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「――おっと。大丈夫ですか?」

 てっきり冷たいタイルの床が待っていると思っていたが、大きく広い胸に抱き留められていた。誰と言うまでもなく、比良井塚だ。瑚志岐は比良井塚に支えられ、転倒は免れたのだった。

「だ、い、じょうぶ、です」

 一応自分はこの男の先輩。見栄を張って、なけなしの強がりで答えるが、何が大丈夫なものか。ついさっきまで男だった自分が、こんな〈少女〉の姿になってしまったのに。

 もう消えてなくなりたい……

 瑚志岐は俯き、唇を噛む。男と生まれて三十年。まさかこんな風に他の男の腕の中に軽く収まってしまう日がくるなんて。
 次から次と、直視し難い「現実」を突きつけられ、瑚志岐は超ド級の意味不明の理不尽さに、「ぐすん」とはなをすする。

「あの、抜き身のままそういうモノ持っているのは、まずいんじゃないかと思うのですが」
「……マズイ?」

 瑚志岐はどういうことだと上を向く。当然そこには自分を覗き込むように見ていた比良井塚の顔があった。
 比良井塚は困惑気に表情を曇らせていた。だが見上げた瑚志岐と目が合うと、ぽっと気恥ずかしそうに顔を赤らめる。
 瑚志岐は、比良井塚を常々感情の起伏に乏しいヤツだと思っていたが、こういう顔もするのだと、改めて知った。

 いや、そんなところに感心している場合ではない。

「右手ですよ」
「みぎ、て――?」

 比良井塚に言われた瑚志岐は、ざわっと嫌な予感がした。そういえばアレはどうなったのかと、今さらのように思い至る。

「な、何じゃこれは!!」

 自分の右手に目をやった瑚志岐は、叫んでいた。そこにはしっかりアレが握られていたのだった。それも掌サイズから大きくなって、言うなれば、実物大。

「ここでそれを使おうなんて、思ってないですよね?」
「お、思ってない! 思ってるわけないだろ!」

 さらに言い放つ。これをどうやって使うと言うのだ。今姿かたちは〈少女〉でも、心はそのまま男だ。子供サイズでも股間についている。そんな自分が男のアレをどうしろと――

「ともかくそれ、ホルダーにしまってください。腰のベルトに差し込むとこあるでしょう」
「え? ホルダー?」

 比良井塚に言われるまま腰のベルトを見ると、なるほどいい塩梅あんばいにホルダーがついていた。瑚志岐はしゅぽっとそのホルダーに〈ファッシネイト・スティック〉を突っ込む。

「さて、これからどうするか、なんですが……あ、誰かくる」
「えっ?」

 瑚志岐は比良井塚に腕をつかまれ、個室に引っ張り込まれた。顔を厚い胸板に押しつけられ、きつく抱きしめられる。

「んぐぅ――」

 呻いた瑚志岐に比良井塚は、口に人差し指を当て静かにするようジェスチャーをした。

「どこに行ったんだ、あの二人は。会議の途中で席を立ち、あまつさえ終わっても戻ってこないとは。言語道断だぞ。営業会議を何だと思ってるんだ、最近の若い者は」

 トイレのドアが開く音とともに、部長の苛立つ声が聞こえた。

「は、はあ。瑚志岐君は具合が悪そうでしたし、休憩室で休んでいるのかもしれません」

 この声は直属の上司、柏千原かしわちはら課長か。二人揃ってツレションのようだ。

「あれが、具合が悪いという態度だったかね? それにつけても比良井塚だ。あの若造、口の利き方を知らんのか。舐めくさりおって。おい、二人とも君の部下だぞ。監督不行き届きだ」
「は、はい。厳重に注意しておきます」

 その比良井塚の腕の中で瑚志岐は息を潜め、上司二人が早くここから立ち去ってくれるのをひたすら祈っていた。
 何分、こんなに誰かと体を密着させるのは初めてなのだ。背中と腰に回った比良井塚の腕が、いましめのごとく瑚志岐を身動きできないようにしている。顔なんてすぐそこ、吐息を感じてしまう距離だ。
 あまりにも近すぎて落ち着かず、瑚志岐は隙間を作りたくて体をもぞりと捻るのだが、却って擦りつけるような変な動きになってしまう。

「――っ」

 比良井塚が息を詰めて苦悶の形相を浮かべた。
 瑚志岐は「ごめん」と目に浮かべる。自分が腰を動かしたとき、比良井塚の前をぐりっと、さっきホルダーに突っ込んだアレで擦ってしまったのだ。男だからこそわかる、これはちょっと痛い。

「行くぞ。これから社長と取締役会議だ」
「部長、お待ちください。今手を洗いますので」

 水を使う音が一つし、ドアの開閉音のあとトイレは静かになった。


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