グッバイマイラブ ~そばにいるよ~

波奈海月

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第三章

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 朝、出社してすぐに商品管理部に向かった鮎原は、ストック棚の間で商品をチェックしている妹尾の背中を見つけ声をかける。昨日のことをちゃんと謝っておきたかった。
「妹尾」
「ああ、鮎原さん、おはようございます」
 呼んだ声に気づいて、振り返った妹尾に鮎原はドキリとした。久しぶりに目にする妹尾の素顔だった。
「――き、昨日は悪かったな。お前と約束したのにさ」
 鮎原は、乱れかける息を誤魔化し、ここへ来た目的を果たす。
「いいですよ、そんなこと。また今度つき合ってもらえれば」
 何でもないよう答える妹尾はいつものとおりだ。返事にほっとした鮎原だったが、つん、と胸の奥で小さく何かが生じるのを感じた。それが昨夜に覚えた違和感を思い出させて落ち着かなくさせるが、表面に浮かばせないよう意識から外す。
「わ、分かった。次は、絶対だ。――で、どうしたんだ、お前。眼鏡は」
 外してポケットにでも入れているのかと、妹尾の胸ポケットの辺りを見た。
「コンタクト作ってきたんですよ、昨日。おかげで財布すっからかんになっちゃったけど」
「コンタクトレンズ作った?」
「ええ。眼鏡だと何か困ったような顔するから、鮎原さん」
「俺そんな顔してた? 意識なかったけど嫌な気にさせたんだな。ごめん」
 そんな気は全くなかった。ただ少し、眼鏡という共通点だけで武村を思い出して居心地が悪かっただけだ。だから気遣いは要らない。
「わ、そんな、謝らないでくださいって。オレもそんなつもりで言ったんじゃないです。やだなあ、もう。鮎原さん、妙なとこで真面目なんだからな」
「何だそれ。妙なとこって、お前、生意気。俺一応、お前の先輩だぞ」
 妹尾の言葉を受けて、混ぜっ返す。
「済みません。失言でした」
 バツが悪そうに額にかかる髪をかき上げた妹尾は、眼鏡をかけていたときに覚えていた大人びた雰囲気はなくなり、少し幼く感じる。鮎原が妹尾を知ってからずっと見ていた顔だった。
 妹尾と話し、笑むことができた鮎原は、やっと痞えていたものが消えたと思った。



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波奈海月/ブログ
【オレンジとシェリー】
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