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第67話 時間を縮めてみせる
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マーク様はいろいろと行き届き過ぎて、最近、なんだかウザくなってきたけど、見抜かれたのか、隣国に戻らなきゃいけないので今だけとかやたらに強調してくる。
以前は行けなかった観劇や、夜のカフェも出かけることが増えた。
ローズマリー様と一緒に行けば特に最強だった。
なぜなら、ローズマリー様の婚約者と私は兄妹だったから。
深夜に及ぶ食事も観劇も、兄妹が一緒だとなんとなく警戒が緩むらしい。
しかし、実態は当然バラバラだった。兄の顔なんか見たくないわ。ローズマリー様の為には何でもする勢いだけど、妹のお願いなんか完全無視でしたもの。
私と兄が仲悪そうにしていると、ローズマリー様はめちゃくちゃおかしそうに笑っていた。
静かなレストランで、二人きりで夕食を取りながらマーク様は言った。
「よかった。ふたりきりで」
私より年下なのに、私よりよっぽど口がうまくて意味深な言葉を吐くって、どういうこと? その上、時々かわいい。あざとい。
それにこのレストランがいくらするのか。大人でなければ出入りできないと思っていた。
「大丈夫。グラント伯爵の名前で入れたよ。予約も簡単だった」
私は思わず周りを見渡してしまった。
いかにも優雅な男女二人連れが多い。
「ねえ、よそ見しないで。僕、一年学年をスキップしようかと思っているんだけど」
私は驚いた。
「そんなことできるのですか?」
「できます。そうすれば、一年早く結婚できるよ?」
私はグッと引き込まれた。でも、やっぱり早すぎないかしら?
「アーネスティン様が隣国の王妃様になるかもしれないって話、知っている?」
私は驚いた。彼も知っているの?
「意外に早まるかもしれないって、君のお父様が言っていたよ」
夜のこのレストランは人が少なかった。テーブルとテーブルが離れている静かな店だった。この話は他人に聞かれてはいけない。
突然、マーク様がニッと笑った。
「僕は、アーネスティン様の影たちと親しくなって」
私は仰天した。王弟一家の影と親しくなる?
「仕方なかったんだよ。国内では考えられない。だけど、隣国内ではさすがの影も父上のハワード侯爵を頼らざるを得なかったんだ。影たちは、アーネスティン様の為に動いていたのだから、王家に仕える侯爵も彼らに尽力する義務があった」
私はあきれてマーク様の顔に見入った。
「僕は学生で目立たない。ただの留学生で、政治的な色合いは全くないように見える。身分もいわば平民だ。父は伯爵だが、学者だからね。だから影たちとどんなに接触しても、侯爵と違って、国から来た友人をもてなしているようにしか見えなかった。誰からも疑われない」
「それは結構危ないことだったのでは?」
彼に力はない。下手をすれば父も危なくなる。
「僕みたいな子どもに何かができるとは思わないだろう?」
皮肉を込めて彼は聞いた。
これには返す言葉がなかった。
「心配しないで、大丈夫。それよりあなたが心配だった」
あああ。そうだったわ。アーネスティン様の影は何でも知っている。ルイス様のことも筒抜けだったのでは?
「ああ。まぬけな奴がうろついていることは知っていた」
マーク様の目が怖い。
「僕は影と取引した。その当時は何もできなかった。伯父が亡くなって初めて動けるようになったんだ。あなたの為のドレスを作らせることもできるようになった」
唐突に贈られて来たドレスは、父の出世を聞いて贈られたのではなかったのだ。
マーク様が伯爵位を継いだから送ることができる世になったので、贈られたのだ。
「どうしてそんなに私によくしてくださったの?」
「好きだったんだ。あなたはずっと憧れだった」
私はただの……平凡な伯爵家の娘で、これと言ってとりえもない。
「平凡じゃない。あなただけだ。きれいで優しい。だけど、手紙を書いたり一緒にいると、あなたはなんだか強い光に引っ張られて進んでいくような人だなと思うようになった」
私はクスッと笑った。
「それだと、アーネスティン様が強い光?」
フサフサした濃い色の髪が否定に揺れた。
「違うよ。やらなくてはいけないと思ったことや、義務かな? この国の運命みたいなものかな?」
「そんなすごいこととは関係しないわ」
違うよと彼は言った。
家出をして、侍女になるために懸命に努力して、そんなこと普通の令嬢に出来ないと彼は言う。
「あなたの後を僕はついて行く。君と僕は一緒だよ。あなたのお父様も一緒だ。あなたがアーネスティン様について行くなら僕も行く。それはしなくちゃいけないからだろう?」
灰色の目が光るようだった。
ああ、この人は、私のことをわかってくれている。
