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後日談 その1 イアン陛下、捕獲作戦

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書いたことがない、後日談……

後日談って、こんなのでいいんでしょうか?

結構甘々(当社比)ですが、もし、よろしければ、お読みくださいませ。

■■■■■■■■■■■
1部 その後の二人(2話)
2部 カサンドラ夫人とバーバラ夫人のその後
3部 黄色いシャツの男の話
■■■■■■■■■■■

1部の後に、2部が来るのかどうか、一体いつ更新するのやら、未定でございます。

まあ、そこは気楽に、詰まんないと思ったら、そっ閉じ
面白かったら、笑って許す……って、ことで、
よろしくお願いいたします。

↓ ↓ ↓ ↓ スタート!!! 






「陛下が脱走した!」

「また、猟師に俺はなるとか、口走り始められたぞ!」

「ロー様! いかがいたしましょう?」

豪華な国王陛下の執務室の中を、書類を抱えた廷臣どもが、顔色をなくして右往左往しだした。


だが、マーク・ロー、国王陛下の側近中の側近、マーゲート伯爵嫡子にして、次期宰相と目される人物は、全く動じた様子はなかった。

「陛下の行先はわかっている。騎士団をお迎えに回せ」

腕組みしたまま、重々しくうなずいて、マーク・ローは言った。

「行け! ロビア公爵家へ。陛下を捕獲するのだ」


*******


「リナあ。マーク・ローったらひどいんだよう。執務室が、書類だらけでさあ」

乱暴にドアを開けて、ロビア公爵家に逃げてきたイアンは、一目散に私の椅子のところに駆け寄った。そのまま足元に崩れ落ちて、膝の上に頭をのっけ、さらには両手を腰に回した。おしりをナデナデしている。不埒な手だな。

「僕に全部サインしろって、ひどくない? 手の筋がおかしくなっちゃうよ」

元気そうな手の動きだと思うけど。

「あー。もう、猟師の方がよかった。今からでも猟師になりたい。リナ、隠れ家に移動しようよ。僕をバッグに入れて運んでよ」

私はイアンの頭をやさしく撫でた。

「陛下のお仕事が滞っちゃうでしょ? 代わりは誰もいないし。さあ、王宮の執務室に戻りましょうね」

「いやだあああ……」


バタンとドアが開いた。

「何をしておる」

しわがれた威厳たっぷりな声が響いた。

ドアのところに立っているのは、白髭のいかめしい老人。譲位した元国王陛下、イアンの父上である。
現在はヘンリー八世元国王陛下という長たらしい名前で呼ばれている。

パッとイアンは立ち上がった。

「これは、父上。いえ、陛下。お久しゅうございます。このようなところで、お目にかかれるとはなんという僥倖ぎょうこう。しかしながら、さりながら、別宮におわしますはずの陛下が何故なにゆえここに?」

どうして、とっさにこれだけ口が回るのかしら。いつも本当に謎。

「リナちゃんとローズちゃんをでに来たに決まっておるじゃないか。リナちゃんに、ご招待してもらったのじゃ」

と、ヘンリー八世元国王陛下は言い放った。



キリキリキリとイアンの眉が寄っていった。


ええと、私はとにかく、生まれて間がない二番目の我が子、新王女ローズ姫にイアンはなぜかメロメロなのだ。
兄の王子の時は、かわいいなあ、くらいで比較的冷静だったのに。

なにせ王女だもので、今からあちこちの王家から、婚約の打診がやってくる。

そのたびに、イアンは心が痛むとか言って、婚約相手の王子に呪いをかけているのだ。やめときなさいって、言ってるのに。魔力のカケラもないんだから、絶対効かない。見てて気持ち悪いだけよ。

黒装束に身を包んで、紙で相手の形代を作り、裏に名前を書いて、夜中にロウソクの火で燃やすという、割と凝った呪いの儀式だ。

本当は、自分の血で相手の名前を書かないと効果は上がらないんだけど。
そして、それはわが身に代えても呪いを相手にという意味を持つ。

まあ、イアンの場合、たとえ血で名前を書いても何も起きないけどね。魔力ゼロだから。

無駄な出血を防ぐためにも、そんなことは教えてないので、イアンはペンでせっせと他国の王子の名前を書いているわ。でも、たまにリナ・ラブとか書いているときがある。
あれは何のためなんだろう。まさか、私を呪っているわけじゃないよね?

