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【序章】破壊者の再来
【4】残酷たれ、私には行使すべき力がある
しおりを挟む私は何のために生まれたのか。
その問いにまだ答えられない。
ーーーだが。
私は何故、能力を授かったのか。
何故、この能力だったのか。
昔わからなかった答えが、ーーー今ならわかる。
(世界を屈服させる為だ)
ガタン
椅子を弾き飛ばす勢いで立ち上がった。
みんな目を丸くして私を見て、出席確認中だというのに軽口を叩きあっていた奴も黙った。
担任も言わずもがな。
「あれぇ、どうしたの?
ナニカみんなに言いたいことでもあるのー?」
そして最初に口を開くのは、中東 梢だ。
斜め前方の席、隣に向けていた顔を私に向けた。
嫌な笑み。
顎を手で支えて、椅子に反対向きで跨っていた。
「えー。遂に宣言するのー?学校辞めて、自殺してきますぅって」
沈黙のなか、彼女とその他彼女の友人だけ楽しそうに笑う。
気まず気に顔を背ける者、便乗したいものの表立ってできない者、虐め問題に面倒くさそうな者。
三者三様。十人十色。
私に服従しない者全て、極刑だ。
「死ぬのはお前たちだよ。
決めた。この学校の人間、全員殺す」
「「「「「「ハ?」」」」」」
今度は彼女たちだけではなかった。
何人も同じように開いた口が塞がらない。
「まず、お前の口はいらない」
手を伸ばす。彼女の口を見つめ、空気に手を翳す。
するとどうだろう。
久しぶりに使ったというのに、一分のズレもない。
「ン、ンンーーー!?」
唇、舌、喉びこ、声帯。声を出す器官で思い当たる物を全て分子分解した。
ガタンッッ
私に注目していた周りの人間は、いきなり立ち上がった中東 梢に視線を移した。
口を手で覆った彼女の可笑しな様子をみんなは訝しんだ。
「なに、どうしたの、梢?」
素早く異変を察知して彼女に近寄った友人Aは言葉を途切れさせた。
彼女の日頃の長い屁理屈を聞き続けているみんなはこんなにも黙っているのはおかしいと興味を昂らせて彼女を見つめている。
中東 梢は友人Aを涙目で見た。
「こ、ずえ……?」
口の覆いを取って、
「ぁぁぁぁぅぁ」
唇を失って穴になった口に剥き出しで並んだ歯。舌がないから、普段歯磨きしても見られない、所々紫色の下地で赤い血管の線が刻まれた顎の内側が見えてしまった。
「キャああアアアアアアアアアア!!」
友人Aを筆頭に次々右半分から悲鳴が上がる。
「うえええ」
「キャアアアア!」
ガタタタ
「うお、マジ……」
「え……?、ぅえ???」
ガタ、どっすん
「うわああああああああ」
「うそ……」
「え、何なの?」「なに、なに」
彼女の長い茶髪しか見えていない左半分には何が何だかわからない。
一番大袈裟に転んだのは意外も意外、担任だった。
「いったい、なにをしたのォオ!!!!!」
机にぶつかりながら、私に迫る三十代後半の担任。
ヒステリックな声で野太くなりそうな「オ」の発音も黄色い耳障りな声だった。
目前まで迫ってきて、私のクタクタの襟を掴もうとして---、
腕が消えた。
「キャアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
担任が丸太になった自身の腕を見て叫んだ。
「う、わああああああああああアアアアア!!!」
「イヤアアアアア!イヤアアアアア!」
「消えた消えた消えたキィぃぃええええええた?」
「なに、なにが起こったの!?」
「おぷ、おぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽ」
「逃げろ。……ににににげろろろろおおおおおおお」
「意味わかんない、意味わかんない意味わかんない意味わかんない意味意味わかんない意味わかんない意味わかんない」
「ぎゅああああああああああ!!!」
ガタすっドン、ガタすっドン
「後ろ開いてえんん」
ガララ
「邪魔どけええええ」
「うううううううううううううううううううう」
「何何何何々無い????」
着火されたように脱兎の如く逃げ出したクラスメイト。状況を理解できない者も沢山いたが、異常事態だとは思ったようでみんな逃げ出し始める。
「いちにさんし、よんごろくしちはちきゅーじゅう。じゅういち」
逃しちゃいけない人たちを指折り数えてみる。
中東 梢。
友人A。
友人B。
友人C。
佐藤真奈美。
友人1。
友人2。
穂村和佐。
さっちゃん。
友人。
担任。
パチン。指を鳴らす。
彼女らの足と手が霧散する。
ばたんた、バタバタ
落下。
「き」
「あ」
「お」
「う」
トントン、人差し指と親指ツータッチで中東 梢と同じ顔になる。
叫び損ねて変に音が残った。
「うアアアアア」
「オオオオオオオオオオ」
逃げ遅れた奴らも、彼女らを放置して逃げていった。
顔は誰ひとり同じものはない。
だがみんな同じ表情だった。
涙と鼻水に濡れて、キョロキョロ瞳を彷徨わせている。
「なにごとですか!?」
バタン、開ききったスライド扉をバウンドさせた。隣のクラスの担任が他の先生を引き連れて教室に入ってきた。
悲鳴で聞こえなかったが他のクラスは避難しているのだろう。仕事が早い。
「なにが……?」
驚くのも無理はない。
意気込んで扉を開くと、私だけがいるのだから。
呆気にとられたまま………。
「ぁぅぁぅぁ」「ぅぁぅ」「ぅぁぅぅぅ」
静まり返った教室で必死に、ない言葉を繰り出して助けを求める床に転がった芋虫達。
「あ……」
さーと血の気が引いていく援軍。
彼らには興味ない。何か言うより先に、
「さようなら」
ググッ
拳を握る。それだけで、元から何もなかったように忽然と消えた。
「ぅぅぅぅぅぅぅぅ」
一斉に泣く芋虫。涙と尿だけしか出ない。
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全校生徒を消さなきゃいけない。
それは簡単で一瞬でできることだが、問題点がある。
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………。
そうだ。
みんなを使えばいい。
彼女らが私にしたように、みんなで狩ればいい。
目には目を。歯には歯を。
集団が厄介なら集団を武器にしよう。
芋虫の如くうねうねした彼女らに向き直って言い聞かせるように言う。
「ちょっと野暮用ができた。残り少ない命だ。存分に味わうんだよ」
にっこり。
私は軽やかな足取りで、静まった教室を出た。
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