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第16話 イエスと言って欲しい
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「サラ嬢、今日の僕の用事は、あなたにイエスと言ってもらうことです」
……直撃弾?
「あの……オーウェン様?」
「最大の邪魔者はいなくなった。マークのことだけど。その他に執事も侍女もね。マリリン嬢のおかげだな」
ソファにどっかりと腰掛けたまま、彼は動こうとしない。座ったまま、手を伸ばして私の手を取った。つかんだ。
椅子に座ったまま、灰青色の目が見上げてきた。
「あなたが好きだ。前も言ったけれど」
私は真っ赤になった。と思う。意味もなくドキドキしてきた。いやいやいやいや。ドキドキしてていいのか? また、なにか裏があるの?
「ライバルはいなくなったし、一番乗りも果たした。あとは一番遅くまで残って、イエスをもらうだけだ。どうか僕と結婚してください」
「私、あの……」
今日、結論を出す話なの?
「もちろん、正式な婚約破棄を待たねばならないが。あのクソバカハーバートに先を越されてどんなに鬱屈したことか。腹が立つったらありゃしない。大して大事にもしないし。何を考えてるんだか。僕ならそんなことしない。絶対しない。どうか……」
「お母様が、今度こそよく考えてからお決めなさいと」
衝撃が多すぎる。姉とマーク殿下なんかヒラヒラとどこかへ飛んでいった。
「だって、あなたがよく考えてハーバートとの婚約を決めたわけじゃないでしょ? よく考えなきゃ行けないのは、あなたのご両親だ。クリントン家に不足はないと思うよ?」
「も、もちろん」
クリントン家は誰はばかることない公爵家なのだ。失礼を言うわけにはいかない。
オーウェン様は突然立ち上がって、額にキスした。
えええ?
オーウェン様も真っ赤になっていた。彼は早口で言った。
「さあ、これが約束。婚約者候補第一番。今後は一緒に出かけましょう。街のカフェにも観劇にも。それから僕の家にもきてください。お茶会をしましょう。両親に紹介します」
「あの、それ全部婚約者になってからすることでは?」
「違いますよ。婚約者候補第一番。あなたを大事にします。第二番以下は認めませんけどね」
詭弁だ、詭弁だ。それだと、単なる婚約者じゃないの。
オーウェン様は笑った。深く満足そうな笑いだった。
「マークのやつ、殴ってやろうかと思ったけど、殴らなくてよかった。大人しく帰ったし、まあ許してやろう。でも、あなたは傷ついたでしょ? こんなやり方」
私は思わずうなずいた。
「妹だから許してもらえると思ったのかもしれないけど、あんなやつ、許さなくていい。僕は誠実だ。あなた一筋だ」
彼は私の顔をじっと見つめた。目は口ほども、ものを言うという。
「街で評判のカフェに行きましょう。迎えに行きます。約束してください」
無理矢理、次のデートの約束を取り付け、そのほかにもいろいろな話をして、名残惜しそうにオーウェン様は帰って行った。
最後の客、すなわちイザベラ嬢とフィリップ様が帰ってから、ゆうに二時間は経っていた。
執事も侍女も下男も、全員戻ってきていると思うのよね。
ずっと誰もいないなんてことないと思うのよね。
その証拠に、私たちが客間から出ると、どういうわけか張り詰めた顔をした執事が物凄くホッとしたような顔で、セーフ……って呟いていたのよ。その後ろには、鬼のような顔をしたハウスキーパーつまり侍女頭もいたし、なんだか妙な雰囲気だった。
「約束、忘れないでね」
オーウェン様はとてもやさしい調子で囁き、本当に残念そうに帰って行った。
「お嬢様」
執事のセバスが、妙にしゃちほこばって言った。
「クリントン家の若様とのご婚約、整ったと考えてもよろしいでしょうか?」
「それは、お父様とお母様が……」
「お二人とも、クリントン家なら問題ないとおっしゃっておられます」
「え? でも、それって、マーク殿下だと都合が悪いってことなの?」
私は眉をしかめた。
「いえ、都合が悪いわけではありませんが、色々と調節事項が増えますので……」
セバスと侍女頭ケーパー夫人はうなだれた。
そこ、うなだれるところなの?
