【完結】エレクトラの婚約者

buchi

文字の大きさ
61 / 72

第61話 大叔母は父の叔母という意味

しおりを挟む
父はものすごい大声でセバスを呼んだ。

「セバス!」

セバスはすぐに現れた。
ビクビクしている。

「お前がエレクトラにそんな嘘を教えたのか?」

「嘘を教えるだなんて、そんな。ヘイスティング侯爵夫人が、自分からそうおっしゃったのです。今日からこの家は私が取り仕切りますと」

「だからなんで、そんな言葉を真に受けるんだ!」

「そうは言いましても」

「あの、お父さまからヘイスティング侯爵夫人とそのお嬢様たちがこの家に来るから気持ちよくもてなすようにというお話以外、何も聞いていないので、私たちはそうなのかと思っていました」

私はセバスの言葉を補った。セバスが私の味方なら、私はセバスの味方なの。

父は頭を抱えた。そして言った。

「ヘイスティング侯爵夫人は、夫と死別したが、新侯爵と仲が悪くて、家にいられなかったんだ。娘たちはあんなだし、本人もあの通りだ。義理の息子のヘイスティング新侯爵が追い出したと言ってもいい」

「旦那様が、ご結婚なさったのではなかったのですか?」

セバスが恐る恐る核心を追求した。勇気ある行動だ。私も父を熱心に見つめた。

「冗談じゃない!」

父が叫んだ。

訳が分からないわ。じゃあ婚家先にいられなくなったからって、どうしてうちに来るの? 親戚でも友人でもないはずよ? しかも、今後は自分が家を取り仕切りますって、それは女主人のセリフなのよ。

「それならどうしてうちへ? 生家に戻ればいいだけではありませんか!」

「普通はご実家に戻られるのではありませんか?」

セバスも同じことを思ったらしく言った。

そうよ。実家に戻ったらいいじゃない。どことは言っていなかったけれど、貴族の家柄だと言っていたような気がする。ご両親か兄弟がいるはずよ。

父がものすごく情けない顔をした。

「生家がここなんだよ」

セバスも私も、びっくり仰天した。

「だって、旦那様の親戚にヘイスティング侯爵夫人なんて方はおられませんよ? 聞いたこともございません」

セバスが叫んだ。

「うん。ヘイスティング侯爵夫人とは、ソンプ男爵夫人のことだ」

父が言うと、セバスが顔色を変えた。

「旦那様の叔母様の名前ではないですか」

私には初耳だった。叔母様なの? そんなはずはないわ。私に叔母はいないはずよ。

「そうだよ。さっき叔母上と言っていただろう」

父の叔母か。私は首をひねった。世代が合わない気がする。

ヘイスティング侯爵夫人は、父と同年配に見える。私の叔母ならしっくりくる年回りだが、父の叔母ならもっと年配のはず。私の祖父母は、ずいぶん前から領地で悠々自適の隠居生活だったが、確か五年ほど前、祖父が他界し、祖母が一人暮らしだったはずだ。

「私の父の兄妹の中で一番年下の妹だよ。両親はもう二十年も前に亡くなっていて、跡を継いだのは私だからこの家が生家になるんだな」

「おじいさまが亡くなったのは五年前ですわ。二十年も前ではありません」

私は注意を試みた。

「お前のおじいさまの妹なのだ」

あああ。大叔母ってそういう意味でしたわね。ややこしい。どうしても年齢が合わない気がするわ。

「あの、ソンプ男爵家の方はどうなったのですか? そちらに戻るわけにはいかないのですか?」

今の話だと再婚らしい。アンとステラの本当のお父様はどうなっているのかしら。

父は具合が悪そうにした。

「まあ、叔母は家族の中でも個性が強くてね。いや、逆に個性がないと言うか」

何が言いたいのかしら。

父はコホンと咳をした。

「そんなわけで、少々縁遠くてな。ソンプ男爵の後妻になった。ソンプ男爵は裕福だが年配だったのだが、叔母本人が結婚を希望したので、めでたく結婚して子どもにも恵まれた。アンとステラのことだ。だけど、数年前に男爵が亡くなった後、跡を継いだ子どもの新男爵と仲が悪くてね。たまたま近くへ療養に来ていたヘイスティング侯爵の世話をしたのがご縁になって再婚が決まったのだ。まあ、ヘイスティング侯爵は、結婚後一年ほどで他界したがね」

まさか毒殺? いや、大叔母である偽義母にそんな知識はないはず。自然死かしら? 色々と突っ込みどころが多すぎる。

私は情報の確認に走った。

「まず、そのヘイスティング侯爵ですけど、療養中に結婚したとのことですが、どこで療養されていたのですか? 王都ですか?」

「いや、ソンプ男爵は王都に家はなかった。領地は西部の方の小さな町だよ」

父は有名な温泉町の名前を挙げた。ヘイスティング老侯爵が静養に行っても不思議はない有名な保養地だ。

「わかりました。王都での話じゃないのですね。それなら新ヘイスティング侯爵は結婚に賛同されていたのですか?」

そんなややこしい結婚、反対されるに決まっていると思う。でも、自分の父親の後妻くらい引き取りなさいよ!

