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独り暮らしのマンションに帰り着いた瑚志岐は、駅からの道すがらコンビニで買った弁当で夕食を済ませた。それから一っ風呂浴び、腰にバスタオルを巻いただけの格好で出てくると、冷蔵庫から冷えた缶ビールを取り出し開封するとごくりと呷った。
「あーあ、ったくもう。今日は何て日だったんだ」
仕事で疲れて、さらに帰りの電車で痴漢に遭うとは。
風呂上がりの一杯、ビールは旨いが、それを思い出すと途端にげんなりしてくる。
本当に、こんな丸みもない男の尻なんぞ触って面白かったのだろうか。だいたい触ったら、男か女か気づくだろう。それもあんなに撫で回すように触っていたのだから。
痴漢行為は、瑚志岐の理解の範疇を超えていた。しかしモノは試しと、もぞりと自分の尻に空いている手を伸ばす。
「……やっぱり、わからねえな」
タオルの上からでは、初心者にはわからないかもしれないと捲って直接触ってみる。それでも手に当たる感触は、ただの尻肉。とても「いい」とは思えない。こんな骨ばった体にあの痴漢は興奮したのだろうか。
いや、ここは隣の女性と間違えていることに気づかなかったせいと思うべきか。痴漢もあのときそんなようなことを口走っていたし。
瑚志岐はやれやれとベッドに腰かけた。
まだ下着をつけていないフリーな股間で、平静時のイチモツがぽふんと揺れて垂れる。
瑚志岐は、その未だ他人に未使用の我が分身、薄紅の肉色をしたムスコに、ビールの缶をちょこんと当ててみる。途端にきゅんと縮こまる。
「これ……、使うときなんか来るのかねえ」
ぼそりと自虐めいた言葉が口から出た。
小さな溜め息をついた瑚志岐は、缶ビールを床に置くと、自身を右手で優しく包み込んだ。いつか来るそのときまで、自分で愛し慰めてやる。それが己の務めと、肉竿をやわやわと刺激しながら先端の敏感な部分を親指の腹で撫でる。
「んんっ」
ぷにっと力なく垂れ下がっていた分身が、徐々に硬さと熱を持ち始めていく。物理的な刺激に反応しているのだ。瑚志岐はさらに右手だけではカバーしきれない部位に左手を添え、肉竿を擦る動きに変化を加える。
「んくぅっ、んんっ」
中心から沸き上がる快感で声が出る。それを、息を詰めてぐっとこらえた。男がアンアン言うのは恥ずかしかった。
だがここは自分の部屋だ。玄関も窓もきっちり戸締まりしてある。だからどんなに恥ずかしいことをしていても誰憚ることもなく、声を上げても構わないではないか。
そう思い直した瑚志岐は、胸に溜めていた息を吐くと、今度は快感に身を任せ、あられもなく声を出し始めた。
「ううっ、ああっ」
事後、体は気だるくなるだろうが、会社でのストレスや、痴漢された不愉快さが軽くなるのも確かだ。疲れたときは、やっぱり一発抜くに限るのだ。
瑚志岐は腰に巻いていたバスタオルを解き、尻の下に敷いたまま後ろに倒れた。全裸のまま自らの手で施す快感に酔い痴れ始める。
「ふっ、んん――っ」
先端からは透明な液があふれて指腹を濡らしている。しかし今夜はもっとぬるぬるにぐちょぐちょに感じたかった。ねっとりとまとわりつくような感触が欲しい。絡みついて扱き上げてくれる、もっと強くうねるような快感が欲しい。
瑚志岐は目を閉じた。乞うても得られない分は脳内でイマジネーションを広げるだけだ。そうして自らの手淫を続けていくうちに、間もなく放精の瞬間を迎えることを感じた。
あと少し、もう少し上れば、快楽の頂きが見えてくる。そしてそこからダイブするのだ。
扱き擦る指の動きも速くなるが、どうしたことかその「少し」が越えられない。
誰かこの恥ずかしい情欲の肉棒を咥えて舐めまわしてくれないだろうか。ほんの少し歯を立てて噛んでもらえないだろうか。先端の小さな口を舌で突いて欲しい。そのとき、いったいどんな快感が全身を走り抜けるだろう。ちゅぷちゅぷといやらしい水音を上げるぬちゅぬちゅした粘膜で擦られたたら――
