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11 親子対決、その結末
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普段は口にすることはないが、尊敬している父親の態度に頬が綻び、「この調子で頑張るぞ!」とやる気が湧き上がってくる。父の援助があるなら、負けるはずがない。そんな風に完全に手玉に取られたままだった卓が闘志を燃やしたのだ。
「よーっし!いくぞ、親父!!」
「いいぞ、来い!」
卓は立ち上がり、同じく立ち上がってくる弥七に向かって走り出し。その眼前でジャンプをすると、ドロップキックを彼の腹に当てていく。
『おおっ!これは打点の高いいいドロップキックだ!』
『卓選手はサッカーが得意ですからね。スポーツ万能の彼なら、センス抜群でしょう』
二人の実況陣がそんなやり取りをする中、「やるな!」と弥七もご満悦な様子でドロップキックを受けきってみせ。大きく両手を左右に広げて観客に見せつけて見せた。
「どうだ?俺の息子はすごいだろ!?」
『おおっと!これは弥七選手、自分の息子の自慢をしていますね!』
『まあ、親として当然の行動でしょうね』
このプロレスでは、大人は子どもの壁として立ちふさがり。どれだけ頑張れるのかを測る、という役割がある。だからこそ大人は子どもが『頑張れば報われる』と思える試合をする必要があるのだ。
その点でいえば弥七はこの試合にはあまり向いていない、ともいえる。なにしろ弥七は巨漢でマッチョ。その威圧感は子どもの目から見れば『絶対に勝てない相手』だということはすぐにわかってしまう。ただ体重があるだけで。ただ力が強いだけで、技術で勝る、という手段のない子どもにとっては絶望しかなくなってしまう。
卓に腕を引かれて、弥七はロープへと走る。戻ってきたところに卓はジャンプをしてラリアットを弥七の胸に当ててくる。ぺちぃん、という軽快な音と卓の笑顔。実の子供ということもあいまって、観客を交えて。本格的な設備を利用してのプロレスごっこに、弥七も思わず破顔させる。
「ははっ!卓、楽しんでいるか?」
「そりゃもちろん!!」
楽しそうにプロレスごっこをしている様子は微笑ましくて。観客もまた我が子の姿を重ねつつ、声援を送るのだった。
だが、そろそろそれも終わりだ。制限時間まであと2分を切っている。
「卓。これはおまえを一人前の男と信じて与える試練だ」
「えっ?お、親父?」
突然真顔になった弥七に、卓は戸惑う。
「いいか、卓。プロレスのリングでは何が起こるかわからない。だから常に油断をせず、どんな相手でも決して気を緩めるな」
「お、おう……」
「そして……。この技はおまえなら耐えられるはずだ」
そういうと弥七は、再び卓を肩の上の担ぎ上げる。
「えっ!?親父?いったい何を……」
「行くぞ!卓!」
弥七はそう叫ぶと。卓をシットダウン式ラストライドでリングにたたきつける!先ほどフランケンシュタイナーで返されたように見せかけた時とは違い、今度は本当にリングに叩きつけた!
「がはっ!」
背中からリングにたたきつけられ、肺の中の空気を全て吐きだされた卓。その衝撃は凄まじく、まるで交通事故にでも遭ったかのような感覚だった。
(や、やば……)
背中を打った衝撃で、呼吸も満足にできず。立ち上がることも出来ない。弥七は卓をたたきつけた体制のまま、彼の胸に両手を重ね。フォールの体勢に移行する。
『ワン!ツー……』
(か、返さないと……)
そう思うのだが、身体が動かない。なんとかしようとするのだが、ピクリ、とも指先は動かなかった。そんな卓の耳に、弥七の声が届く。
「頑張れ卓!お前なら返せるはずだ!!」
それだけではない。
「がんばれ、卓君!」「負けるな、卓!!」「がんばれ!」
ここまで自分についてきて、声援をくれたクラスメイト達の声が聞こえてくる。みんなが見ているこの試合。それなのに負けるなんてことは出来ない!
『さあ、卓選手これを返せるのか!?』
『これは相当に厳しいものがありますよ。ですが!これを乗り越えてこそレスラーとして成長出来るというもの!さあ、卓選手。どうするのか!?』
耳に届く、多くの人たちが応援してくれている声。
『ス……』
レフェリーの声が止まる。卓が無理やり体を動かして、右腕を挙げて見せたからだ!
『ここで返したー!!卓選手が弥七選手のフォールを返しました!!』
「やったぞ、卓君!!」「卓君、かっこいい!!」
と、観客席の子どもたちも大興奮だ!
「よくやったな、卓!」
そういって弥七は頭をなでようとしてくれるが。卓はそれを振り払うと、無理やり体を起こしてコーナーポストへと向かっていく。「卓?」と。困惑したような声を上げる弥七。
悔しかった。ここまですべて、弥七にお膳立てしてもらったから出来た試合だ。だからこそ、最後くらいはみんなをもっと驚かせてやる!!