マーク様はテーブルの下で私の手を握った。
「いつでもあなたと一緒だ。あなたを助けて一緒にいる。そのために同じ年に卒業しようかな。時間も縮めてみせるよ」
以前は行けなかった観劇や、夜のカフェも出かけることが増えた。
ローズマリー様と一緒に行けば特に最強だった。
なぜなら、ローズマリー様の婚約者と私は兄妹だったから。
深夜に及ぶ食事も観劇も、兄妹が一緒だとなんとなく警戒が緩むらしい。
しかし、実態は当然バラバラだった。兄の顔なんか見たくないわ。ローズマリー様の為には何でもする勢いだけど、妹のお願いなんか完全無視でしたもの。
私と兄が仲悪そうにしていると、ローズマリー様はめちゃくちゃおかしそうに笑っていた。
静かなレストランで、二人きりで夕食を取りながらマーク様は言った。
「よかった。ふたりきりで」
私より年下なのに、私よりよっぽど口がうまくて意味深な言葉を吐くって、どういうこと? その上、時々かわいい。あざとい。
それにこのレストランがいくらするのか。大人でなければ出入りできないと思っていた。
「大丈夫。グラント伯爵の名前で入れたよ。予約も簡単だった」
私は思わず周りを見渡してしまった。
いかにも優雅な男女二人連れが多い。
「ねえ、よそ見しないで。僕、一年学年をスキップしようかと思っているんだけど」
私は驚いた。
「そんなことできるのですか?」
「できます。そうすれば、一年早く結婚できるよ?」
私はグッと引き込まれた。でも、やっぱり早すぎないかしら?
「アーネスティン様が隣国の王妃様になるかもしれないって話、知っている?」
私は驚いた。彼も知っているの?
「意外に早まるかもしれないって、君のお父様が言っていたよ」
夜のこのレストランは人が少なかった。テーブルとテーブルが離れている静かな店だった。この話は他人に聞かれてはいけない。
突然、マーク様がニッと笑った。
「僕は、アーネスティン様の影たちと親しくなって」
私は仰天した。王弟一家の影と親しくなる?
「仕方なかったんだよ。国内では考えられない。だけど、隣国内ではさすがの影も父上のハワード侯爵を頼らざるを得なかったんだ。影たちは、アーネスティン様の為に動いていたのだから、王家に仕える侯爵も彼らに尽力する義務があった」
私はあきれてマーク様の顔に見入った。
「僕は学生で目立たない。ただの留学生で、政治的な色合いは全くないように見える。身分もいわば平民だ。父は伯爵だが、学者だからね。だから影たちとどんなに接触しても、侯爵と違って、国から来た友人をもてなしているようにしか見えなかった。誰からも疑われない」
「それは結構危ないことだったのでは?」
彼に力はない。下手をすれば父も危なくなる。
「僕みたいな子どもに何かができるとは思わないだろう?」
皮肉を込めて彼は聞いた。
これには返す言葉がなかった。
「心配しないで、大丈夫。それよりあなたが心配だった」
あああ。そうだったわ。アーネスティン様の影は何でも知っている。ルイス様のことも筒抜けだったのでは?
「ああ。まぬけな奴がうろついていることは知っていた」
マーク様の目が怖い。
「僕は影と取引した。その当時は何もできなかった。伯父が亡くなって初めて動けるようになったんだ。あなたの為のドレスを作らせることもできるようになった」
唐突に贈られて来たドレスは、父の出世を聞いて贈られたのではなかったのだ。
マーク様が伯爵位を継いだから送ることができる世になったので、贈られたのだ。
「どうしてそんなに私によくしてくださったの?」
「好きだったんだ。あなたはずっと憧れだった」
私はただの……平凡な伯爵家の娘で、これと言ってとりえもない。
「平凡じゃない。あなただけだ。きれいで優しい。だけど、手紙を書いたり一緒にいると、あなたはなんだか強い光に引っ張られて進んでいくような人だなと思うようになった」
私はクスッと笑った。
「それだと、アーネスティン様が強い光?」
フサフサした濃い色の髪が否定に揺れた。
「違うよ。やらなくてはいけないと思ったことや、義務かな? この国の運命みたいなものかな?」
「そんなすごいこととは関係しないわ」
違うよと彼は言った。
家出をして、侍女になるために懸命に努力して、そんなこと普通の令嬢に出来ないと彼は言う。
「あなたの後を僕はついて行く。君と僕は一緒だよ。あなたのお父様も一緒だ。あなたがアーネスティン様について行くなら僕も行く。それはしなくちゃいけないからだろう?」
灰色の目が光るようだった。
ああ、この人は、私のことをわかってくれている。
マーク様はテーブルの下で私の手を握った。
「いつでもあなたと一緒だ。あなたを助けて一緒にいる。そのために同じ年に卒業しようかな。時間も縮めてみせるよ」
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