上 下
12 / 13

12.

しおりを挟む
「ビーインヒート、ファッシネイト!!」

 続けて……少女の声が聞こえた。いったい、誰?

 痛みに耐えながら顔を上げると、そこには、「カツン」とハイヒールを地面に打ちつけ鳴らす音も高らかな、自分とよく似たコスチュームをまとった少女が立っていた。ただ違うのは、瑚志岐がウサ耳でイメージを「白」とするなら、その少女はネコ耳で「黒」だった。それに、ぱうんと揺れるふくよかな胸もあった。

《誰だ、お前は。まさか、お前も〈ファッシネイター〉なのか?》

「そうですが何か。――まったく、見てられないですね。パル・スパル、本当を言われたぐらいで何を戦意喪失しているのです?」

 透きとおる涼やかな声のネコ耳少女は、ピシッとパルを指さした。

「初体験は痛いと言いますが、準備を万全にすれば、いくらか回避できるものです。それをこんな行き当たりばったりで」
「それは……、ショーゴが早く元に戻せっていうから……」
「オレかよ!!」

 瑚志岐は、もごもご言葉を濁すパルに突っ込む。
 パルの首根っこをつかまえて振り回してやりたいところだが、〈ディストレス〉が間にいて、ちょっと無理だった。

 それにしても「初体験」って――

 初めて体験するのだからこれも初体験に違いないが、クールなネコ耳美少女に言われると、ついぞくりとしてしまう。

「立ちなさい、白ウサ。腰のスティックを手にして構えなさい」

 え、え? 白ウサってオレのこと?

 ウサ耳を頭のてっぺんから生やしているのは自分だけだったが、瑚志岐は念のために周囲を見渡し、他に該当する者がいないことを確認する。
 それからおもむろに言われたとおり、例のアレを腰のホルダーから抜いた。

「構えるって、どうんなふうに……あっ」

 ビーインヒート
 ファッシネイト

 先ほど黒ネコが言った言葉が頭の中でこだまする。そういえばこれはまだ口にしていなかった。

「ビーインヒート、ファッシネイト!!」

 スティックを正面に構えて叫ぶ。体の中心が熱くなって、まるでエネルギーが湧き上がってくるみたいだと思った。

 それがとっても気持ちがよくて――

「あ、ああ、あぅん、あ――……」

 こんな敵と対峙している最中さなかなのに、吐き出す息が艶を帯びてしまう。熱を一番覚える下腹の辺りがさらに熱くなって、強く力がみなぎってくるのだ。

「ああ、あふぅん、んんっ」

 胸が苦しくてたまらない。いったいどうしたのだと胸元に目線を落とすと、さっきまでささやかにしかなかった膨らみが、きゅうううん、とはち切れんばかりに成長していた。

「あふ、ふうん、うんっ」

 構えたスティックはずしりと重くなり、つけ根部分から光が溢れ出し長剣をかたどる。
 瑚志岐は逆さまに持っていたことに気づいて慌てて持ち直す。するとスティックのとき根元に入っていた筋からぴょこんと翼を模した鍔が出現した。

「はあ、はあ、はあ、あ、こ、これ」
「ファルス・ソード。それがあなたの武器です。これであなたは、〈ファッシネイター〉本来の姿になりました。胸は〈リブレイト〉するためのエネルギーが詰まっています。言い換えれば、おっぱいがばいんばいんの巨乳状態でないと必殺技の〈イジャクレイト〉が使えません。男が勃起して射精するのと似たようなものですね」

 黒ネコは表情一つ変えず、澄んだ声で説明した。

「――っ!?」

 勃起して射精って、わかりやすいが、できれば美少女が口にして欲しくなかった。おっぱいばいんばいんも……
 いやいや今そっちは考えまい。

「これがオレの……剣……」

 これで一方的にやられることはなくなるのだ、と気を取り直した瑚志岐は、瑚志岐はファルス・ソードを〈ディストレス〉に向けて構える。

「白ウサ、思いきりやりなさい。その剣が貫くのは〈ディストレス〉のみ。人の肉体そのものを傷つけることはありません」

「わかった」

 剣なんて、高校のときの体育で、剣道を選択で取ったとき以来だ。だから十年以上も昔。まともに扱えるのかどうか怪しいが、やるしかない。
 間合いを取り様子を窺う。痴漢男の体はぐったりとし、電池の切れた人形のようだ。それを後ろから無理やり動かしているのが〈ディストレス〉だ。

 瑚志岐は地面を蹴って正面から切り込む。
 しかし傷つけることはないと言われても、人に向かって剣を振り上げるなんて、と躊躇いが出てしまう。

《浅い!!》

「うわっ!! ――っ」

 柄を握る腕を手刀ではたかれた。手が痺れ、剣を落としそうになるのを辛うじて堪え、瑚志岐は体勢を整える。

「――切ろうと思わなくていいです。相手は人じゃないんです。スイカ割りするように、ぶっ叩いてください」
「OK、スイカ割りね」

 黒ネコに言われた瑚志岐は再び構え、相手を見据える。不思議と手にしている剣の重さを感じなかった。アレがこの剣の状態に変化したときはずしりときたのだが、今は体の一部のように軽い。
 ただ少し気になるのは握る剣よりも、大きく膨らんだこの胸だった。上に重心がきてしまったみたいで転びそうで、体のバランスが取りづらいのだ。それにミニスカートで動き回るのは、足がスースーして股間が心許ない。だがそんなことを気にしている余裕はない。