そんな妄想を思い浮かべ、瑚志岐は心の端で自嘲する。考えるだけ空しいことだ。このまま擦り続けていけば、時間は多少かかるがイケるのだから、得られない快感は脳内で補完するだけだ。
情欲の肉棒に、にゅるっと柔らかなものがまとわりつき、先端の敏感な部分を食まれ、小さな穴を抉じ開けるように突かれる。さらには「ちゅうううっ」と吸い上げられる。
「はぁあああ、あああ」
ああ、気持ちがいい。まるで本当にされているみたいだ――
どうやら今夜の妄想は、現実を凌駕してしまうようだ。これだと、イキたくてもイケなかったのが嘘のように、すぐにイッてしまいっそうだった。
瑚志岐は肉棒を握っていた手を離した。尻の下に敷いていたバスタオルをつかみ、腰を突き上げるように幾度か動かす。
「はうっ、んんっ、く、くすぐった、い。……え?」
さわさわと何かに足のつけ根を撫でられ、気持ち好さ半分、くすぐったさ半分に違和感を覚えた。
これも妄想のなせるワザなのか? それとも気のせいなのか?
「やあ、だ、だめ、だ。そこ弱い……んだ」
太股の内側を何か柔らかな毛が触る。さっきも足のつけ根にもさわさわしたものが当たった。言うなれば毛皮のようなものが……。
瑚志岐は快感で覚束なくなる意識で考える。
毛皮なんて持ってたっけ?
いや、たとえうちにあったとしても、今このベッドの上にはなかった。
まさか、何か動物が? それが知らないうちに入り込んでいた?
ペット禁止のマンションだが、中にはこっそり飼っている家もあるかもしれない。
そわりと背筋を冷たいものが走る。確かめなくてはと首を起こし、自分の下腹部に目をやった。
「あ、ひぅっ」
瑚志岐は思わず声もろとも息を呑みこんだ。
何だこれは。いったい何なのだ、これは――
下腹部は白い毛に覆われていた。
「あーあ、ったくもう。今日は何て日だったんだ」
仕事で疲れて、さらに帰りの電車で痴漢に遭うとは。
風呂上がりの一杯、ビールは旨いが、それを思い出すと途端にげんなりしてくる。
本当に、こんな丸みもない男の尻なんぞ触って面白かったのだろうか。だいたい触ったら、男か女か気づくだろう。それもあんなに撫で回すように触っていたのだから。
痴漢行為は、瑚志岐の理解の範疇を超えていた。しかしモノは試しと、もぞりと自分の尻に空いている手を伸ばす。
「……やっぱり、わからねえな」
タオルの上からでは、初心者にはわからないかもしれないと捲って直接触ってみる。それでも手に当たる感触は、ただの尻肉。とても「いい」とは思えない。こんな骨ばった体にあの痴漢は興奮したのだろうか。
いや、ここは隣の女性と間違えていることに気づかなかったせいと思うべきか。痴漢もあのときそんなようなことを口走っていたし。
瑚志岐はやれやれとベッドに腰かけた。
まだ下着をつけていないフリーな股間で、平静時のイチモツがぽふんと揺れて垂れる。
瑚志岐は、その未だ他人に未使用の我が分身、薄紅の肉色をしたムスコに、ビールの缶をちょこんと当ててみる。途端にきゅんと縮こまる。
「これ……、使うときなんか来るのかねえ」
ぼそりと自虐めいた言葉が口から出た。
小さな溜め息をついた瑚志岐は、缶ビールを床に置くと、自身を右手で優しく包み込んだ。いつか来るそのときまで、自分で愛し慰めてやる。それが己の務めと、肉竿をやわやわと刺激しながら先端の敏感な部分を親指の腹で撫でる。
「んんっ」
ぷにっと力なく垂れ下がっていた分身が、徐々に硬さと熱を持ち始めていく。物理的な刺激に反応しているのだ。瑚志岐はさらに右手だけではカバーしきれない部位に左手を添え、肉竿を擦る動きに変化を加える。
「んくぅっ、んんっ」
