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「そうですね。ではちょっと変身してみましょう。まずはあれこれ考えるよりやってみる、ですよ。この〈ファッシネイト・スティック〉を使ってですね、変身するんです」
「はあ? な、何じゃこれは!?」

 どこから取り出したのかは知らないが、パルが瑚志岐に差し出したものは、どう見てもアレだった。男性性器をエレクト状態で模したもの。先端の丸みと言い、この場合グリップになるのか、まるで滑り止めのように筋が浮き出た肉茎は、かなりリアルに再現されている。掌サイズということを除けば。

「これを頭上に掲げてですね、変身ですよ」
「だから、何でオレが変身しなきゃなんないんだ。魔法少女……ファ、ファッシ……なんとかに」

 夢を見ているのだと思っても、あまりにも斬新すぎる設定は正直お腹一杯になってきた。三十男が魔法少女などと、自分はごく平凡だと思っていたが、心の底にはそんな変身願望を抱えていたのだろうか。
 しかしさすがに魔法少女はない。〈少女〉に変身なんて、「変態」以外何者でもない。

「それはあなたが、異性とまぐわったことのない純潔な体の持ち主・・・・・・・・だからですよ。さっき匂いに釣られたと言いましたが、あなたの〈マーラ〉は〈デザイア〉の者にはたまらない三十年モノの芳醇な香りを放ってるんです。これこそあかしです」
「まぐわったことのないって」

 パルの言い様に瑚志岐は片頬をピクリとさせた。三十年モノの芳醇な香りって、オレは樽詰めの酒か。三十すぎても異性を知らない男は魔法使いになると言いたいのか。誰が好き好んでこの年まで未体験でいるものか。そういう機会に、ただただ恵まれなかったというだけだ。

「では変身しましょう」

 パルの声がわくわくと面白がっているように聞こえる。長年のコンプレックスを刺激されて、心狭く卑屈になったようだ。

「勝手にやってくれ。オレはもう寝る」

 いい加減、うんざりし始めてきた瑚志岐は、かけ布団を捲ると体を潜り込ませた。夢の中で「寝る」と宣言するのもおかしな話だが、これで話が終わってくれればいいと期待する。

「寝るって、こうしている間にも、〈ディストレス〉に取り憑かれたヤカラが街を徘徊しているんですよ。あなたには魔法少女〈ファッシネイター〉になれる素晴らしい能力があるのに。何を拗ねてるんですか」

 拗ねてると言われて、より一層ひねくれる。

「知ったこっちゃねえよ。こっちは明日も仕事なんだ。ラストもリブレイトも、そっちの話だ。オレには関係ねえ」

 パルに背を向けて、瑚志岐は言い切る。

「わかりました。ではまずあなたの〈ラスト〉を〈リブレイト〉しましょう。あなたの〈マーラ〉はまだびんびんでかちんこちんですよね」
「はあ? おい、何言って――……」

 パルの言うとおり、こんなに話をしながらも我がムスコ、我が分身は未だ萎えることもなく、いつにも増してはち切れんばかりだった。それは現実のことではなく、妄想入りまくりの夢の産物だからに相違ない。

「では行きます」
「行くって、何だよ――は、はうっ、ううう、んぐぅ」

 瑚志岐は歯を噛み締め、声が出てしまうのを耐えた。
 首を起こせば、そこにパルの姿はなく、下腹部の辺りがちょうど小動物ほどの大きさに膨らんでいる。胸の辺りまで引っ張り上げていた布団の端を上げて中を覗くと、パルはそこにいた。
 言っていた空間転移とはこういうことかと、瑚志岐は妙に納得を覚える。

「はぁん、あうっ、あああああ」

 そんなことを考えているうちに、パルにマーラ――膨らんだ肉竿を咥えられた瑚志岐は、先ほどと同じ、いやそれ以上の強烈な刺激に取り込まれた。パルの口内でねっとり擦り上げられ、びりびりと激しく快感のうねりに翻弄されていく。

 瑚志岐はたまらず、眦から涙をあふれさせた。パルの口淫はあまりにも巧みだった。
 そしてついに絶頂を迎え爆ぜる。瞼の裏で超新星の爆発のごとき閃光が走り、だくだくと肉砲から白濁を射出する。

「あうっ、ううっ、くうっ」
「んぐぅ、んぐ、うぐ」

 瑚志岐の呻き声に被るように、布団の中からパルの喉を鳴らす音が聞こえる。

「これが〈ラスト・リブレイト〉、欲望の解放です。身の内に溜まった欲望を放出することで、人は安寧を得られるんですよ。もっともあなたは〈ディストレス〉に取り憑かれていたわけではないですから、ただの射精ですけど」
「そ、そう……、あふぅ、何だかすごくすっきりして、眠い……」

 瑚志岐は、意識が遠くなっていくのを感じた。
 まったく今日は何て言う日だったのだ。会社でほとほと疲れて、帰りの電車では男なのに痴漢に遭ってしまい。家では、突然妙な小動物が現れて……というか、いつの間にか眠っていておかしな夢の中。もう何が何だか、どこまでうつつでいつから夢か、ひどく曖昧で。

 考えるのは目覚めてからにしよう。
 そうだ、明日朝、目が覚めてから。

「あ、あれ? あの? もしもーし。ショーゴさん?」

 遠くで自分を呼ぶ声が聞こえた。名乗った覚えはないのにどうして知っているのか不思議に思いはしたけれど、夢なのだからそれもアリか。

 そういうことでお休みなさい。

 瑚志岐はとてつもない睡魔に取り込まれて、眠りの淵で意識を手放した。

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