月猫

波奈海月

文字の大きさ
上 下
25 / 33
真昼のストレンジャー

第六章 4

しおりを挟む
 ルイの指先には鋭い爪はない。くにくにと指の腹でまだ硬い窄まりを小さな弧を描きながら捏ね始める。庄野の猛りは再びルイの口に収められ、舌に搦みつかれていた。後ろと前を同時に責められて、荒波のような刺激が庄野を翻弄していく。
「やだっ! 止めてくれ、それっ」
 指先が中に潜り始め、庄野は思わず叫んだ。痛みはなかったが、その異物感に体が強張る。やはりあのときの恐怖は簡単には消えそうもない。
「ナオ、大丈夫だから。オレはあの猫じゃない」
 くぐもったルイの声が下肢から響く。
「んっ、わ、分かってるっ。でも――っ、ああ」
 中に入ってきたルイの指は、頑なに拒もうとしている庄野の後孔を宥めるように解していく。
「痛くないだろ? だんだん柔らかくなってきてる」
 一本ならば。しかし二本三本と増やされて、さすがにそれ以上は無理だと思った。
「少し我慢してくれよ。これしとかないと大変なんだろ? 今のオレのはトゲはないけど、ナオのよりも大きいみたいだから」
「――は? トゲ?」
 今、何て? 解さなければいけないのは、分かる。で、トゲ? それから何て言った?
「何だ、猫のとき自分の見なかったのか? 先っぽに細かいトゲがびっしりあるんだよ、猫って。これで交尾したときメスを妊娠させるんだし」
「そ、そうなんだ。猫も人間以上に神秘だな。じゃあ、あの黒マスクに突っ込まれたとき、死ぬかと思うくらい痛かったのは、トゲのせいか?」
「多分。形自体は人間みたいに先が膨らんでなくて、するってしてるからな。じゃあそういうことで続きな」
 ぐりっとねじ込むように中で指が動いた。
「はぅっ! ルイ、ま、待って!!」
 ルイの指を銜えたまま、庄野は肘をついて身を起こすが、ルイは俯せになっていて下肢は見えない。
「待たない。オレ、もう体がヘンなんだ」
「変?」
 ルイは、何かに耐えるように息を吐き、顔を顰める。
「オレのアレが……なんか、どん、どんって。すごく痛いんだ。自分が発情してるってのは分かるんだけど、こんなに苦しいのは初めてだ」
「ルイ……、俺ばっか気持ちよくなってちゃ、いけないよな」
 ごくりと喉を鳴らした庄野は、羞恥を覚えながら自らの足を左右に割った。
「ナオ……?」
「お前がくれる痛みなら、俺きっと平気だ。来いよ。でも急かさないでくれよ。ゆっくり頼む」
「――分かった、ナオ」
 指を引き抜いたルイが庄野の腰を抱きかかえて、綻んだとはまだ少しいい難い後孔に、凶器のような猛りを宛がった。そのままぐいっと押し込み始める。
「くっ。大丈夫か? ナオ?」
「ああ――っ」
 息がつまって答えられない。それでも大丈夫と伝えたくて、何度も頷く。
「きつっ――。いつもこんなに大変なのかよ、人間同士の交尾って……うっ」
 ルイが呻く。庄野は楽に受け入れられない自分の体がもどかしかった。
「でも、すごいや。ナオの中、オレのに吸いついてくる。今からここをオレの形にするからな」
「ルイ――あうっ」
 ルイが腰を揺らした。少し押し込めては引いてを繰り返し、徐々に深くしていく。
「まだだよ。まだ全部入っていない。先だけだ」
「これでも、ま、まだ……?」
 引き攣る痛みを懸命にやりすごす。庄野の中で、ルイのものは灼熱の塊にと変化していた。余りの熱さに触れたところから溶かされていくようだった。
「ん、も…、もう、少し」
 ルイは庄野の頼みどおり、ゆっくりと中を侵していった。それこそ庄野の内壁をルイの形に作り変えていくようだった。
「や、やっと全部入った。な、今オレら繋がってるんだな」
 ルイが感嘆の声を上げる。けれど額に汗を滲ませ眉を寄せていた庄野を見て、心配そうに顔を近づけてきた。
「大丈夫か? 痛い?」
「だ、大、丈夫……痛く…は、ないから」
 庄野は短い呼吸を繰り返す。本当に、痛みは皆無ではないが、耐えられなくはない。ただ苦しい。
「ごめんな、ナオ。オレ、ナオの中に入れてすっごく嬉しいけど、ナオは違うんだよな。これじゃ、突っ込むだけの猫の交尾と変わんねえ」
「ばか。そんなことないよ」
 庄野は腕を持ち上げて、ルイの背を抱く。
「俺も嬉しいに決まってるだろ」
 そうだよ。恋焦がれていた彼と抱き合っているのだから。
「分かった、ナオ。……動くぞ」
「ん――」
 ルイが腰を使い始めた。ゆっくり引いて押し込む。ルイが動くたび、猛りが内壁を擦り上げ、後孔がちりちりとする。それでもいつしか刻まれる律動が甘い刺激を呼び始める。
「ルイ……、あ、そ、そこ……っ」
「ここ? ここが、いい?」
 庄野に応え、ルイが同じ角度で突きを入れた。
 いいのか悪いの考えて口走ったわけではなかった。ただそこに当たると自分の体が怖いほど反応してしまうのだ。
「ナオ、すごい。オレのをぎゅって締めつける」
 ルイの動きますます激しくなって、庄野は揺さぶられ続けた。打ち込まれたときの衝撃で、体が跳ね上がる。
 もう頭の中、白く色が飛んでいく。自分がどこにいるのか分からなかった。
「ナオ、次目を覚ましたときは、元の世界に戻ってるから」
 元の世界……? 朦朧としていく意識の中、ルイの声が響く。
「待ってろ。オレはナオのところに行くから。ナオの望みをちゃんと叶えてやるから」
「俺の望み……叶える……?」
 虚ろになった視界の中、前髪に白のメッシュを入れた青年が微笑んでいた。
 庄野は体がふわりと持ち上がるのを感じながら、頷く。
 そして意識は、白い闇に飲み込まれていった。


しおりを挟む
波奈海月/ブログ
【オレンジとシェリー】
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが

五右衛門
BL
 月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。  しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

「恋みたい」

悠里
BL
親友の二人が、相手の事が好きすぎるまま、父の転勤で離れて。 離れても親友のまま、連絡をとりあって、一年。 恋みたい、と気付くのは……? 桜の雰囲気とともにお楽しみ頂けたら🌸

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

俺の好きな男は、幸せを運ぶ天使でした

たっこ
BL
【加筆修正済】  7話完結の短編です。  中学からの親友で、半年だけ恋人だった琢磨。  二度と合わないつもりで別れたのに、突然六年ぶりに会いに来た。 「優、迎えに来たぞ」  でも俺は、お前の手を取ることは出来ないんだ。絶対に。  

初恋はおしまい

佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。 高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。 ※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。 今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。

好きなあいつの嫉妬がすごい

カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。 ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。 教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。 「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」 ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

処理中です...