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第91話 友情物語
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「シエナには友達がいるわ!」
「友情なんか、役に立たないと、レイノルズ侯爵は考えるだろう」
リオが陰気に言った。
「私、レイノルズ侯爵は間違ってると思うわ」
珍しくアリス嬢がキッパリと言い出して、周囲を驚かせた。
「シエナは私のお友達よ? それから、キャロラインの友達よ? ねえ、社交界って、何のためにあるの? 政界だって、一人じゃ何もできない。だけど、友達がいるから、力になるのよ」
なんかちょっと違う気もするけど……
って、言うか、アリス嬢的な社交界は、気のあった者同士が徒党を組んで力関係を競うものなの?
それはそれで、怖いよ?
「レイノルズ侯爵の味方に付く人なんか誰もいないわ」
アリス嬢が真剣な表情で宣言した。
レイノルズ侯爵は評判が悪いですしねと言いかけてシエナは気が付いた。
評判……。それもまた力かもしれなかった。
「でも、婚約関係の絆の強さは認めてるのね、レイノルズ侯爵」
キャロライン嬢が笑った。
「それで、リオとシエナの中を割こうとしたのね。皇女だ皇女だって自称している、あのマドレーヌ嬢を使って。つまり、お得な方にリオが靡くと思ってるのね?」
「そんなわけないよな」
アーネストが言った。
「こいつ、バカみたいに惚れ切ってるのに」
人のことを言えた義理ではないと思う。
だが、他人の口からリオの思いを語られたシエナは、赤くなった。リオもだ。
「ええと、そんなことはどうでもいいけど! とにかく、僕がマドレーヌ嬢に気があると聞いたマドレーヌ嬢は、僕にデートを申し込んだんだ」
「まあ、ひどい! 婚約者のいる男性にですか?」
アリス嬢がまたもや叫んだ。
「どう言う神経かしら」
キャロライン嬢も眉をひそめた。
婚約者ではない。婚約者ではないと言うのに!
しかし、誰もこの問題を気にしなかった。
「で、イケメン度なら、僕を上回る人物を探して、シエナを頼んだんだ。目移りして欲しかったんだ」
「その結果があれですか」
テオドールが情けなさそうに、窓の外に目をやった。
『アイ❤️テオ様』
『て・お・様』
とか、ボードやお揃いのウチワを持った連中が、まだゾロゾロしている。
「名前貸してくれって、キャロライン嬢から頼まれたんだけど」
「すみません。こんなことになるとは」
シエナが謝った。
「全部、シエナファンなの?」
「そりゃそうだよ」
アーネストが情けなさそうに言った。
イケメン、怖い。
「だが、レイノルズ侯爵は、あれを見てどう思うだろうな。カネを渡したのに、変なことになってる」
「そもそもファン活動なんか、全然期待していない。怒ると思うな」
「大体、皇女と言う身分にリオが惹かれる訳ないのに……だけど、そういえば皇女って本当なのかな?」
アーネストが、ふと、気になったように言った。
「それは本当にわからないわ。落とし胤って話だから、育ちが貴族的でないのはわかるのだけど」
リオが一枚の紙を差し出した。
「これが、イライザ嬢が巻き上げた、レイノルズ侯爵からマドレーヌ嬢宛の手紙だ。皇女だって言う証拠は、レイノルズ侯爵が握っているらしい」
イライザ嬢、すごい。
「よくこんな手紙、イライザ嬢なんかに渡してくれたわね。完全に部外者じゃない?」
「僕と幻のテオを説得するために、必要だって言ったんだって」
全員がレイノルズ侯爵の手紙を読んだ。
書き手の性格なのか、角ばって几帳面そうな字体だった。
「マドレーヌ嬢が持っていた証拠の品を、帝国に鑑定してもらったことになってるね」
「この書き方、イヤミですわね」
キャロライン嬢が鼻の頭にしわを寄せて言った。
テオドールが考え考え言い出した。
「これ、父上に見せてはダメかな?」
「お父様の侯爵にですか?」
シエナが驚いて言った。
「あとアーネストの父上にも見ていただく訳にはいかないかな? 宰相だから、お忙しいことはわかっているけど」
「なぜですの?」
「うーん。帝国は外国で、皇帝は独裁者だ。レイノルズ侯爵が、陛下に断りもなく勝手にやり取りしていい相手なのか、よくわからないと思う」
「そうね。外交的にどんな意味があるのか、私たちにはわからないわね。それぞれの国はやり方が違いますしね」
「それにレイノルズ侯爵も分かっていないかもしれませんわ。アラン殿下のお仕事をしている時……」
言いかけてシエナは途中で口を切った。
アラン殿下の話は、リオが大嫌いなのだ。どうしてかよくわからないけど。
アーネストが手紙の文字をたどりながら言った。
「とにかく、父に見せてみる。もし何かあればアリス嬢に伝えるよ」
「シエナに教えてあげて」
アリス嬢が至極あっさりと言った。
「シエナなら、どうしたらいいかわかるわ。私より適任よ」
「友情なんか、役に立たないと、レイノルズ侯爵は考えるだろう」
リオが陰気に言った。
「私、レイノルズ侯爵は間違ってると思うわ」
珍しくアリス嬢がキッパリと言い出して、周囲を驚かせた。
「シエナは私のお友達よ? それから、キャロラインの友達よ? ねえ、社交界って、何のためにあるの? 政界だって、一人じゃ何もできない。だけど、友達がいるから、力になるのよ」
なんかちょっと違う気もするけど……
って、言うか、アリス嬢的な社交界は、気のあった者同士が徒党を組んで力関係を競うものなの?