そう考えた卓はコーナーポストを昇り。その最上段で弥七へと向き直った。
『まさか卓選手、そこから飛ぶつもりか!?』
『ええ、そのようですね。ですが卓選手、きれいにコーナーポストの上に立っています!あそこに立つのって結構難しいんですよ?さすがは卓選手ですね』
コーナーポスト上に立つ卓。目の前にいる弥七も卓の糸に気が付いたのか。「よし、こい!」と。両腕を広げて待ち構える。
「う……おりゃああああああ!!!」
そんな掛け声と共に、卓は助走をつけると。弥七の肩めがけて飛んだ。ドン、という鈍い衝撃と共に卓が弥七の肩にしがみつく。弥七は卓を抱えたままごろんとあおむけに転がった。今度は卓がフォールを仕掛ける番だ!!
『さあ、ここで弥七選手は返せるのでしょうか!?』
実況の声を聞きながら、卓はこのまま終わらせてほしい、と願っていた。誰もがこのまま終わるだろう、と思ったことだろう。
だが。弥七の腕がにゅっと伸びてきて。卓の頭に、軽く手を置いた。
「よく頑張ったな、卓!」
弥七はにこやかにそう言って、卓の頭をなでながら。
「レフェリー、カウントを」
「あ、はい。ワン!ツー……」
レフェリーは弥七に促されてカウントを取り始める。
『これは……弥七選手、卓選手の頭をなでながらカウントをされていますね。これはいったいどういうことでしょうか?』
『そうですねえ……。おそらくですけど、弥七選手は卓選手の頑張りに感動したんじゃないですか?それで思わず頭をなでてしまったんでしょう』
そんな解説の声が聞こえる中、卓は呆然として弥七の顔を見つめる。「よく頑張ったな!」と言って大きな手で頭をなでてくれる弥七。
もう、限界だった。
卓の目から大粒の涙がこぼれ落ちていく。レフェリーにカウントされるのが気にならなくなるくらい、涙はとめどなくあふれて止まらなかった。
『おっと!ここで卓選手が泣き始めました!!これは一体どういうことでしょうか!?』
『きっと弥七選手の優しさに感動したんですよ。この年齢の子にとって、親は一番身近な存在ですからね』
「う……お……、お……おおお……」
声を出さず、弥七の胸に顔を押し当てて涙を流していく卓。そんな卓の体を優しくなでる弥七。
『スリー!!』
レフェリーの声が響く。卓の勝利が宣言されたのだ!!
大きな拍手と歓声が沸き上がり、「卓ー!!」「よくやったぞ、卓ー!!」と。クラスメイト達の声も聞こえてくる。そんな歓声の中、弥七は泣き続ける卓の頭をなでてやりながら。
「どうだ?これがプロレスだ。楽しかっただろ?」
そう、優しく語り掛けるのだった。
「よーっし!いくぞ、親父!!」
「いいぞ、来い!」
卓は立ち上がり、同じく立ち上がってくる弥七に向かって走り出し。その眼前でジャンプをすると、ドロップキックを彼の腹に当てていく。
『おおっ!これは打点の高いいいドロップキックだ!』
『卓選手はサッカーが得意ですからね。スポーツ万能の彼なら、センス抜群でしょう』
二人の実況陣がそんなやり取りをする中、「やるな!」と弥七もご満悦な様子でドロップキックを受けきってみせ。大きく両手を左右に広げて観客に見せつけて見せた。
「どうだ?俺の息子はすごいだろ!?」
『おおっと!これは弥七選手、自分の息子の自慢をしていますね!』
『まあ、親として当然の行動でしょうね』
このプロレスでは、大人は子どもの壁として立ちふさがり。どれだけ頑張れるのかを測る、という役割がある。だからこそ大人は子どもが『頑張れば報われる』と思える試合をする必要があるのだ。
その点でいえば弥七はこの試合にはあまり向いていない、ともいえる。なにしろ弥七は巨漢でマッチョ。その威圧感は子どもの目から見れば『絶対に勝てない相手』だということはすぐにわかってしまう。ただ体重があるだけで。ただ力が強いだけで、技術で勝る、という手段のない子どもにとっては絶望しかなくなってしまう。
卓に腕を引かれて、弥七はロープへと走る。戻ってきたところに卓はジャンプをしてラリアットを弥七の胸に当ててくる。ぺちぃん、という軽快な音と卓の笑顔。実の子供ということもあいまって、観客を交えて。本格的な設備を利用してのプロレスごっこに、弥七も思わず破顔させる。
「ははっ!卓、楽しんでいるか?」
「そりゃもちろん!!」
楽しそうにプロレスごっこをしている様子は微笑ましくて。観客もまた我が子の姿を重ねつつ、声援を送るのだった。
だが、そろそろそれも終わりだ。制限時間まであと2分を切っている。
「卓。これはおまえを一人前の男と信じて与える試練だ」
「えっ?お、親父?」
突然真顔になった弥七に、卓は戸惑う。
「いいか、卓。プロレスのリングでは何が起こるかわからない。だから常に油断をせず、どんな相手でも決して気を緩めるな」
「お、おう……」
「そして……。この技はおまえなら耐えられるはずだ」
そういうと弥七は、再び卓を肩の上の担ぎ上げる。
「えっ!?親父?いったい何を……」
「行くぞ!卓!」
弥七はそう叫ぶと。卓をシットダウン式ラストライドでリングにたたきつける!先ほどフランケンシュタイナーで返されたように見せかけた時とは違い、今度は本当にリングに叩きつけた!
