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【4】
変身が解かれ、男の姿に戻った瑚志岐は、我が身の無事を喜ぶ間もなく急いで会社に戻った。トイレに行くと言って席を立ってから、かなり時間が過ぎているのだ。部長にも課長にも見つかりませんようにと様子を窺いながら、こっそり営業部の自分の席までたどり着く。
「瑚志岐さん、体調はもういいんですか?」
「お、おう。いい。もうばっちりだ」
何事もなかったように比良井塚に迎えられ、そこで瑚志岐はようやく安堵の息を吐いた。ちゃんと自分は、〈少女〉ではなく、「瑚志岐聖珸」と認識されたことにほっとする。
あの痴漢男はそのまま放置してきた。パルが言うには、意識が戻れば、痴漢した記憶もなく元の生活に戻るらしい。つまりはすべて取り憑いた〈ディストレス〉の仕業だったと言うことだ。
最初は小さな欲望が、取り憑かれたことで肥大して、ついには自身の制御を離れて好き勝手に思うがままのやり放題。面倒な警察沙汰になる前に〈リブレイト〉できた良かったと言うことだった。
そして黒ネコは、気がつくと姿を消していた。
いったい誰だったのだろう。瑚志岐の窮地を救うように颯爽と現れたあの魔法少女――。〈ファッシネイター〉みたいだから、パルを締め上げればわかるかもしれない。
「出すもの出してすっきりしたようですね」
「ま、まあな」
イケメンの比良井塚が、出すもの出してすっきりと言うのは少しくるものがあった。周囲の女子社員が何を連想してか顔を赤らめている。
「瑚志岐さん、出張行きますよ。もう出ないとアポイント取った時間に遅れます」
「お、おう。すぐに準備するから少し待ってもらえるか?」
これではどちらが先輩で、お世話係かわからない。
「あと五分でお願いします」
比良井塚はいつものことながら容赦がない。
瑚志岐はそんな態度に新たに決意する。あのトイレでのことは絶対口が裂けたって黙っているのだ。比良井塚はまさかキスをした相手がこの自分だとは微塵も思ってはいないだろうから。ましてバージン云々。散らされてたまるものか。
「りょーかい」
あと五分ね、と瑚志岐は腕の時計に目をやった。大丈夫だ。資料はまとめてファイルしてあるからそれをブリーフケースに突っ込んで。契約まで行けるかどうかわからないにしても、書類一式は持っていこう。これもまとめてあるから、そのまま入れればいい。
あとは、あと、あと、あと五分? あれ?
それって、どこかでも聞いたような? まあいいか、そんなことよりも今は仕事。
内心で大きく頷いた瑚志岐は、既に部屋を出て行ってしまった比良井塚に気づいて、慌てて後を追うのだった。
「あ、あ、あ、あ、パ、パルッ」
その夜、瑚志岐は全裸でベッドに転がり、昨日同様パルの口淫を受けていた。
それが、パルなりの詫びらしい。今日初めて変身し戦闘となった瑚志岐にろくなフォローもできず、役に立たなかったのを気にして平謝りしたあと、いきなりの行動だった。
そんな必要ない、止めろ、と一応これでも抵抗したのだが、空間転移の応用だと言って強引に身ぐるみを剥がされてしまったのだ。
「あ、ああ、やぁ、んんっ、そ、そこダメ――」
とはいえパルのテクニックは巧みで、咥えられた瞬間からあっという間に追い上げられ、瑚志岐の意識はもう快楽の海にぐずぐずに蕩け出していた。
「あっ、んっ、な、なあ、パル。あの黒ネコ、いったい誰だったんだ? 〈ファッシネイター〉……なんだよ、な」
喘ぐ吐息のあいまに言葉を綴る。あの黒ネコについては聞いておきたかった。実を言うと、黒ネコが気になっていたのだ。もし叶うなら、また会いたいとさえ思い始めている。まるで恋でもしたように気になって仕方がないのだ。
って!! 恋!?