とっても理由を聞いてほしそうに、こっちをチラチラ見るんだけど、聞かない方がいいような気がするんで知らんぷりしてたら、この前、まだ赤ん坊のローズに、話しかけていた。

「こっちの紙で、ローズのイケナイお婿候補を抹殺したから。で、こっちのは恋愛成就祈願。もちろん、ローズのママのリナとの成就ね。パパはママ一筋だから安心してね。ママの塩対応が治りますようにって。恋愛成就って、そういう意味」

……全然違う。嘘を子どもに教えるんじゃない。結婚してから、恋愛成就って、不倫かい。それに、子どもにママ一筋とか、気持ち悪いからヤメロ。



「あああー、ローズ様! どこへ? キャアアア」

今度は別な叫び声がしたかと思うと(多分、乳母のタチアナの声だ)、また、ドアがバターンと音を立てて開いて、今度はにこにこ笑顔のローズが、飛び込んできて、とーちゃんの頭を直撃した。

「あぶない!」

空爆である。

かなりの衝撃だ。
大の大人の男のイアンがふらつくくらい。

「ローズっ! 大丈夫?」

火が付いたように泣きわめく赤ん坊と、相当痛かったらしいとーちゃんイアン……。

「ローズ、人間爆弾はやめなさい。まずはあんよから始めましょうって……言っても分からないか」


これが、私たち一家がロビア家に滞在している理由だ。

兄の王子、フランツに魔法力はなかった。

イアンとヘンリー八世陛下はひそかに残念がっていたみたいだけど、私はほっとしていた。
正直、赤ん坊の魔力なんか、どこで発動するか全然わからない。

魔力を発動されたら、私しか対応できない。乳母が役に立たないの。乳母の意味、ないじゃない。

それに、ほかの人たちにばれたら、やっぱり面倒くさそう。下手なうわさが流れても困る。

そんなわけで、王女病弱説を流して、おりこうさんが出来るようになるまで、伯母の魔力のおかげで防御が完ぺきで、王宮からも距離があるロビア公爵邸に滞在することになったのだ。
もちろん、夜、とーちゃんのイアンは帰ってくるし、私もここから公務に出る。ローズを出さないだけだ。

でも、いつでもここへ来れるとなると、王宮でギチギチに警護されて、次から次へと謁見だの書類へのサインだのに追い回されているイアンが、子どもの顔が見たいからという理由で、逃げてくるようになってしまった。

「ここはいいな。ゆったりできる。なにより、リナの顔が見れる。ほっとできるよ。あとローズに会える」

要はサボリ。何の言い訳もたたない、純粋なサボリ。

「ダメじゃのう、イアン。そんなだから、留学だとか理由をつけて、ふらふら出かけて行って、国を傾けたのじゃろう。なー? リナちゃん?」

威厳はたっぷりだが、イアンより首一つ小さい陛下が、偉そうにイアンをたしなめた。
イアンの表情は変わらないが、私にはわかる。怒気が、今、3割増しになった!

