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【序章】破壊者の再来
【2】孤独
しおりを挟む私が前を歩く度、彼らは注目した。
ひそひそ声とは言えないほど、私の話が聞こえた。
「うわ、ヤベーなんか鼻血出てる」
「それによ、トイレから出てきてビチョビチョだぜ?アレ便器の水なんじゃね?」
「ウンコ水?」
「ブフッ!ちょ、言うなよそれぇ!」
「なんか臭くね?」
「だからウンコ水だって!」
「おいお前触って来いよー」
「嫌だよ!なんで触らなきゃいけないんだよ!」
「ほらっ」
ドンと男がぶつかってきた。
「うわぁっ!やめろよ!!」
嫌悪丸出しで私の気持ちお構いなしに飛び退く男子生徒。
彼を押した彼の友達は大笑い。
私はふたりが私を見ていないことを知りながら、睨みつけた。
ふたりは私を一度も見なかった。
「同じクラスなんだろー。同級生がビチョ濡れで困ってんだよ、助けてやれよー」
「はぁ?思ってもねーこと言うなよー」
「あ、バレた?」
「「「ハハハハ、ハハハハハ!!」」」
行く道行く道、水滴を残して教室の自分の席へ戻った。
虐めっ子のリーダー格は他クラスで、昼休みの今はいない。
鞄からタオルを取り出し、髪を拭い、鼻を押さえる。
暑い季節だというのにぶるりと震えた。
「さっきねー、中東さんらとトイレで鉢合わせしちゃってさぁ」
中東 梢。私の頭を便器に突っ込んだ奴の名前だ。
教室の端で先ほどの女子生徒、佐藤 真奈美が青い顔で似たような雰囲気の少女らと話していた。
「河村さんをいじめてた時に行っちゃって、超怖かった!」
佐藤 真奈美は気心の知れた友達に対しては饒舌になるタイプだった。ふたりの大人しい部類の友達と常に一緒に行動していた。
「はっきり見えなかったんだけど、顔を便器に突っ込まれてたと思う」
「だから、濡れてんのかー」
視線を感じた。
「やばい、可哀想だね~」
「でもさ、庇ったりしたら、うちらに飛び火だよ?中東さんらやばいしさ~」
「そーだよねー。仕方ないよね」
「でも、なんであんないじめられるようになったんだっけ?」
「あーそれね。はっきりとはわかんないけどぉ、中東さんに目ぇつけられたんだって。今は下田さんが主犯みたいになってるけど、所詮他クラスじゃん。関わりないでしょ」
「そーじゃなくてー。理由よ、り・ゆ・う!」
「うん。それは、穂波さん庇ったらしいよ」
「うそ、同じクラスの?」
「そ。穂波さん、中学、中東さんと一緒じゃん。中学からいじめられてて、」
「別の高校受験したらいいのに」
「第一志望落ちたらしいよ」
「“無能”には学校少ないもんねー」
「話戻すけど、あんたら知らない?一年の頃、穂波さんパシられてたの」
「「知らなーい」」
「それで、河村さんがはっきり言ったらしいの。やめろって」
「うわ」「さいやく」
「それからターゲット変わったってわけ」
「庇ったのに……」
「穂波さん、今普通でしょ」
「さいやく~」
「ま、そんなもんでしょ、人間ってさ」
懐かしい名前。
穂波 和佐。
いつかの早朝、人が誰もいない靴箱で、俯いて私におはようって小さな声で言った子。今の私の虐めっ子たちに囲まれて、蹲ってた弱い私の同級生。
毎日彼女らの後ろについて歩いて、いくつもスクールバックを持たされて、蹴られて叩かれて押しつけられて。
純粋に可哀想だと思った。
庇えば自分も同じ目にあうと思った。
それを怖いと思った。
でも、ふたりっきりの下駄箱で聞いた、心細そうな「おはよう」の言葉が忘れられなかった。
ふたりになったら、助けてあえるんじゃないかって思った。励ましあって、虐めを終わらせられなくても、頑張って卒業できるんじゃないかって。
全部、綺麗な妄想だったけど。
「穂波!」
教室の入り口から男が彼女を呼んだ。
「圭吾くん!」
心細そうな小さな声はいつしか、自信に溢れた可憐な声になっていた。
「ヒューヒュー!幸せなこって!」
「ほら和佐。弁当、片づけとくから行ってきな」
「ありがとう!さっちゃん!ちょっと行ってくるね」
慌ただしく、浮かれたように前髪を整えて彼女は彼氏の元へ駆け寄った。「羨ましいー」なんて言いながら微笑ましそうに友達も笑っている。
彼女も恋人も友達も、教室のみんなも、ここにはいない虐めっ子たちもみんな笑っている。
私だけが異分子だった。
周囲が優しい日常のなか、暗い顔をして落書きだらけの机を眺めている。
私はひたすら変化を待ち望み、堪えていた。
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