そりゃ、彼女は美人だったし、カッコよかったし。危ないところを助けてもくれた。
本当に、あのとき黒ネコが来てくれなかったら、どうなっていたことやら。
考えるだけで怖ろしいのだが……。
「それは……その……えっと……」
パルは瑚志岐から口を離すと、もこもこの自分の尻尾を抱えた。
瑚志岐は、それが、パルの何か目を背けたいときにする緊急避難の行為じゃないかと気づく。
なかなかどうして、抱えている闇は深いらしい。
「で、オレはこの先も魔法少女にならないといけないのか?」
パルの様子から、どうしたものかと考えた瑚志岐は、質問の仕方を変えてみた。
「お願いします! 今度はちゃんと、ボク頑張りますから」
パルがはっとしたように尻尾から顔を上げた。
その必死な形相に瑚志岐は、少しほだされてしまう。
「じゃ、じゃあ、そうだな、あと一回くらいは、やってもいい……かな」
「本当ですか!?」
嬉しそうにパルが顔を輝かせた。昨日今日と一緒にいた中で、一番の顔だった。
「い、一回だぞ。あと一回。そのあとは知らないから。こっちも生活あるし……」
「いえ! 一回でもやる気になってくれたことが嬉しいです。ショーゴさんの生活はボクが全面フォローしますですから。こっちのお世話は特に!! その純潔を守ります!!」
「こっちって――、これかよ」
気を取り直したように、再び瑚志岐のモノを咥え込んだパルが、下腹でうごめき出した。
『いいですか、そのバージン、何としても死守してください。僕が散らせるときまで』
瑚志岐は脳裏に浮かんだ同僚の言葉を振り払い、「大きなお世話だ」と内心毒づく。
あんなヤツより、黒ネコだ。クールで凛としていた少女。年の差があったって構うものか、彼女がいい。
魔法少女を続ければ、あの黒ネコにもきっとまた会える。
そんな気がする。
それは、確信――
END
-------------------------------------------
一先ずこれにて完結です。
書いたときはあれこれとキャラも増やしていくつもりでしたが
また気力十分で萌えが滾ったときに頑張りたいと思います
今後の展開はそれなりにあるんですが★
今回はBLにもならない、恋愛要素なしでしたが、もし女体化変身ものを何か読みたいと思っていただけましたら、個人サイトにアップしてあります「浪漫奇譚」(http://pika.lix.jp/hana/novels/miracle/romance1.html)をどうぞ。(これはBLで年齢制限ありの展開してます☆彡)
変身が解かれ、男の姿に戻った瑚志岐は、我が身の無事を喜ぶ間もなく急いで会社に戻った。トイレに行くと言って席を立ってから、かなり時間が過ぎているのだ。部長にも課長にも見つかりませんようにと様子を窺いながら、こっそり営業部の自分の席までたどり着く。
「瑚志岐さん、体調はもういいんですか?」
「お、おう。いい。もうばっちりだ」
何事もなかったように比良井塚に迎えられ、そこで瑚志岐はようやく安堵の息を吐いた。ちゃんと自分は、〈少女〉ではなく、「瑚志岐聖珸」と認識されたことにほっとする。
あの痴漢男はそのまま放置してきた。パルが言うには、意識が戻れば、痴漢した記憶もなく元の生活に戻るらしい。つまりはすべて取り憑いた〈ディストレス〉の仕業だったと言うことだ。
最初は小さな欲望が、取り憑かれたことで肥大して、ついには自身の制御を離れて好き勝手に思うがままのやり放題。面倒な警察沙汰になる前に〈リブレイト〉できた良かったと言うことだった。
そして黒ネコは、気がつくと姿を消していた。
いったい誰だったのだろう。瑚志岐の窮地を救うように颯爽と現れたあの魔法少女――。〈ファッシネイター〉みたいだから、パルを締め上げればわかるかもしれない。
「出すもの出してすっきりしたようですね」
「ま、まあな」
イケメンの比良井塚が、出すもの出してすっきりと言うのは少しくるものがあった。周囲の女子社員が何を連想してか顔を赤らめている。
「瑚志岐さん、出張行きますよ。もう出ないとアポイント取った時間に遅れます」
「お、おう。すぐに準備するから少し待ってもらえるか?」
これではどちらが先輩で、お世話係かわからない。
「あと五分でお願いします」
比良井塚はいつものことながら容赦がない。
瑚志岐はそんな態度に新たに決意する。あのトイレでのことは絶対口が裂けたって黙っているのだ。比良井塚はまさかキスをした相手がこの自分だとは微塵も思ってはいないだろうから。ましてバージン云々。散らされてたまるものか。
「りょーかい」
あと五分ね、と瑚志岐は腕の時計に目をやった。大丈夫だ。資料はまとめてファイルしてあるからそれをブリーフケースに突っ込んで。契約まで行けるかどうかわからないにしても、書類一式は持っていこう。これもまとめてあるから、そのまま入れればいい。
あとは、あと、あと、あと五分? あれ?