「いや。それどころか、何も知らなかったらしい。あとで大分もめたからな」

父はしぶしぶ言った。

うわー。

「どうもめたんですか?」

「エレクトラ。まるで尋問しているみたいじゃないか。経緯いきさつなんかどうでもいいだろう。人の家のことなんだし、ちゃんと結婚しているのだから。署名は本物だったらしい」

私は次の質問に移った。

「アンとステラは、常々、侯爵令嬢と名乗っていましたが、本当ですか?」

父は驚いたらしかった。

「そんなはずはない。連れ子だからソンプ男爵令嬢だ。ヘイスティング侯爵家はアンとステラの顔も知らないんじゃないか?」

私とセバスは顔を見合わせた。













しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

【完結】愛され公爵令嬢は穏やかに微笑む

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢
恋愛
「シモーニ公爵令嬢、ジェラルディーナ! 私はお前との婚約を破棄する。この宣言は覆らぬと思え!!」 婚約者である王太子殿下ヴァレンテ様からの突然の拒絶に、立ち尽くすしかありませんでした。王妃になるべく育てられた私の、存在価値を否定するお言葉です。あまりの衝撃に意識を手放した私は、もう生きる意味も分からなくなっていました。 婚約破棄されたシモーニ公爵令嬢ジェラルディーナ、彼女のその後の人生は思わぬ方向へ転がり続ける。優しい彼女の功績に助けられた人々による、恩返しが始まった。まるで童話のように、受け身の公爵令嬢は次々と幸運を手にしていく。 ハッピーエンド確定 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2022/10/01  FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、二次選考通過 2022/07/29  FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、一次選考通過 2022/02/15  小説家になろう 異世界恋愛(日間)71位 2022/02/12  完結 2021/11/30  小説家になろう 異世界恋愛(日間)26位 2021/11/29  アルファポリス HOT2位 2021/12/03  カクヨム 恋愛(週間)6位

私と幼馴染と十年間の婚約者

川村 あかり
恋愛
公爵令嬢ロゼリアは、王子アルベルトとの婚約を結んでいるが、彼の心は無自覚に幼馴染のミナに奪われていた。ミナの魔法【魅了】が無意識に周りの男性を狂わせ、アルベルトもその例外ではない。 それぞれが生まれつき得意な魔法があり、ロゼリアは見たものや聞いたものを完璧に記録できる【記録・再生】の魔法を持ち、二人の関係に耐えきれず胃の痛みに悩む日々。そんな中、彼女の唯一の理解者の冷静沈着なキースや毒舌のマリーが心の支えとなる。 アルベルトの側近であるガストンは、魔法【増幅】で騒動を盛り上げる一方、ミナの友人リリィは【幻影】の魔法を使ってロゼリアを貶めようと画策する。 婚約者と幼馴染の行動に振り回されるロゼリア。魔法が絡んだ恋愛模様の中で、彼女は本当の愛を見つけられるのか?

クリスティーヌの本当の幸せ

宝月 蓮
恋愛
ニサップ王国での王太子誕生祭にて、前代未聞の事件が起こった。王太子が婚約者である公爵令嬢に婚約破棄を突き付けたのだ。そして新たに男爵令嬢と婚約する目論見だ。しかし、そう上手くはいかなかった。 この事件はナルフェック王国でも話題になった。ナルフェック王国の男爵令嬢クリスティーヌはこの事件を知り、自分は絶対に身分不相応の相手との結婚を夢見たりしないと決心する。タルド家の為、領民の為に行動するクリスティーヌ。そんな彼女が、自分にとっての本当の幸せを見つける物語。 小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

裏切られた令嬢は冷たい公爵様に拾われて、最愛の奥方として満たされる〜婚約破棄された夜、隣国で見つけた真実の幸福〜

sika
恋愛
名門家の令嬢アリアは、舞踏会の夜に婚約者である王太子から婚約破棄を言い渡される。政治の道具にされた彼女は、すべてを失い、隣国へと逃れる。 だがその先で出会ったのは、冷徹と噂される公爵――レオンハルト。 「お前はもう、誰にも傷つけさせない」 無表情なその人の腕の中で、アリアは本当の愛と生まれ変わるような幸福を知っていく。 けれど、過去の因縁は二人を追い詰め、やがて彼女を見捨てた者たちに再会する時が訪れる。 「ざまぁ」はまだこれから――。 痛快な復讐と、甘く激しい溺愛が交錯する王道ロマンス。

