グッバイマイラブ ~そばにいるよ~

波奈海月

文字の大きさ
上 下
3 / 37
第一章

しおりを挟む


 扉を開けてボス部屋に入っても特に動きは無かった。異変が起こったのは全員が広間に入りきった頃。

 ドシンと地面が揺れた。

 次に広間の奥から巨大な四足歩行のナニカがのっしのっしと歩いてきた。初心者用ダンジョン地下五階のボスにしては禍々し過ぎるというか……。皆も同じ事を思っているのか、ピタリと動きが止まっている。

「あれは——!」
「知っているんですかっ、団長さん!?」

 甲斐先生が締め上げる前に、団長は言い放った。

「皆逃げろ! 此奴はグレータービーストッ、魔王の居城近くに生息するという上級モンスターだ! 今の我々では到底敵わない!!」

 団長のセリフが思いっきり説明セリフな所にツッコミ入れるべきなのか、これ!?

 俺も逃げ出したのだが、いかんせん『すばやさ』が皆とは一回りは違う。あっという間に最後尾になってしまった。

 ――やばい、これは死ぬ!

 焦っていたから色々な事が頭の中からから吹き飛んでいた。周りの注意すらも怠るほどに。そのせいで魔物なんかよりもよほど注意しないと行けない人物への警戒が薄れた。

「――さらばだ、旅人」

 そんな団長の囁き声が聞こえた次の瞬間には、地面とキスするハメになっていた。足を引っ掛けられて転んだのだ。

 そこで疑惑が確信に変わった。


 ——これは罠だ。『旅人』を抹殺するための。


 遠くからクラスメートたちの声と扉の閉まる音が聞こえた。





「気配遮断をモノに出来てなかったらマジでアウトだったぞ、これ」

 気付くのが遅過ぎたが、まあギリギリセーフだったので良しとする。……しっかし、閉じ込められてるのでやることがない。とりあえず魔物——団長はグレータービーストと呼んでたな、確か——でも観察するか。
 その体躯は現状、俺ではどう足掻いても勝てそうに無いとわかる凶悪ないでたち。団長も言っていたがラスダン手前辺りに生息してそうな面構えだ。悔しいが勇者である早乙女でも今は敵わないだろう。

「『旅人』を始末するにしては過剰戦力以外の何者でもねーよ……」

 どこの世界に、役立たずを始末するために勇者すら敵わない魔物をけしかける阿呆がいるのか。……ああ、この世界にいるな。ヤバいヤツ大杉であたまいたい。

 そうしてしばらく。

 扉に力一杯何度もドスンドスンと体当たりをする巨大なグレータービーストを見ていてふと思った。扉、頑丈過ぎねぇ? 開けた時は軽かったよな? 結構保つのな、まるで鍵がかかって……まさか、かんぬき常備!? 用意周到にも程があるだろぉぉぉ! どんだけ『旅人』を抹殺したかったんだよ!!

 合法的に抹殺したかったんだろうなー……ウチのクラス仲良いし。事故に見せかけないと後が大変だもんなー。うんうん、納得——

「——できるかぁぁッ!!」

 ハッと、反射でとっさに口を塞いだ。……グレータービーストさんは——素知らぬ顔で扉へのアタックを続けている。

「壊れスキルなのはありがたいが、心臓には悪いよな……気配遮断」

 俺は割と繊細なのだ。いくら持続時間が無期限と言われても、目の前でこんな凶暴な魔物がドッスンバッタンやってる側に居続けられるほど神経太くない。早くどっか行って欲しい。

 そんな願いが通じたのか——ピュィーという笛のような音が聞こえた。途端に大人しくなるグレータービースト。

「大人しくなった……?」

 まあ、俺への罠である以上コイツ野生の魔物とは違うかも……という考えも頭を掠めてた訳だが、マジか。マジでラスダン手前の魔物を飼い慣らす技術があんのか、この国……。

 ゾッとした。

 そんな国に召喚されてしまった事も恐ろしいが、そんな国のために働かせられるクラスのみんなが心配でならない。だが、今の俺にはそれを打開する術は無い。せいぜい逃げ延びて帰る方法を探すか、援軍を集めるくらいだろうか?


 俺は呆然と立ち尽くすしかなかった。


しおりを挟む
波奈海月/ブログ
【オレンジとシェリー】
感想 0

あなたにおすすめの小説

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした

亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。 カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。 (悪役モブ♀が出てきます) (他サイトに2021年〜掲載済)

たまにはゆっくり、歩きませんか?

隠岐 旅雨
BL
大手IT企業でシステムエンジニアとして働く榊(さかき)は、一時的に都内本社から埼玉県にある支社のプロジェクトへの応援増員として参加することになった。その最初の通勤の電車の中で、つり革につかまって半分眠った状態のままの男子高校生が倒れ込んでくるのを何とか支え抱きとめる。 よく見ると高校生は自分の出身高校の後輩であることがわかり、また翌日の同時刻にもたまたま同じ電車で遭遇したことから、日々の通勤通学をともにすることになる。 世間話をともにするくらいの仲ではあったが、徐々に互いの距離は縮まっていき、週末には映画を観に行く約束をする。が……

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

思い出して欲しい二人

春色悠
BL
 喫茶店でアルバイトをしている鷹木翠(たかぎ みどり)。ある日、喫茶店に初恋の人、白河朱鳥(しらかわ あすか)が女性を伴って入ってきた。しかも朱鳥は翠の事を覚えていない様で、幼い頃の約束をずっと覚えていた翠はショックを受ける。  そして恋心を忘れようと努力するが、昔と変わったのに変わっていない朱鳥に寧ろ、どんどん惚れてしまう。  一方朱鳥は、バッチリと翠の事を覚えていた。まさか取引先との昼食を食べに行った先で、再会すると思わず、緩む頬を引き締めて翠にかっこいい所を見せようと頑張ったが、翠は朱鳥の事を覚えていない様。それでも全く愛が冷めず、今度は本当に結婚するために翠を落としにかかる。  そんな二人の、もだもだ、じれったい、さっさとくっつけ!と、言いたくなるようなラブロマンス。

離したくない、離して欲しくない

mahiro
BL
自宅と家の往復を繰り返していた所に飲み会の誘いが入った。 久しぶりに友達や学生の頃の先輩方とも会いたかったが、その日も仕事が夜中まで入っていたため断った。 そんなある日、社内で女性社員が芸能人が来ると話しているのを耳にした。 テレビなんて観ていないからどうせ名前を聞いたところで誰か分からないだろ、と思いあまり気にしなかった。 翌日の夜、外での仕事を終えて社内に戻って来るといつものように誰もいなかった。 そんな所に『すみません』と言う声が聞こえた。

処理中です...