「がはっ!」
背中からリングにたたきつけられ、肺の中の空気を全て吐きだされた卓。その衝撃は凄まじく、まるで交通事故にでも遭ったかのような感覚だった。
(や、やば……)
背中を打った衝撃で、呼吸も満足にできず。立ち上がることも出来ない。弥七は卓をたたきつけた体制のまま、彼の胸に両手を重ね。フォールの体勢に移行する。
『ワン!ツー……』
(か、返さないと……)
そう思うのだが、身体が動かない。なんとかしようとするのだが、ピクリ、とも指先は動かなかった。そんな卓の耳に、弥七の声が届く。
「頑張れ卓!お前なら返せるはずだ!!」
それだけではない。
「がんばれ、卓君!」「負けるな、卓!!」「がんばれ!」
ここまで自分についてきて、声援をくれたクラスメイト達の声が聞こえてくる。みんなが見ているこの試合。それなのに負けるなんてことは出来ない!
『さあ、卓選手これを返せるのか!?』
『これは相当に厳しいものがありますよ。ですが!これを乗り越えてこそレスラーとして成長出来るというもの!さあ、卓選手。どうするのか!?』
耳に届く、多くの人たちが応援してくれている声。
『ス……』
レフェリーの声が止まる。卓が無理やり体を動かして、右腕を挙げて見せたからだ!
『ここで返したー!!卓選手が弥七選手のフォールを返しました!!』
「やったぞ、卓君!!」「卓君、かっこいい!!」
と、観客席の子どもたちも大興奮だ!
「よくやったな、卓!」
そういって弥七は頭をなでようとしてくれるが。卓はそれを振り払うと、無理やり体を起こしてコーナーポストへと向かっていく。「卓?」と。困惑したような声を上げる弥七。
悔しかった。ここまですべて、弥七にお膳立てしてもらったから出来た試合だ。だからこそ、最後くらいはみんなをもっと驚かせてやる!!
そう考えた卓はコーナーポストを昇り。その最上段で弥七へと向き直った。
『まさか卓選手、そこから飛ぶつもりか!?』
『ええ、そのようですね。ですが卓選手、きれいにコーナーポストの上に立っています!あそこに立つのって結構難しいんですよ?さすがは卓選手ですね』
コーナーポスト上に立つ卓。目の前にいる弥七も卓の糸に気が付いたのか。「よし、こい!」と。両腕を広げて待ち構える。
「う……おりゃああああああ!!!」
そんな掛け声と共に、卓は助走をつけると。弥七の肩めがけて飛んだ。ドン、という鈍い衝撃と共に卓が弥七の肩にしがみつく。弥七は卓を抱えたままごろんとあおむけに転がった。今度は卓がフォールを仕掛ける番だ!!
『さあ、ここで弥七選手は返せるのでしょうか!?』
実況の声を聞きながら、卓はこのまま終わらせてほしい、と願っていた。誰もがこのまま終わるだろう、と思ったことだろう。
だが。弥七の腕がにゅっと伸びてきて。卓の頭に、軽く手を置いた。
「よく頑張ったな、卓!」
弥七はにこやかにそう言って、卓の頭をなでながら。
「レフェリー、カウントを」
「あ、はい。ワン!ツー……」
レフェリーは弥七に促されてカウントを取り始める。
『これは……弥七選手、卓選手の頭をなでながらカウントをされていますね。これはいったいどういうことでしょうか?』
『そうですねえ……。おそらくですけど、弥七選手は卓選手の頑張りに感動したんじゃないですか?それで思わず頭をなでてしまったんでしょう』
そんな解説の声が聞こえる中、卓は呆然として弥七の顔を見つめる。「よく頑張ったな!」と言って大きな手で頭をなでてくれる弥七。
もう、限界だった。
卓の目から大粒の涙がこぼれ落ちていく。レフェリーにカウントされるのが気にならなくなるくらい、涙はとめどなくあふれて止まらなかった。
『おっと!ここで卓選手が泣き始めました!!これは一体どういうことでしょうか!?』
『きっと弥七選手の優しさに感動したんですよ。この年齢の子にとって、親は一番身近な存在ですからね』
「う……お……、お……おおお……」
声を出さず、弥七の胸に顔を押し当てて涙を流していく卓。そんな卓の体を優しくなでる弥七。
『スリー!!』
レフェリーの声が響く。卓の勝利が宣言されたのだ!!
大きな拍手と歓声が沸き上がり、「卓ー!!」「よくやったぞ、卓ー!!」と。クラスメイト達の声も聞こえてくる。そんな歓声の中、弥七は泣き続ける卓の頭をなでてやりながら。
「どうだ?これがプロレスだ。楽しかっただろ?」
そう、優しく語り掛けるのだった。
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