「いきますよ、白ウサ」

 瑚志岐を援護するように、黒ネコが〈ディストレス〉の動きを牽制してくれている。その黒ネコが手にしている武器は、あのスティックが自分の剣と同じように変化した物だった。形状は棍棒こんぼうで、トゲのついた玉が二つ、鎖で繋がっている。まるで玉二個つきのケンダマのようだ。その棍棒を巧みに降り回して鎖を伸ばし、トゲ玉を〈ディストレス〉に叩き込んでいる。

 あきらかにずっと戦闘慣れしている黒ネコは、現実問題片手サイズのパルよりも、〈ファッシネイター〉初心者の瑚志岐を助けてくれていた。

「白ウサ、そろそろ時間です。あと五分でケリをつけてください」
「え? 五分?」

 そんな時間制限があるのか? 三分しかいられないあの正義の味方よりはいいだろうけれど――

《何が五分だ。そんな短い時間で倒せるものか!!》

「黙りなさい!! たかが〈ディストレス〉の分際で」

 黒ネコが凛とした声で言い放つ。
 瑚志岐は目の前の黒衣の美少女が、ふと誰かに似ている気がするのだったが、思い出せない。

「白ウサ! ぼんやりしないで」
「すまんっ」

 ガツン、ガツン、と黒ネコとタイミングを合わせて剣と棍棒で攻撃する。初めて会ったはずなのに、何度も共闘しているような連携だった。

《な、何だ、この小娘のくせに。生意気な――》

 黒ネコが棍棒から伸びたトゲ玉の鎖で、黒靄の〈ディストレス〉を痴漢男ごとぐるぐるに縛め、身動きできなくした。

「今です!!」
「おうっ!!」

 瑚志岐は、〈ディストレス〉に向かって剣を振り上げると、上段から一気に打ち込んだ。

「イジャクレイト!! ――邪欲浄化、ラスト・リブレイト!!」

 ああ、気持ちイイ――

 体の中のエネルギーが、剣の先から一気に放出する。まるでかちこちにたかぶり切った肉茎が、恥ずかしげもなく白濁を噴き上げるときと同じだった。

 そのとき瑚志岐――白ウサは、白い蜜にまみれるように、自ら放射した光のシャワーを浴びていた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

TSしちゃった!

恋愛
朝起きたら突然銀髪美少女になってしまった高校生、宇佐美一輝。 性転換に悩みながら苦しみどういう選択をしていくのか。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

【R18短編】白銀でクールなむちむち奴隷サキュバスから正直にされる催眠に墜とされ、両想い判明から結婚確定中出しえっちを思う存分にするお話

フォトンうさぎ
恋愛
奴隷のサキュバスさんに催眠をかけられて正直にさせられ、お互いに好き好き言いあいながら婚約えっちするお話です。 表紙は『NovelAI』に出力していただきました。 ※旧題『白銀クール奴隷サキュバスに催眠をかけられ、両想い判明からの婚約中出しをする話』

魔闘少女プディカベリー 〜淫欲なる戦い〜

おっぱいもみもみ怪人
恋愛
ひきこもりの魔法少女がグチュグチュに凌辱されるお話し^^

TS調教施設 ~敵国に捕らえられ女体化ナノマシンで快楽調教されました~

エルトリア
SF
世界有数の大国ロタール連邦の軍人アルフ・エーベルバッハ。彼は敵国アウライ帝国との戦争で数え切れぬ武勲をあげ、僅か四年で少佐にまで昇進し、救国の英雄となる道を歩んでいた。 しかし、所属している基地が突如大規模な攻撃を受け、捕虜になったことにより、アルフの人生は一変する。 「さっさと殺すことだな」 そう鋭く静かに言い放った彼に待ち受けていたものは死よりも残酷で屈辱的な扱いだった。 「こ、これは。私の身体なのか…!?」 ナノマシンによる肉体改造によりアルフの身体は年端もいかない少女へと変容してしまう。 怒りに震えるアルフ。調教師と呼ばれる男はそれを見ながら言い放つ。 「お前は食事ではなく精液でしか栄養を摂取出来ない身体になったんだよ」 こうしてアルフは089という囚人番号を与えられ、雌奴隷として調教される第二の人生を歩み始めた。 ※個人制作でコミカライズ版を配信しました。作品下部バナーでご検索ください!

【R18】ダイブ〈AV世界へ堕とされたら〉

ちゅー
ファンタジー
なんの変哲も無いDVDプレーヤー それはAVの世界へ転移させられる魔性の快楽装置だった 女の身体の快楽を徹底的に焦らされ叩き込まれ心までも堕とされる者 手足を拘束され、オモチャで延々と絶頂を味わされる者 潜入先で捕まり、媚薬を打たれ狂う様によがる者 そんなエロ要素しかない話

朝起きたら女体化してました

たいが
恋愛
主人公の早乙女駿、朝起きると体が... ⚠誤字脱字等、めちゃくちゃあります

ねえ、私の本性を暴いてよ♡ オナニークラブで働く女子大生

花野りら
恋愛
オナニークラブとは、個室で男性客のオナニーを見てあげたり手コキする風俗店のひとつ。 女子大生がエッチなアルバイトをしているという背徳感! イケナイことをしている羞恥プレイからの過激なセックスシーンは必読♡

処理中です...