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【序章】破壊者の再来
【10】さよなら、友達になれたかもしれない人よ
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能力を放った右端から、一番離れた左の階段を目指して進む。
廊下に出て早々、重くて息が切れた。
2年の教室は3階にあるので、目的の屋上に近い。
階段のところまで辿り着いて、屋上へ上がる階段までを阻む柵の扉を消し去る。
和佐を持ち直して、階段を上った。
「はぁはぁ」
普段なら絶対にしない重労働に貧血を起こしている。
じんわりと汗が滲んだ。
階段を上りきって、屋上に繋がるドアを消した。
一歩踏み出すと、強風が頬を叩いた。
屋上の右端の方、歪に凹んでいる。
もう時間がなかった。
私は和佐を連れて、屋上の縁に立った。
そこでやっと、和佐の顔を見た。
涙と鼻水でグチョグチョ。
とてもブサイクだ。
なんだか笑えてきて、穏やかな気持ちになった。
「……穂波 和佐。なんで、あなたにこんなことしたかわかる?」
彼女は頷いた。
「私ね、あの時ああしたら自分が虐めの対象になるのはわかってたんだよ。でも、虐めの対象になっても、あなたと私が友達になったら、ふたりで乗り越えるんじゃないかって思った。だから、やっちゃった。馬鹿だった。対象が移ったのに、好き好んでまた虐められる方を選択する人なんかいないよね。普通、みんなそうするよ。あなたが別段悪いわけじゃない」
期待という美しい感情。
それを裏切ることで惨めに変えた穂波 和佐。
彼女の首が私の首に絡みつく。
ごめんね、と謝っているのだろうか。
私は嗤った。
「でも、相手が悪かったね。私はおまえの弱さを許さない」
穂波 和佐が凍りついた。
「私が“無能”のままだったら、おまえは見向きもしなかっただろう!!神さまも粋な計らいをしてくれる!!おまえが教えてくれた!!破壊することが楽しさを!!絶望に暮れる、おまえのその顔。後悔する中東の馬鹿面!!ぎゃははははははははははは!!ほんと残念だわ……!おまえの彼氏におまえを殺させたかった!もっと楽しかっただろうに……」
はぁ。
思い出しただけでも腹が立つ。
もっと苦しませればよかったが、人間は思ったより脆い。
「じゃーな。穂波 和佐!」
渾身の力を持って、両腕で彼女の胴体を持ち上げた。
バランスを崩さないように気をつける余裕はなかったが、興奮がいつもの私より私を有能にしているから大丈夫だった。
ぶん
そして放り投げた。
私の力では、ほとんど学校と彼女と距離を離せなかった。
だからただ落下する。
「アハハハハ!!さようなら!バイバイ!アハハハハハハハハ」
舞台役者のように大きく手を広げて、笑った。
天にも轟く大きな大きな笑声。
喉が痛くなるほど叫んだ。
その時、虐められっ子の私は死んだ。
さようなら、“無能”の私!
そしてよろしく、破壊者の私!
校舎も音を立てて崩壊していく。
足もとからもゆっくり壊れていく。
私は宙を浮きながら、校舎を突き抜けて沈む。
私は目を閉じた。
己の終焉と己の誕生に祈りを込めて。
降り立った時には、校舎は影も形もない。
ただ広い剥き出しの地面に私ひとり。
更地を見て、毒気を抜かれたような気分になった。
「上靴、食わすんじゃなかった……」
靴下が汚れた。
とぼとぼと歩き始めた時。
キュイーン
突如、耳を破壊しそうな高音が鳴り響く。
「なに?」
光った瞬間、
ドッッッッドドドドドーーーーン!!!!!!
地面が揺れた。
爆風が砂埃を舞い上げる。
背中の傷はいい教訓になった、と私は思った。
私は無傷だ。
音が鳴った時点で能力を使い、球体状に分子分解された空間を創り出したからだ。
砂で目を潰されたりもしないが、外は範囲外なので灰褐色に埋め尽くされ何も見えない。
外から何かが飛んできた。
目にも止まらぬ速さで、球体に当たって消滅。
その何かは量を増やすも私には届かない。
すると煙がくねって、視界が晴れた。
何かが飛んできた方には誰もいない。
周りにも誰もいない。
どうなっているんだ、と首を傾げた。
ジジ、と空間に亀裂が走った。
そして何もない空間から数百人になるであろう大所帯が現れた。
こんなこと、“無能”にはできない。
つまり……
私の直線上にいる年配の男が、テレパシーで話し出した。
「---我らは、国家超能力管理委員会である!抵抗せず投降しなさい!!我々が保護する!」
---でたらめな超能力者どもだ。
好奇心を持って私は集団に近づいた。
ぴりっと緊張が走った。
「止まりなさい!これ以上近づけば抵抗と見なして攻撃する!」
超能力者のなかには、私を止められる者がいたりするのだろうか。
この破壊者を!
