能力が舞い戻っちゃいました

花結 薪蝋

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【本章】異端と天災の力比べ

【3】母さん

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***
 私は会いに行った。
母さんに。

学校から帰宅するように自然に玄関に入った。

アパートまで送迎に初の瞬間移動を行った。
初めての行いによって、いつも見ていた町が新鮮味を持って私を出迎える訳でもなく、古い記憶として取り残されたままだった。
アパートの前に神経質な監視役を待たせて、私は階段を上った。

ドアを開けると家の匂いが漂ってきて、外の世界とはまるで違う。

「ただいまー」

呑気にそう言ってみた。
登校してから二、三日、家に帰らなかった私を母さんは探さなかったと学園の一番偉い人から聞いた。
所詮、養子だ。
十年一緒に暮らしたとはいえ、愛想のないうえに実子でない私にそう熱をあげられないだろう。

ジャラジャラ
ビーズが連なった暖簾を避けて、リビングに入る。
夕方になって間もない空はまだ明るくて、部屋には灯りがついていない。

「あら、あんた帰ってきたの?」

「うん、ちょっと用があってね」

同じ室内にあるキッチン。
そこで母さんはお玉らしき物の持ち手を鍋に立て掛けて、やっと振り向いた。

「ちょっと座ってくれる?」
「あんたはお茶淹れてよ」
「わかった」

食器棚からコップをふたつ取り出して、やかんに入ったお茶を注いだ。
それを母さんの前と私が座る席の前に置いた。

「それで、用はなに」

「私のこと戸籍から抜いてくれる?」

「理由は」

「それも今からちゃんと話す。私の通ってた高校、消滅したの知ってる?それをやったの私なんだ。私、実は“無能”じゃなかったみたい」

「そう」

「母さんには教えなくちゃいけないから、全部言うけど、途中で口を挟まないでよね」

「わかったわ」

いつも通り、無関心の眼差しで私を通り越して、どこかを見る母さん。
すっと息を吸い込んで、口火を切った。

「私の両親は失踪したんじゃない。

私の意図しないとこで殺しちゃったんだ。

私が初めて超能力を使ったのは確か5歳の頃だったと思う。
近くの公園でボール遊びをしていた時、誤って池の中に落としてしまった。木の枝でそのボールを引き寄せようとした。けど、ギリギリのところで届かなくって。もっと身を乗り出して手を伸ばしたんだ。
そして---体勢を崩して水の中に落ちてしまった。

今なら足が着くような深さでも、その時の私は背が低かったし冷静じゃなかった。
恐怖より、生命の危険を感じたことを覚えている。
私が日々、生きている実感を簡単に塗り潰すような圧倒的で強烈なリアル……あれが死の恐怖だった。
それが私の箍を外したんだと、思う。

その時、初めて能力を使った。

無意識にどうすれば助かるのか必死で頭を巡らせた。
死にたくない死にたくない。そればっかりが頭を巡って考えが纏まらなかったけど、口や鼻を塞ぐ水が邪魔だって思った。すると……池の水を残らず消え去った。

それで私は助かったけど、ここからが重要。
母親に真っ先に言いに行ったんだ、池の水が消えたって。私が邪魔だって思ったから消えたんだって、言った。

もちろん信じて貰えなかったよ。
だから、証明する為に、その時、母が握っていた包丁に消えろって願った。
能力を今まで使えなかったことが嘘のように、簡単に思い通りに現実味なく包丁はブロックになって分解された。
今考えると使い慣れてない能力を使用するのは母親の手まで消しかねない行為だったけど、子供だったんだ、そこまで考えるが及んでなかった。
まあ、それはいいとして。
冷めた母もさすがにびっくりしてた。
驚きよりも、何が起こったのか理解できていなかったようだったから、また私は嘘つきじゃないって証明に、母のエプロンを消した。
母は悲鳴をあげたよ。
私もそこでやり方を間違えたと思った。だって謝りに近づいただけで、音を立てて後退ってたし。
そこからは断片的にしか覚えてないけど、両親が怒鳴りあって喧嘩ばっかり続く毎日になった」

何も映らない目が、人形のように開いていた。
その中に彼女とよく似た私が見えた。
他人だと聞かされて育った私。
でも、どうしてこんなにも似ているのか?
間違いなく実の両親はこの世にいない。
今、目の前にいるのは誰なのか、わからない。
私は目を逸らした。
テーブルの木目をじっと見つめた。

「両親は私を隠した。
当たり前に通ってた小学校も行けなくなった。暗い部屋に閉じ込められて、誰とも話さない日々が長く続いたよ。

そんなある時、退屈で退屈で耐えられなくなったんだ。だから、抜け出した。でもね、ドアを開けた時、運悪く母がいたんだ。
鬼みたいな形相で、母は私に掴みかかった」

あれは、まさに私の母に相応しい化け物染みた様子だった。
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