう。
まだ何かを恐れているのか?
自由になったはずなのに。
誰も彼も、屈服させられるはずなのに。
今も私は何かに縛られているというのか?
その何かが分かれば、めちゃくちゃに跡形もなく壊してやる。
だから今は、他人が必要だ。
私を客観視する他人が。
今だけ、誰かが必要なんだ。
春とも言えない季節が終わっていく。
もうすぐ夏が訪れる。
***
「あ、待って、創始さん!」
歩みの遅い案内人を放って、さっさと教室に向かう。
いつもひとりで行動していた所為か、足の早い私。さらに吉野は所々で声を掛けられ、律儀に、というか馬鹿みたいに返事をする。私たちの距離はひらくばかりだ。
目新しい校舎が新鮮だった。
だが、新しい環境という事実が私の気分を下げていた。
「創始さん!」
遠くの後方から、また声が聞こえた。
そろそろ撒いてしまいそうだ。
役目を果たさない男に苛立ちが込み上げる。
振り返ると、随分と向こうの方に男は立ち止まっていた。
私にそこまで後退しろとでもいうのか?
「さっさと来---
「あの、教室は逆方向ですヨ」
この男が、きちんと案内しないのが悪いのだ。
距離はゼロになった。
男に着いて行くと、華美な装飾が施された校舎に入った。
窓から見える他の校舎より少し低い建物だったが、より目立つ外装であった。
向こうの校舎が青を基調にされて近代的で無駄のない無機質だと形容したなら、こちらは臙脂色と茶色で古めかしく高級感のある重厚な雰囲気を漂わせていた。
あちらの内装は分からないが、こちらの内装と同様に外観に似つかわしいイメージで飾られているのだと思う。
因みに、校長室は青と赤の“学生棟”とは隔絶された校舎にある。
また、今は見えないが緑の“学生棟”も青の校舎の向こうにあって、赤青緑それぞれに独立した学生寮が存在するらしい。
それらは、そのままこの学園の勢力図を表しているそうだ。
赤がヒエラルキーの頂点に立ち、次いで青、最後に緑、別枠で教師軍だという。
「オレ、元は青にいたんだ。青は総称として『普通科』なんて呼ばれてます。Aランク以上の人は不満に思ってる人が多いらしいけど。所属はランクC+~A+まで。
オレは、一応A+に所属してたんだけど、その前は緑校舎の方にいたり……」
「お前の話はいい」
「あ、ハイ。
えーと、青は説明したから、次は緑か。
緑は、通称『落ちこぼれ学科』。比較的、力の弱い人たちが集まってます。ランクE-~C-までが所属。E-に限っては“無能”と大差ないレベルだって言われたなぁ。
んで、オレも初めての赤だけど……」
「お前、『特進科』じゃないのか?」
「うん」
「……」
「創始さんのパートナー役として、入れてもらえることになった」
「……」
「……ハイ。説明を再開しますよ。
赤は『特進科』なんて名称ですが、ほとんどは『天才クラス』って呼んでる。ランクはS~SS、最後にほんの一握りだけSSSランクの生徒が所属してる。他の学科が大体一千人くらいいるのに対して、『天才クラス』は百人に満たない人数しかいない。だからと言ってはなんだが、他の学科よりスゲー待遇がいいようです」
頭を掻き毟る案内人を無視していると、『SSS』と書かれた標識が壁から吊り下がっているのを見つけた。
「ここか?」
指を指して尋ねる。
廊下の突き当たり、見たことのある引き戸が変に豪華な形をしてあった。建物の最上階の一番端っこに、ひっそりとだが異様に存在感を持って佇んでいた。
「そう、そこです。
あ、ちょっと待って。そのSSSランクのクラスは、災いばっか持ってくるって理由で---
ガラララ
『天災クラス』って呼ばれてて……て聞いてない!?」
ぼやけて聞こえた案内人の言葉。
だから、気をつけろとでも?
それとも奴らの機嫌を損ねないように行動しろか?
くだらない。
沈黙に響いた扉の音。
問題児どもが、一斉にこっちを向いた。
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