[完結]不実な婚約者に「あんたなんか大っ嫌いだわ」と叫んだら隣国の公爵令息に溺愛されました

masato
恋愛
アリーチェ・エストリアはエスト王国の筆頭伯爵家の嫡女である。 エストリア家は、建国に携わった五家の一つで、エストの名を冠する名家である。 エストの名を冠する五家は、公爵家、侯爵家、伯爵家、子爵家、男爵家に別れ、それぞれの爵位の家々を束ねる筆頭とされていた。 それ故に、エストの名を冠する五家は、爵位の壁を越える特別な家門とされていた。 エストリア家には姉妹しかおらず、長女であるアリーチェは幼い頃から跡取りとして厳しく教育を受けて来た。 妹のキャサリンは母似の器量良しで可愛がられていたにも関わらず。 そんな折、侯爵家の次男デヴィッドからの婿養子への打診が来る。 父はアリーチェではなくデヴィッドに爵位を継がせると言い出した。 釈然としないながらもデヴィッドに歩み寄ろうとするアリーチェだったが、デヴィッドの態度は最悪。 その内、デヴィッドとキャサリンの恋の噂が立ち始め、何故かアリーチェは2人の仲を邪魔する悪役にされていた。 学園内で嫌がらせを受ける日々の中、隣国からの留学生リディアムと出会った事で、 アリーチェは家と国を捨てて、隣国で新しい人生を送ることを決める。

王女殿下のモラトリアム

あとさん♪
恋愛
「君は彼の気持ちを弄んで、どういうつもりなんだ?!この悪女が!」 突然、怒鳴られたの。 見知らぬ男子生徒から。 それが余りにも突然で反応できなかったの。 この方、まさかと思うけど、わたくしに言ってるの? わたくし、アンネローゼ・フォン・ローリンゲン。花も恥じらう16歳。この国の王女よ。 先日、学園内で突然無礼者に絡まれたの。 お義姉様が仰るに、学園には色んな人が来るから、何が起こるか分からないんですって! 婚約者も居ない、この先どうなるのか未定の王女などつまらないと思っていたけれど、それ以来、俄然楽しみが増したわ♪ お義姉様が仰るにはピンクブロンドのライバルが現れるそうなのだけど。 え? 違うの? ライバルって縦ロールなの? 世間というものは、なかなか複雑で一筋縄ではいかない物なのですね。 わたくしの婚約者も学園で捕まえる事が出来るかしら? この話は、自分は平凡な人間だと思っている王女が、自分のしたい事や好きな人を見つける迄のお話。 ※設定はゆるんゆるん ※ざまぁは無いけど、水戸○門的なモノはある。 ※明るいラブコメが書きたくて。 ※シャティエル王国シリーズ3作目! ※過去拙作『相互理解は難しい(略)』の12年後、 『王宮勤めにも色々ありまして』の10年後の話になります。 上記未読でも話は分かるとは思いますが、お読みいただくともっと面白いかも。 ※ちょいちょい修正が入ると思います。誤字撲滅! ※小説家になろうにも投稿しました。

【完結】真実の愛とやらに負けて悪役にされてポイ捨てまでされましたので

Rohdea
恋愛
最近のこの国の社交界では、 叙爵されたばかりの男爵家の双子の姉弟が、珍しい髪色と整った容姿で有名となっていた。 そんな双子の姉弟は、何故かこの国の王子、王女とあっという間に身分差を超えて親しくなっていて、 その様子は社交界を震撼させていた。 そんなある日、とあるパーティーで公爵令嬢のシャルロッテは婚約者の王子から、 「真実の愛を見つけた」「貴様は悪役のような女だ」と言われて婚約破棄を告げられ捨てられてしまう。 一方、その場にはシャルロッテと同じ様に、 「真実の愛を見つけましたの」「貴方は悪役のような男性ね」と、 婚約者の王女に婚約破棄されている公爵令息、ディライトの姿があり、 そんな公衆の面前でまさかの婚約破棄をやらかした王子と王女の傍らには有名となっていた男爵家の双子の姉弟が…… “悪役令嬢”と“悪役令息”にされたシャルロッテとディライトの二人は、 この突然の婚約破棄に納得がいかず、 許せなくて手を組んで復讐する事を企んだ。 けれど───……あれ? ディライト様の様子がおかしい!?

【完結】セクハラ護衛騎士と婚約者の観察日記

buchi
恋愛
ハンナは実は大富豪でもある伯爵家の娘。地味でおとなしいので、公爵家の一人娘の婿の座を狙う婚約者から邪魔者扱いされて、婚約破棄を宣言されてしまう。成績は優秀なので王女殿下のご学友に選ばれるが、いつも同席する双子の王子殿下に見染められてしまった。ただし王子殿下は、なぜか変装中で……変装王子と紡ぐ「真実の愛」物語。王道のザマアのはず(ちょっと違う気もするけど、いつものことさっ) 完結しました。

処理中です...