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4 悪ガキに連れられて
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羽柴小学校の体育館裏。転校初日の放課後に正晴は、そこで信也と向かい合っていた。正晴よりも頭一つ分は背の高い、その少年は。
「転校生。どうして呼び出されたのか、分かってるよな?」
と。尊大ともとれる口調で正晴に話しかけてくる。
「さあねえ。告白かなんか?」
信也をまともに相手にするつもりがないのか。正晴はおどけてみせる。その言葉に信也の隣にいる少年、石田直人がぷっ、と吹き出すが。信也にぎろりと睨まれて押し黙る。
「てめえっ……!」
正晴の態度がよほど勘に触ったのか、信也はいまにも掴みかかりそうに睨みつけてくる。
「なんだよ、ひょっとして俺がイケメンだから嫉妬でもしてんのか?はは、めちゃくちゃウケるんですけどー」
腹を抱えて大笑いしてみせると。ますます信也は怒りの形相になる。
「てめえ、ふざけるのもいい加減にしろっ!」
小学生の忍耐力などその程度だろう。短気な信也が腹を立てるのも無理ないことだった。その罵声を聞いてもなお、正晴は笑うのをやめない。
「……くそ野郎っ!」
ぶちん、と血管が切れる音でも聞こえたような気がした。信也は正弘に掴みかかると、そのまま正晴の顔面に拳を叩き込んでくる。
「いててて!暴力はんたーい!」
力任せに降りぬいた拳にはうまく体重が乗っていない。殴られなれていない少年を委縮させる程度の威力はあるが、なにぶん正晴は空手の黒帯を持つ少年だ。この程度の暴力で怯えるわけがない。大げさに痛がりながら信也を突き飛ばす。
「いてえ!」
体格の大きな信也は正晴よりも力は強いはずだが。正晴に突き飛ばされた信也は尻もちをついてしまった。
「すげえ!あの信也をやりこめた!」
その様子を見ていた直人は、ほうと感心したようにため息を吐く。完全に観客に徹して傍観者側にまわってしまっている。
「ば、ばーか!今のはちょっと油断しただけだっつーの!」
信也は立ち上がると、再び正晴を殴ろうと向かってくる。
「うおっと!あぶねえあぶねえ!」
正晴はけらけらと笑いながら、信也の拳を避けていく。素人の小学生の拳が正晴に当たるわけもなく、正晴はまるでダンスを踊るかのように軽やかに信也の拳を躱し続ける。
信也は同級生よりも背が高く、太り気味の体はそのまま力の強さに直結する。同じ小学三年生相手ならば喧嘩で負けることはなかったのだろうし、それで調子に乗って悪いことばかりをしているという、小学生としてはよくあるパターンの悪ガキだった。東京から来た、という肩書にくわえて。イケメンであるという理由から女の子にモテる正晴に嫉妬をしている、というのもあり。長子に乗るな、と暴力をまじいて釘をさすつもりでいたのだ。
だが正晴はここにきても信也を馬鹿にすることをやめない。何度も拳をふるううちに、疲れてきたのか信也はぜえぜえと肩で息をし始める。
「はは。もう終わりか?」
「う……うるせー!このっ……!」
一人では勝てないと悟ったのだろう。ちらりと直人に視線を向けると、
「おい、直人!おまえも手伝え!」
と。信也は直人にも助力を求める。直人は信也の悪友であり、二人でつるんでは悪いことばかりをしている。だが直人は。
「え?えっと……」
ちらり、と。正晴に視線を向けて躊躇している。それもそうだろう、自分よりも喧嘩が強い信也が苦戦する相手なのだ。自分が代わりに手を出しても、反対になぶられて殴られたら……そう考えると嫌になってしまうのも無理はない。
だが友達が困っていた時に何もできずにいるその態度は、信也をますます苛立たせた。
「おい!何してんだ、早くしろ!」
「う、うん……」
信也にどやされ。仕方なく直人も拳を振りかざそうとする。
「はは、二人がかりでくるのか?いいぜ、相手してやるよ」
正晴がそう言った時だった。
「こらーっ!おまえら、なにやってんだ!」
正弘が血相を変えて走り寄ってくる。
「やべっ……!」
一目散に逃げようとする信也と直人。だがそんなふたりの腕を正弘は摑むと。
「おまえら、いったいなにをやってたんだ!」
彼らの担任として。正弘は厳しい口調で問い詰める。
「えっと……その……」
「ま、正晴君がプロレスに出たいから、練習に付き合ってほしい、っていったんです!」
「はぁ!?俺はそんなこと……」
「そうそう!転校生がどうしてもっていうからさ!」
怒られたくない、という一心だったのだろう。直人と信也がそんな言葉を口にすると、正弘の顔がぱぁ、と。明るくなる。
「ほんとか、正晴!試合に出てくれるのか!?」
「だ、だからそんなこと……」
「いやあ!俺も六年生のころに出たことあるんだけどな?なんとその時の相手が佐倉さんだったんだよ。手加減されたとはいってもぼこぼこに負けちゃってさ。それでいつか佐倉さんに勝ってやる!って。その時に誓ったんだよ。いや、今までに一度も勝てたことはないんだけどさ……。いやあ、懐かしいなあ。そうかあ、正晴が試合に出てくれるのかぁ」
「いや……俺は……」
「そうか!じゃあさっそく練習しないとな!」
正弘は信也と直人を離すと、そのまま正晴の腕を引いていく。そんな正晴を見送りながら、
「頑張れよ!転校生」
信也はにやりと笑いながら、立てた親指をくいっと突き出す。そんな信也を正晴は睨みつけると。
