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【序章】破壊者の再来
【3】無数にある日常の終幕
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唐突にそれは起きた。
「撫子さま!!!!」
「うっ、ぎゃあああああああああああああああ!!!!」
ひとりの少女が己の右手を遠退けて、絶叫した。
「いやああ、何なのよコレッ何なのよコレェェエエエエエエ!!今まで何にもなかった、ぁあぐッぐぐぐぐゲコッッ」
右手の指先一本一本、小さなキューブに細分化されパラパラずれていく。指、掌、手首、どんどんどんどん正方形にバラされて、正方形は消えていく。かつての右手はもはや見る影もない。
痛みに喉を詰まらせた少女は苦悶の表情を浮かべるまでもなく、白目を剥いて口の端から涎を垂らし失禁していた。
肘、肩まで進行し、両足からも始まった。
「あぐあぐあぐ」
無意味な音だけが口から漏れていた。
「一体どうなさったのだ!!」
「力の暴発でしょう!!何とかなさい!!」
「撫子さまァ!気をしっかりなさいませ!!」
「キャアアアア!!撫子!!撫子!!」
「奥様!!近づいてはなりませんぞ!!」
「ああ……腕が……」
「早く先生をお呼びなさい!!」
「はいっっ」
「撫子がああああ、アナタァァ………撫子があああああああ」
「撫子さま!!」
「あぐあぐあぐ、あぐあぐぅ」
下半身はなくなり、肩までなくなった上半身がボトッと床に落ちた。端の者たちは、特にへたり込んでいた奥様にはよく見えた。己の娘の内臓が、綺麗に切断されたため、昼食のシェフに作らせたシチューの白色が。
「おええええええ」
「奥様あああ!!!」
血が一滴も溢れることなく漏らした糞尿さえ、解体されていく。
侵食された顔、可愛らしかった面影はなく、脳味噌の姿が露わになって、使用人たちはみんな吐き気に襲われた。
もはや声を出す器官も失った少女の左手だけが、未だ破壊されていた。
最後は、極小のキューブがひとりでに消えた。
***
ふわり。
待っていた何かが、待ち合わせの時間通りひょっこり現れたような何とも嬉しい気分が襲った。
脳内で展開される嘘の歪な優しい日常の切れ端。
つまり、妄想だ。
授業が終わり、校舎が夕暮れに染められて。
私は正門の前に鞄を両手で持って、待っていた。
『……遅くなってごめんね!』
そう言った人は、穂村 和佐の顔をしていた。
「ううん。私も来たところ……」
私は笑いかけた。
すると、彼女の顔が消えていく。
帰宅し始めた周囲も消えていく。
学校も道路も太陽も消えていく。
のっぺらぼうは私の隣にぎこちない動きで移動した。
私は笑みを深くする。
「それじゃあ、行こうか」
それは強烈な力の解放の合図。
世界を覆うほど大きなキューブがクルクル回転して収縮していった。
小さくなって、遂には私の心臓ほどになって、同化していく。
私の心臓から収まりきらなかった正方形の角が突き出ていて、それを避けるように周囲の臓器たちは器用に姿を変えてしまう。
私の体は苦痛を抱くことなく、元の形に変貌した。
流れ込む記憶。光景。言葉。
『貴女の力をもらったげる』
『凡人よりワタクシに相応しいわ。その能力』
『使いこなしてみせるわ、ウフフ』
『さあ刮目なさい!ワタクシのこの能力を!!』
『フフン。このワタクシに天災級以外相応しいのがありまして?』
『うっ、ぎゃあああああああああああああああ!!!!』
『いやああ、何なのよコレッ何なのよコレェェエエエエエエ!!今まで何にもなかった、ぁあぐッぐぐぐぐゲコッッ』
『あぐあぐあぐあぐあぐあぐあぐあぐあぐ』
プッ、堪えきれず吹き出してしまった。
最期の言葉があぐあぐなんて。
お嬢様には恥ずかしくて死にたくなるような記憶だろう。
よかったね、死ねて。
おっといけない。
チャイムの後に戻ってきた中東 梢が目敏く、にやけた私を睨んだ。
彼女が前を向いたとき、サラサラと鼻血と水滴は空気に溶けた。
「じゃー朝のホームルーム始めるわよー」
中央の席、教壇に立つ教師が見過ごす筈がない場所であるが一瞬にして乾いた髪や制服に気づかない。
私は空気よりも人の五感に触れない。
落書きで真っ黒の机も私の所為で透明になっている。
「金田 健~」
「ういーす」
「ちゃんと返事しなさい」
「うっす」
「佐藤 真奈美~」
「はい……」
「崎久保 島蔵~」
私の能力が返ってきた。
日常は変わらないように見えて、変化した。
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