「リナちゃん……なんでちゃん付けなんですか。父上、あなただって、政務があるはずでしょう。文書の確認をするっていうやつが。若造では頼りないから見るようにって、大臣に言われてましたね」

その大臣は左遷された。正確に言うとイアンが左遷した。いい提言だったと思うんだけど、若造というフレーズと、カサンドラ夫人派だったのがマズかったのね。

「だって、何回も確認するのって、無駄作業と思うんじゃ。お前は効率化とか合理的という言葉を知らんのか」

「無駄作業じゃありません。元国王の称号は飾りではない筈。父上の理屈は完全な詭弁で、要はサボリですよ」

「サボリはお前じゃろ。ここにおる時点でクロじゃ」

ギャアギャア泣きわめく赤ん坊の声をBGMに言い争う二人。

サボリ同士が何を言っているのかしら。

でも、まあ、お義父様、お元気そうで何よりですわ。



「王妃様。王家の騎士団が、こちらに王家の探し人がいるとのことで、ロビア家に参っておりますが?」

ウチの護衛騎士が不審そうに、来客を告げに来た。

そりゃそうだ。不審に決まってる。

イアンも元陛下も、全員三階の秘密のドアから出入りするから、使用人たちには、来たかどうかわからない。

本来なら、先ぶれを出して、使用人全員が整列してお迎えしなくてはならない貴賓客なのである。

それが、ドア一つで、「リナあーッ」とか「リナちゃーん、来ちゃったあ」とか、全く血は争えないと言うか、なんというか。


「え? ああ? 陛下がお二人ともここに?」

にらみ合っている王家の父子二人を見つけた、ウチの護衛騎士が大混乱を始めた。

あっという間に、イアンが珍解説を披露した。

「そうなのだ。実は父上が行方不明になってしまってな。私がようやく見つけたという訳なのだ。それで、マーク・ローに迎えを要請したのだ。さあ、父上の王城へのご帰還を丁重にご案内せよ」

「はっ。かしこまりましてございます」

「え? 違うでしょ? 騎士団は、イアンを迎えに来たのでしょ?」

お義父様は抵抗するが、イアンは強引に部屋の外に連れ出した。

「ささ、陛下。こちらへ」

なんだかざわざわと人声がするが、元陛下の姿を見た途端、騎士団はすっかり納得したらしい。
元陛下をお迎えに騎士団が遣わされるのは当然だ。

「なーんだ。陛下をお迎えに行けと言われたけど、イアン陛下の方じゃなくて、ヘンリー八世陛下のことだったのかー」

「国王陛下が王宮内にいないだなんて、大騒ぎになるものなあ。そんなことあるはずがないもんな」

「焦って損したわー。でも、ヘンリー八世陛下のお迎えなら仕方ないな」

「お茶目な王様って有名だったものな。ローズ姫がかわいくて仕方ないそうだし」



「よし。行った」

ざわざわと一行がヘンリー八世陛下を馬車に詰め込んで、行ってしまうとイアン陛下はサムズアップして、ニヤリと笑って見せた。

「こら」

私はイアンに言った。

「マーク・ロー様が探しに来たのはあなたの方でしょう」

「リナ、どうして、父上にリナちゃん呼ばわりを許可したの? 僕への裏切り?」

会話になってない。話をねじまげるんじゃない。

「お義父様が、私をどのようにお呼びになろうと、お義父様の自由ではありませんか」

「ちょっとでも、目を離すとこれだもん。どうして父上なんかにやさしくするの? 僕には仕事しろとか塩対応なのに。僕は君の夫なんだよ? わかってる? 夫! 夫ってねえ、いろいろ権利があるんだよ」

本当に何しに来た、このバカ国王。

ネチネチとイアンは私に絡みついた。

「そんなに冷たいことばっかり言うお口はみんな、夜にはお仕置きだよ」

うむ。下品な。しかも目が本気。だけど、根本的に帰ってこれないからね。

「本日は、マグリナ国王太子ご夫妻の来訪を歓迎する晩さん会が予定されています。終了時刻は深夜十二時の予定です」

イアンはうなだれた。その翌日もスケジュールは満載。死にたくなければ睡眠は重要だ。

「絶対、猟師の方がよかったよー。もう、リナのせいだからね。責任取ってもらうからねーっ」


「あらあ。本気なら、方法がありますけど、試してみます?」

イアンは目を丸くした。

「え? なんなの? 何かあるの?」

かかったな。

私はニヤリとした。

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