ええ?
使用人から見ても、それって、お姉様どうなるの?
……直撃弾?
「あの……オーウェン様?」
「最大の邪魔者はいなくなった。マークのことだけど。その他に執事も侍女もね。マリリン嬢のおかげだな」
ソファにどっかりと腰掛けたまま、彼は動こうとしない。座ったまま、手を伸ばして私の手を取った。つかんだ。
椅子に座ったまま、灰青色の目が見上げてきた。
「あなたが好きだ。前も言ったけれど」
私は真っ赤になった。と思う。意味もなくドキドキしてきた。いやいやいやいや。ドキドキしてていいのか? また、なにか裏があるの?
「ライバルはいなくなったし、一番乗りも果たした。あとは一番遅くまで残って、イエスをもらうだけだ。どうか僕と結婚してください」
「私、あの……」
今日、結論を出す話なの?
「もちろん、正式な婚約破棄を待たねばならないが。あのクソバカハーバートに先を越されてどんなに鬱屈したことか。腹が立つったらありゃしない。大して大事にもしないし。何を考えてるんだか。僕ならそんなことしない。絶対しない。どうか……」
「お母様が、今度こそよく考えてからお決めなさいと」
衝撃が多すぎる。姉とマーク殿下なんかヒラヒラとどこかへ飛んでいった。
「だって、あなたがよく考えてハーバートとの婚約を決めたわけじゃないでしょ? よく考えなきゃ行けないのは、あなたのご両親だ。クリントン家に不足はないと思うよ?」
「も、もちろん」
クリントン家は誰はばかることない公爵家なのだ。失礼を言うわけにはいかない。
オーウェン様は突然立ち上がって、額にキスした。
えええ?
オーウェン様も真っ赤になっていた。彼は早口で言った。
「さあ、これが約束。婚約者候補第一番。今後は一緒に出かけましょう。街のカフェにも観劇にも。それから僕の家にもきてください。お茶会をしましょう。両親に紹介します」
「あの、それ全部婚約者になってからすることでは?」
「違いますよ。婚約者候補第一番。あなたを大事にします。第二番以下は認めませんけどね」
詭弁だ、詭弁だ。それだと、単なる婚約者じゃないの。
オーウェン様は笑った。深く満足そうな笑いだった。
「マークのやつ、殴ってやろうかと思ったけど、殴らなくてよかった。大人しく帰ったし、まあ許してやろう。でも、あなたは傷ついたでしょ? こんなやり方」
私は思わずうなずいた。
「妹だから許してもらえると思ったのかもしれないけど、あんなやつ、許さなくていい。僕は誠実だ。あなた一筋だ」
彼は私の顔をじっと見つめた。目は口ほども、ものを言うという。
「街で評判のカフェに行きましょう。迎えに行きます。約束してください」
無理矢理、次のデートの約束を取り付け、そのほかにもいろいろな話をして、名残惜しそうにオーウェン様は帰って行った。
最後の客、すなわちイザベラ嬢とフィリップ様が帰ってから、ゆうに二時間は経っていた。
執事も侍女も下男も、全員戻ってきていると思うのよね。
ずっと誰もいないなんてことないと思うのよね。
その証拠に、私たちが客間から出ると、どういうわけか張り詰めた顔をした執事が物凄くホッとしたような顔で、セーフ……って呟いていたのよ。その後ろには、鬼のような顔をしたハウスキーパーつまり侍女頭もいたし、なんだか妙な雰囲気だった。
「約束、忘れないでね」
オーウェン様はとてもやさしい調子で囁き、本当に残念そうに帰って行った。
「お嬢様」
執事のセバスが、妙にしゃちほこばって言った。
「クリントン家の若様とのご婚約、整ったと考えてもよろしいでしょうか?」
「それは、お父様とお母様が……」
「お二人とも、クリントン家なら問題ないとおっしゃっておられます」
「え? でも、それって、マーク殿下だと都合が悪いってことなの?」
私は眉をしかめた。
「いえ、都合が悪いわけではありませんが、色々と調節事項が増えますので……」
セバスと侍女頭ケーパー夫人はうなだれた。
そこ、うなだれるところなの?
ええ?
使用人から見ても、それって、お姉様どうなるの?
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