能力が舞い戻っちゃいました

花結 薪蝋

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【本章】異端と天災の力比べ

【4】別離

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***

「なんで外に出たのッッ!!」

母は私の髪を鷲掴みにして、部屋の中へ引き摺り込んだ。
そして母が大きく腕を振るうと、私は投げ飛ばされて背中に衝撃が加わった。

「あぐっ……ふン!」

私は自分を守れるよう小さく蹲って頭を抱えた。

怯えて私に接する母がいきなり豹変した風に私の目には写った。
おそらく限界だったのだ。
凡人は常識から外れると気が狂ってしまうのだ。
私という異物を凡人たる母は子供だと血を分けた者だと認めたくなかったのだ。

「なんで外に出ようとするの!!アンタを見られたら、周りになんて言われると思ってるの!!私まで化け物扱いされるじゃない!!なんなのよアンタ!!なんで私の娘がこんな……オカシイのよ!!あの馬鹿女の娘は普通なのに、なんでこの私が……!あの男も浮気なんかし始めるし!!アンタが面倒みなさいよ!私だって知らないわよ!!なんなのよ!こいつまで押しつけて、もう用済みって訳!?クソックソッ!!私は悪くないのに、こいつが勝手にこんななのに……なんでなんでなんでよ!!」

喚き、泣き、頭を振り乱す。様子のおかしい母を自分の影を見つめながら感じていた。
何故なのか、理由を欲しがる母に私も混乱していた。
私が生き残ったことが悪かったのか?
母は何を悪いと思っているのか。自分のどこが悪いのか。
父はどこへ行ったのか?
何故、帰ってこなくなったのか?

なんでこんなことになったのか???

「出なさいよ出なさいよ……」
貧乏揺すりをする母は電話をかけていた。

ピーと音がして、
《繋がりました》
と声がする。

「アンタ!!どこにいるのよッッ!!」
《おまっ……!ちょ、やめろよ!!仕事中だぞ!》
「嘘よ。うそうそ!アンタ、あの女のところにいるんでしょ?場所は分かってるんだから!!」
《なんの話だよ!!》
「きぃぃいいい!!早く帰ってきなさいよ!!さもないとあの女のとこ、乗り込んでやるからッッ!早くしなさいよッ!」
《お、おい---……ブツン》

「アンタの所為だからね……」
恨みの籠った母の目は充血していて今にも飛び出しそうなほど見開かれていた。

程なくして、父は帰宅した。
仕事着のまま、汗だくで息も切れていた。
母を見て、第一声。
「お前!仕事中だったんだぞ!!しかも丸聞こえだ!!」
「知らないわよ!アンタが帰ってこないのがいけないんでしょ!!今日だって、私が帰ってこなけりゃこいつが外に出てたんだから!」
「お前が面倒を見てないからだろ!!仕事もしてないくせに!何してんだよ!!」
「女遊びしてるアンタに言われたくないわ!!」

私は耳を塞いだ。
うるさいうるさいうるさい!
聞きたくなかった。
いつもの喧嘩に堪えきれなくなったのは私もだった。

「うるさい……うるさいよ……!」

頭に血が上った二人には聞こえなかっただろう小さな声。
そして嘘みたいに静かになった空間。
どこからか鳥の囀りまで聞こえてきた。

恐る恐る顔を上げると、啀み合う二人はいなかった。
永遠に現れることはないと私は知っていた。

***

「それから後は、ご存知の通り、母さんに引き取られたって訳。……いや、その後すぐどっかのお嬢様に会うんだけど、なんだかんだあって能力をそのお嬢様にあげるんだけど、まあ省略するね。

母さんが知りたいのって、母の失踪のことだもんね」

この話をして初めて母さんは私を見た。

「赤の他人って聞かされてたけど、私たちそれにしては似過ぎている。それに私の実母にも似ている。ずっと言ってくれてないけど、母の親戚の人だよね、母さんって。だから、最後に教えてあげようと思ったんだ」

「うん」

「私、超能力者専門の学校に引き取られるんだって。もう偉い人と話をつけてきた。それに、やっぱり私、人殺しだから……。捕まえられないと思うけど、この名前で捕まったら今まで私を養ってくれた恩を仇で返すことになる。だから、元の姓に戻したいんだ」

「そう」

「これにサインだけしてくれる?後は、他の人がやってくれるから」

折り畳まれて小さい紙をポケットから取り出して、広げる。ペンの在り処は知っているので取りに行く。変わらぬ場所にあったペンを母さんに渡した。
すんなりと受け取り承諾のサインを書く女に、何も感じない訳ではなかった。
でも、直視しなければならない感情でもなかった。

「書いたわ」

「……ありがとう」

もうこれっきり母さんにはお礼を言わない。
この軽いありがとうで最後だ。

「じゃあ、行くよ」

「ええ」

やはり女は、感情のない目で私を見送った。

玄関を出る。
懐かしく馴染みのある温度も消える。
部屋から出ると、薄闇のなかに眩しい明かりか点々と灯っている。
背を向けた方からも明かりが漏れ出してきた。
私が進む方向はその所為で濃く影を落としていく。








「ねえ」

引き止める声があった。
驚いて振り返ると、明るい玄関で女が笑っていた。

「私、あんたの叔母なのよ」

私はこれから一生、彼女に会わない。
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