それって、どこかでも聞いたような? まあいいか、そんなことよりも今は仕事。
内心で大きく頷いた瑚志岐は、既に部屋を出て行ってしまった比良井塚に気づいて、慌てて後を追うのだった。
「あ、あ、あ、あ、パ、パルッ」
その夜、瑚志岐は全裸でベッドに転がり、昨日同様パルの口淫を受けていた。
それが、パルなりの詫びらしい。今日初めて変身し戦闘となった瑚志岐にろくなフォローもできず、役に立たなかったのを気にして平謝りしたあと、いきなりの行動だった。
そんな必要ない、止めろ、と一応これでも抵抗したのだが、空間転移の応用だと言って強引に身ぐるみを剥がされてしまったのだ。
「あ、ああ、やぁ、んんっ、そ、そこダメ――」
とはいえパルのテクニックは巧みで、咥えられた瞬間からあっという間に追い上げられ、瑚志岐の意識はもう快楽の海にぐずぐずに蕩け出していた。
「あっ、んっ、な、なあ、パル。あの黒ネコ、いったい誰だったんだ? 〈ファッシネイター〉……なんだよ、な」
喘ぐ吐息のあいまに言葉を綴る。あの黒ネコについては聞いておきたかった。実を言うと、黒ネコが気になっていたのだ。もし叶うなら、また会いたいとさえ思い始めている。まるで恋でもしたように気になって仕方がないのだ。
って!! 恋!?
そりゃ、彼女は美人だったし、カッコよかったし。危ないところを助けてもくれた。
本当に、あのとき黒ネコが来てくれなかったら、どうなっていたことやら。
考えるだけで怖ろしいのだが……。
「それは……その……えっと……」
パルは瑚志岐から口を離すと、もこもこの自分の尻尾を抱えた。
瑚志岐は、それが、パルの何か目を背けたいときにする緊急避難の行為じゃないかと気づく。
なかなかどうして、抱えている闇は深いらしい。
「で、オレはこの先も魔法少女にならないといけないのか?」
パルの様子から、どうしたものかと考えた瑚志岐は、質問の仕方を変えてみた。
「お願いします! 今度はちゃんと、ボク頑張りますから」
パルがはっとしたように尻尾から顔を上げた。
その必死な形相に瑚志岐は、少しほだされてしまう。
「じゃ、じゃあ、そうだな、あと一回くらいは、やってもいい……かな」
「本当ですか!?」
嬉しそうにパルが顔を輝かせた。昨日今日と一緒にいた中で、一番の顔だった。
「い、一回だぞ。あと一回。そのあとは知らないから。こっちも生活あるし……」
「いえ! 一回でもやる気になってくれたことが嬉しいです。ショーゴさんの生活はボクが全面フォローしますですから。こっちのお世話は特に!! その純潔を守ります!!」
「こっちって――、これかよ」
気を取り直したように、再び瑚志岐のモノを咥え込んだパルが、下腹でうごめき出した。
『いいですか、そのバージン、何としても死守してください。僕が散らせるときまで』
瑚志岐は脳裏に浮かんだ同僚の言葉を振り払い、「大きなお世話だ」と内心毒づく。
あんなヤツより、黒ネコだ。クールで凛としていた少女。年の差があったって構うものか、彼女がいい。
魔法少女を続ければ、あの黒ネコにもきっとまた会える。
そんな気がする。
それは、確信――
END
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一先ずこれにて完結です。
書いたときはあれこれとキャラも増やしていくつもりでしたが
また気力十分で萌えが滾ったときに頑張りたいと思います
今後の展開はそれなりにあるんですが★
今回はBLにもならない、恋愛要素なしでしたが、もし女体化変身ものを何か読みたいと思っていただけましたら、個人サイトにアップしてあります「浪漫奇譚」(http://pika.lix.jp/hana/novels/miracle/romance1.html)をどうぞ。(これはBLで年齢制限ありの展開してます☆彡)
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