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第一章
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昼休み、食事を済ませ営業部に戻ってきた鮎原は、ポケットに入れていた携帯電話が振動していることに気づいた。メールを受信していた。
「武村からだ」
すぐに開いて確認する。
『今朝悪かったな』
朝寝ている間に出ていった鮎原を気にして、送ってきたのだった。
何でもない内容。それも短い。けれど、こんなメールでも嬉しかった。
『気にするな』
すぐに返信メールを打つ。もっといろいろ伝えたいと思ったが、文章が上手くまとまらなかった。パソコンメールなら、キーボードを操作してそれをするのもまだいいが、携帯電話のような小さな文字盤でいろいろ文章を作るのは苦手だ。鮎原は作成できる人は尊敬に値すると思っている。
『また来週な 何かあれば連絡する』
せめてこれくらいは、とつけ加えた。だが結局、いつもと代わり映えのしないメールになった。
「鮎原、悪いが、投入の決まった商品の写真また撮っといてくれ」
武村に返信をして、携帯電話をポケットにしまおうとしたとき、休憩から戻ってきた上司である営業課長の椎名に声をかけられた。
「分かりました」
営業で使う商品台帳に添付する製品写真の撮影だ。鮎原が特別カメラに詳しいというわけもなく、昔、祖父が写真屋をやっていたという話を何かのおりに椎名にしてから、以来鮎原に回ってくる仕事だった。
「悪いな、いつも。今週いっぱいでいいから」
「早めにやっておきますよ」
鮎原に拝むように手を前で立てる椎名に笑って答える。
仕事だ、これも。何十種類もあるシーズンごとに違う商品を、つけられている品番だけでどういうアイテムか覚えておくのは至難の技だ。それに取引先と商談をするのにも、現物の商品サンプルが用意できないときに写真つきの台帳があれば、それで対応できる場合もある。
しかし今週中でいいという椎名の言葉に甘えて、早めにやっておくと返事はしたが、取りかかるのは明日からにする。さすがに月曜日から残業する気にはなれない。というより、少々今朝の疲れを覚え出していた。
「こんなんじゃいけないよなあ。社会人あるまじきだ」
今日は済みません、と心のうちで謝ると明日からの業務のために今夜は早く休もうと決めるのだった。
「武村からだ」
すぐに開いて確認する。
『今朝悪かったな』
朝寝ている間に出ていった鮎原を気にして、送ってきたのだった。
何でもない内容。それも短い。けれど、こんなメールでも嬉しかった。
『気にするな』
すぐに返信メールを打つ。もっといろいろ伝えたいと思ったが、文章が上手くまとまらなかった。パソコンメールなら、キーボードを操作してそれをするのもまだいいが、携帯電話のような小さな文字盤でいろいろ文章を作るのは苦手だ。鮎原は作成できる人は尊敬に値すると思っている。
『また来週な 何かあれば連絡する』
せめてこれくらいは、とつけ加えた。だが結局、いつもと代わり映えのしないメールになった。
「鮎原、悪いが、投入の決まった商品の写真また撮っといてくれ」
武村に返信をして、携帯電話をポケットにしまおうとしたとき、休憩から戻ってきた上司である営業課長の椎名に声をかけられた。
「分かりました」
営業で使う商品台帳に添付する製品写真の撮影だ。鮎原が特別カメラに詳しいというわけもなく、昔、祖父が写真屋をやっていたという話を何かのおりに椎名にしてから、以来鮎原に回ってくる仕事だった。
「悪いな、いつも。今週いっぱいでいいから」
「早めにやっておきますよ」
鮎原に拝むように手を前で立てる椎名に笑って答える。
仕事だ、これも。何十種類もあるシーズンごとに違う商品を、つけられている品番だけでどういうアイテムか覚えておくのは至難の技だ。それに取引先と商談をするのにも、現物の商品サンプルが用意できないときに写真つきの台帳があれば、それで対応できる場合もある。
しかし今週中でいいという椎名の言葉に甘えて、早めにやっておくと返事はしたが、取りかかるのは明日からにする。さすがに月曜日から残業する気にはなれない。というより、少々今朝の疲れを覚え出していた。
「こんなんじゃいけないよなあ。社会人あるまじきだ」
今日は済みません、と心のうちで謝ると明日からの業務のために今夜は早く休もうと決めるのだった。
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波奈海月/ブログ
【オレンジとシェリー】
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