「止まりなさい!!」
焦りが滲んだ声が自身の頭の中で聞こえる。
年配の男の横にいる軍服のような衣装に身を包む若い男が手をあげた。
「攻撃準備!!ヨォーい、
新しいダミ声のテレパシーが伝わってきた。
一斉に各自違う形をとった集団。
「止まりなさい!!!」
「撃てェェエ!!」
バッと、
勢いよく手が下げられた。
廊下に出て早々、重くて息が切れた。
2年の教室は3階にあるので、目的の屋上に近い。
階段のところまで辿り着いて、屋上へ上がる階段までを阻む柵の扉を消し去る。
和佐を持ち直して、階段を上った。
「はぁはぁ」
普段なら絶対にしない重労働に貧血を起こしている。
じんわりと汗が滲んだ。
階段を上りきって、屋上に繋がるドアを消した。
一歩踏み出すと、強風が頬を叩いた。
屋上の右端の方、歪に凹んでいる。
もう時間がなかった。
私は和佐を連れて、屋上の縁に立った。
そこでやっと、和佐の顔を見た。
涙と鼻水でグチョグチョ。
とてもブサイクだ。
なんだか笑えてきて、穏やかな気持ちになった。
「……穂波 和佐。なんで、あなたにこんなことしたかわかる?」
彼女は頷いた。
「私ね、あの時ああしたら自分が虐めの対象になるのはわかってたんだよ。でも、虐めの対象になっても、あなたと私が友達になったら、ふたりで乗り越えるんじゃないかって思った。だから、やっちゃった。馬鹿だった。対象が移ったのに、好き好んでまた虐められる方を選択する人なんかいないよね。普通、みんなそうするよ。あなたが別段悪いわけじゃない」
期待という美しい感情。
それを裏切ることで惨めに変えた穂波 和佐。
彼女の首が私の首に絡みつく。
ごめんね、と謝っているのだろうか。
私は嗤った。
「でも、相手が悪かったね。私はおまえの弱さを許さない」
穂波 和佐が凍りついた。
「私が“無能”のままだったら、おまえは見向きもしなかっただろう!!神さまも粋な計らいをしてくれる!!おまえが教えてくれた!!破壊することが楽しさを!!絶望に暮れる、おまえのその顔。後悔する中東の馬鹿面!!ぎゃははははははははははは!!ほんと残念だわ……!おまえの彼氏におまえを殺させたかった!もっと楽しかっただろうに……」
はぁ。
思い出しただけでも腹が立つ。
もっと苦しませればよかったが、人間は思ったより脆い。
「じゃーな。穂波 和佐!」
渾身の力を持って、両腕で彼女の胴体を持ち上げた。
バランスを崩さないように気をつける余裕はなかったが、興奮がいつもの私より私を有能にしているから大丈夫だった。
ぶん
そして放り投げた。
私の力では、ほとんど学校と彼女と距離を離せなかった。
だからただ落下する。
「アハハハハ!!さようなら!バイバイ!アハハハハハハハハ」
舞台役者のように大きく手を広げて、笑った。
天にも轟く大きな大きな笑声。
喉が痛くなるほど叫んだ。
その時、虐められっ子の私は死んだ。
さようなら、“無能”の私!
そしてよろしく、破壊者の私!
校舎も音を立てて崩壊していく。
足もとからもゆっくり壊れていく。
私は宙を浮きながら、校舎を突き抜けて沈む。
私は目を閉じた。
己の終焉と己の誕生に祈りを込めて。
降り立った時には、校舎は影も形もない。
ただ広い剥き出しの地面に私ひとり。
更地を見て、毒気を抜かれたような気分になった。
「上靴、食わすんじゃなかった……」
靴下が汚れた。
とぼとぼと歩き始めた時。
キュイーン
突如、耳を破壊しそうな高音が鳴り響く。
「なに?」
光った瞬間、
ドッッッッドドドドドーーーーン!!!!!!
地面が揺れた。
爆風が砂埃を舞い上げる。
背中の傷はいい教訓になった、と私は思った。
私は無傷だ。
音が鳴った時点で能力を使い、球体状に分子分解された空間を創り出したからだ。
砂で目を潰されたりもしないが、外は範囲外なので灰褐色に埋め尽くされ何も見えない。
外から何かが飛んできた。
目にも止まらぬ速さで、球体に当たって消滅。
その何かは量を増やすも私には届かない。
すると煙がくねって、視界が晴れた。
何かが飛んできた方には誰もいない。
周りにも誰もいない。
どうなっているんだ、と首を傾げた。
ジジ、と空間に亀裂が走った。
そして何もない空間から数百人になるであろう大所帯が現れた。
こんなこと、“無能”にはできない。
つまり……
私の直線上にいる年配の男が、テレパシーで話し出した。
「---我らは、国家超能力管理委員会である!抵抗せず投降しなさい!!我々が保護する!」
---でたらめな超能力者どもだ。
好奇心を持って私は集団に近づいた。
ぴりっと緊張が走った。
「止まりなさい!これ以上近づけば抵抗と見なして攻撃する!」
超能力者のなかには、私を止められる者がいたりするのだろうか。
この破壊者を!
「止まりなさい!!」
焦りが滲んだ声が自身の頭の中で聞こえる。
年配の男の横にいる軍服のような衣装に身を包む若い男が手をあげた。
「攻撃準備!!ヨォーい、
新しいダミ声のテレパシーが伝わってきた。
一斉に各自違う形をとった集団。
「止まりなさい!!!」
「撃てェェエ!!」
バッと、
勢いよく手が下げられた。
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