中心から沸き上がる快感で声が出る。それを、息を詰めてぐっとこらえた。男がアンアン言うのは恥ずかしかった。
だがここは自分の部屋だ。玄関も窓もきっちり戸締まりしてある。だからどんなに恥ずかしいことをしていても誰憚ることもなく、声を上げても構わないではないか。
そう思い直した瑚志岐は、胸に溜めていた息を吐くと、今度は快感に身を任せ、あられもなく声を出し始めた。
「ううっ、ああっ」
事後、体は気だるくなるだろうが、会社でのストレスや、痴漢された不愉快さが軽くなるのも確かだ。疲れたときは、やっぱり一発抜くに限るのだ。
瑚志岐は腰に巻いていたバスタオルを解き、尻の下に敷いたまま後ろに倒れた。全裸のまま自らの手で施す快感に酔い痴れ始める。
「ふっ、んん――っ」
先端からは透明な液があふれて指腹を濡らしている。しかし今夜はもっとぬるぬるにぐちょぐちょに感じたかった。ねっとりとまとわりつくような感触が欲しい。絡みついて扱き上げてくれる、もっと強くうねるような快感が欲しい。
瑚志岐は目を閉じた。乞うても得られない分は脳内でイマジネーションを広げるだけだ。そうして自らの手淫を続けていくうちに、間もなく放精の瞬間を迎えることを感じた。
あと少し、もう少し上れば、快楽の頂きが見えてくる。そしてそこからダイブするのだ。
扱き擦る指の動きも速くなるが、どうしたことかその「少し」が越えられない。
誰かこの恥ずかしい情欲の肉棒を咥えて舐めまわしてくれないだろうか。ほんの少し歯を立てて噛んでもらえないだろうか。先端の小さな口を舌で突いて欲しい。そのとき、いったいどんな快感が全身を走り抜けるだろう。ちゅぷちゅぷといやらしい水音を上げるぬちゅぬちゅした粘膜で擦られたたら――
そんな妄想を思い浮かべ、瑚志岐は心の端で自嘲する。考えるだけ空しいことだ。このまま擦り続けていけば、時間は多少かかるがイケるのだから、得られない快感は脳内で補完するだけだ。
情欲の肉棒に、にゅるっと柔らかなものがまとわりつき、先端の敏感な部分を食まれ、小さな穴を抉じ開けるように突かれる。さらには「ちゅうううっ」と吸い上げられる。
「はぁあああ、あああ」
ああ、気持ちがいい。まるで本当にされているみたいだ――
どうやら今夜の妄想は、現実を凌駕してしまうようだ。これだと、イキたくてもイケなかったのが嘘のように、すぐにイッてしまいっそうだった。
瑚志岐は肉棒を握っていた手を離した。尻の下に敷いていたバスタオルをつかみ、腰を突き上げるように幾度か動かす。
「はうっ、んんっ、く、くすぐった、い。……え?」
さわさわと何かに足のつけ根を撫でられ、気持ち好さ半分、くすぐったさ半分に違和感を覚えた。
これも妄想のなせるワザなのか? それとも気のせいなのか?
「やあ、だ、だめ、だ。そこ弱い……んだ」
太股の内側を何か柔らかな毛が触る。さっきも足のつけ根にもさわさわしたものが当たった。言うなれば毛皮のようなものが……。
瑚志岐は快感で覚束なくなる意識で考える。
毛皮なんて持ってたっけ?
いや、たとえうちにあったとしても、今このベッドの上にはなかった。
まさか、何か動物が? それが知らないうちに入り込んでいた?
ペット禁止のマンションだが、中にはこっそり飼っている家もあるかもしれない。
そわりと背筋を冷たいものが走る。確かめなくてはと首を起こし、自分の下腹部に目をやった。
「あ、ひぅっ」
瑚志岐は思わず声もろとも息を呑みこんだ。
何だこれは。いったい何なのだ、これは――
下腹部は白い毛に覆われていた。
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波奈海月/ブログ
【オレンジとシェリー】
【オレンジとシェリー】
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