それはそれで、怖いよ?
「レイノルズ侯爵の味方に付く人なんか誰もいないわ」
アリス嬢が真剣な表情で宣言した。
レイノルズ侯爵は評判が悪いですしねと言いかけてシエナは気が付いた。
評判……。それもまた力かもしれなかった。
「でも、婚約関係の絆の強さは認めてるのね、レイノルズ侯爵」
キャロライン嬢が笑った。
「それで、リオとシエナの中を割こうとしたのね。皇女だ皇女だって自称している、あのマドレーヌ嬢を使って。つまり、お得な方にリオが靡くと思ってるのね?」
「そんなわけないよな」
アーネストが言った。
「こいつ、バカみたいに惚れ切ってるのに」
人のことを言えた義理ではないと思う。
だが、他人の口からリオの思いを語られたシエナは、赤くなった。リオもだ。
「ええと、そんなことはどうでもいいけど! とにかく、僕がマドレーヌ嬢に気があると聞いたマドレーヌ嬢は、僕にデートを申し込んだんだ」
「まあ、ひどい! 婚約者のいる男性にですか?」
アリス嬢がまたもや叫んだ。
「どう言う神経かしら」
キャロライン嬢も眉をひそめた。
婚約者ではない。婚約者ではないと言うのに!
しかし、誰もこの問題を気にしなかった。
「で、イケメン度なら、僕を上回る人物を探して、シエナを頼んだんだ。目移りして欲しかったんだ」
「その結果があれですか」
テオドールが情けなさそうに、窓の外に目をやった。
『アイ❤️テオ様』
『て・お・様』
とか、ボードやお揃いのウチワを持った連中が、まだゾロゾロしている。
「名前貸してくれって、キャロライン嬢から頼まれたんだけど」
「すみません。こんなことになるとは」
シエナが謝った。
「全部、シエナファンなの?」
「そりゃそうだよ」
アーネストが情けなさそうに言った。
イケメン、怖い。
「だが、レイノルズ侯爵は、あれを見てどう思うだろうな。カネを渡したのに、変なことになってる」
「そもそもファン活動なんか、全然期待していない。怒ると思うな」
「大体、皇女と言う身分にリオが惹かれる訳ないのに……だけど、そういえば皇女って本当なのかな?」
アーネストが、ふと、気になったように言った。
「それは本当にわからないわ。落とし胤って話だから、育ちが貴族的でないのはわかるのだけど」
リオが一枚の紙を差し出した。
「これが、イライザ嬢が巻き上げた、レイノルズ侯爵からマドレーヌ嬢宛の手紙だ。皇女だって言う証拠は、レイノルズ侯爵が握っているらしい」
イライザ嬢、すごい。
「よくこんな手紙、イライザ嬢なんかに渡してくれたわね。完全に部外者じゃない?」
「僕と幻のテオを説得するために、必要だって言ったんだって」
全員がレイノルズ侯爵の手紙を読んだ。
書き手の性格なのか、角ばって几帳面そうな字体だった。
「マドレーヌ嬢が持っていた証拠の品を、帝国に鑑定してもらったことになってるね」
「この書き方、イヤミですわね」
キャロライン嬢が鼻の頭にしわを寄せて言った。
テオドールが考え考え言い出した。
「これ、父上に見せてはダメかな?」
「お父様の侯爵にですか?」
シエナが驚いて言った。
「あとアーネストの父上にも見ていただく訳にはいかないかな? 宰相だから、お忙しいことはわかっているけど」
「なぜですの?」
「うーん。帝国は外国で、皇帝は独裁者だ。レイノルズ侯爵が、陛下に断りもなく勝手にやり取りしていい相手なのか、よくわからないと思う」
「そうね。外交的にどんな意味があるのか、私たちにはわからないわね。それぞれの国はやり方が違いますしね」
「それにレイノルズ侯爵も分かっていないかもしれませんわ。アラン殿下のお仕事をしている時……」
言いかけてシエナは途中で口を切った。
アラン殿下の話は、リオが大嫌いなのだ。どうしてかよくわからないけど。
アーネストが手紙の文字をたどりながら言った。
「とにかく、父に見せてみる。もし何かあればアリス嬢に伝えるよ」
「シエナに教えてあげて」
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