「おまえら!覚えてろよ!」
そう捨て台詞を吐きながら、正弘に引っ張られていった。
「転校生。どうして呼び出されたのか、分かってるよな?」
と。尊大ともとれる口調で正晴に話しかけてくる。
「さあねえ。告白かなんか?」
信也をまともに相手にするつもりがないのか。正晴はおどけてみせる。その言葉に信也の隣にいる少年、石田直人がぷっ、と吹き出すが。信也にぎろりと睨まれて押し黙る。
「てめえっ……!」
正晴の態度がよほど勘に触ったのか、信也はいまにも掴みかかりそうに睨みつけてくる。
「なんだよ、ひょっとして俺がイケメンだから嫉妬でもしてんのか?はは、めちゃくちゃウケるんですけどー」
腹を抱えて大笑いしてみせると。ますます信也は怒りの形相になる。
「てめえ、ふざけるのもいい加減にしろっ!」
小学生の忍耐力などその程度だろう。短気な信也が腹を立てるのも無理ないことだった。その罵声を聞いてもなお、正晴は笑うのをやめない。
「……くそ野郎っ!」
ぶちん、と血管が切れる音でも聞こえたような気がした。信也は正弘に掴みかかると、そのまま正晴の顔面に拳を叩き込んでくる。
「いててて!暴力はんたーい!」
力任せに降りぬいた拳にはうまく体重が乗っていない。殴られなれていない少年を委縮させる程度の威力はあるが、なにぶん正晴は空手の黒帯を持つ少年だ。この程度の暴力で怯えるわけがない。大げさに痛がりながら信也を突き飛ばす。
「いてえ!」
体格の大きな信也は正晴よりも力は強いはずだが。正晴に突き飛ばされた信也は尻もちをついてしまった。
「すげえ!あの信也をやりこめた!」
その様子を見ていた直人は、ほうと感心したようにため息を吐く。完全に観客に徹して傍観者側にまわってしまっている。
「ば、ばーか!今のはちょっと油断しただけだっつーの!」
信也は立ち上がると、再び正晴を殴ろうと向かってくる。
「うおっと!あぶねえあぶねえ!」
正晴はけらけらと笑いながら、信也の拳を避けていく。素人の小学生の拳が正晴に当たるわけもなく、正晴はまるでダンスを踊るかのように軽やかに信也の拳を躱し続ける。
信也は同級生よりも背が高く、太り気味の体はそのまま力の強さに直結する。同じ小学三年生相手ならば喧嘩で負けることはなかったのだろうし、それで調子に乗って悪いことばかりをしているという、小学生としてはよくあるパターンの悪ガキだった。東京から来た、という肩書にくわえて。イケメンであるという理由から女の子にモテる正晴に嫉妬をしている、というのもあり。長子に乗るな、と暴力をまじいて釘をさすつもりでいたのだ。
だが正晴はここにきても信也を馬鹿にすることをやめない。何度も拳をふるううちに、疲れてきたのか信也はぜえぜえと肩で息をし始める。
「はは。もう終わりか?」
「う……うるせー!このっ……!」
一人では勝てないと悟ったのだろう。ちらりと直人に視線を向けると、
「おい、直人!おまえも手伝え!」
と。信也は直人にも助力を求める。直人は信也の悪友であり、二人でつるんでは悪いことばかりをしている。だが直人は。
「え?えっと……」
ちらり、と。正晴に視線を向けて躊躇している。それもそうだろう、自分よりも喧嘩が強い信也が苦戦する相手なのだ。自分が代わりに手を出しても、反対になぶられて殴られたら……そう考えると嫌になってしまうのも無理はない。
だが友達が困っていた時に何もできずにいるその態度は、信也をますます苛立たせた。
「おい!何してんだ、早くしろ!」
「う、うん……」
信也にどやされ。仕方なく直人も拳を振りかざそうとする。
「はは、二人がかりでくるのか?いいぜ、相手してやるよ」
正晴がそう言った時だった。
「こらーっ!おまえら、なにやってんだ!」
正弘が血相を変えて走り寄ってくる。
「やべっ……!」
一目散に逃げようとする信也と直人。だがそんなふたりの腕を正弘は摑むと。
「おまえら、いったいなにをやってたんだ!」
彼らの担任として。正弘は厳しい口調で問い詰める。
「えっと……その……」
「ま、正晴君がプロレスに出たいから、練習に付き合ってほしい、っていったんです!」
「はぁ!?俺はそんなこと……」
「そうそう!転校生がどうしてもっていうからさ!」
怒られたくない、という一心だったのだろう。直人と信也がそんな言葉を口にすると、正弘の顔がぱぁ、と。明るくなる。
「ほんとか、正晴!試合に出てくれるのか!?」
「だ、だからそんなこと……」
「いやあ!俺も六年生のころに出たことあるんだけどな?なんとその時の相手が佐倉さんだったんだよ。手加減されたとはいってもぼこぼこに負けちゃってさ。それでいつか佐倉さんに勝ってやる!って。その時に誓ったんだよ。いや、今までに一度も勝てたことはないんだけどさ……。いやあ、懐かしいなあ。そうかあ、正晴が試合に出てくれるのかぁ」
「いや……俺は……」
「そうか!じゃあさっそく練習しないとな!」
正弘は信也と直人を離すと、そのまま正晴の腕を引いていく。そんな正晴を見送りながら、
「頑張れよ!転校生」
信也はにやりと笑いながら、立てた親指をくいっと突き出す。そんな信也を正晴は睨みつけると。
「おまえら!覚えてろよ!」
そう捨て台詞を吐きながら、正弘に引っ張られていった。
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