どん底貧乏伯爵令嬢の再起劇。愛と友情が向こうからやってきた。溺愛偽弟と推活友人と一緒にやり遂げた復讐物語

buchi

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第77話 勝算の見込み

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「気色悪い話だが、まさか、娼館の話が本当だとは思わなかったよ」

ラッフルズ兄弟は、嫌そうに話していた。

エドワードはつい先ほど、辺境の警備隊のパトリックのところから戻ってきたばかりで、王都に残っていたアルフレッドから新しい噂を聞いたところだった。

彼らだって、レイノルズ侯爵の支払い問題については聞いたことがある。
ラッフルズ商会は大商家だったので、正直、客を選ぶことが出来た。だから、払いが微妙で、貴族の身分を盾に妙なところで値切って来る、面倒なレイノルズ家なんかと取引はしなかったから、よくは知らない。

だが、今回は事情が事情なので、探りを入れてみると、出るわ出るわ、本当につまらない少額の詐欺のような事案が山ほど出て来た。それも、規模の小さな弱い商人を狙ったものが多かった。

ただ、娼館の件は特殊だった。
娼館と言う立場から、表ざたに出来ないことが多い。
万一、貴族相手に訴訟でも起こそうものなら、貴族たちの客足はぱったりと途絶えてしまう。彼らは、通っていることを知られたくないのだ。

「余程、悪質だったんだな……」

「それも暴行された件よりも、踏み倒された方が気に入らなかったなんて」

「なんていうか……小物感が半端ないな」

「そりゃリリアスだって嫌がるだろう」

正直に言うと、娼館の件はラッキーだった。まさか本当だとは思っていなかったが、そう言う話があればリリアスは逃げやすい。危険なSM野郎だということにでもなれば、完ぺきだ。

「でもな、まさか本当にホントだったなんて」

「あいつ、牢から出ても、絶対結婚できないな」

「これって、俺たちにとってみると、順調なの?」

「そうとも言うかなあ? でも、この話、リリアスはもちろん、割と許容範囲の広いアマンダにも言いたくないなあ」


同様の会話は、ハーマン侯爵家でも繰り広げられていた。

リオがベイリーへ指示をして、リーズ家で伯爵との一幕が上がったのだが、そのほかにリオは、エドワードを侯爵家へ招いた。ラッフルズ家とは連絡を緊密に取らなくてはならない。

「リオネール・ハーマンだ」

エドワードは初めて訪問した貴族中の貴族、ハーマン家の重厚なしつらえに仰天していた。
自分達の屋敷も、掛けられるだけ金を掛けて、建築したのだが、この屋敷の有様はどうだ。
建物自身は古いかもしれないが、肖像画や、そこここに飾られた時代の付いた花瓶などの芸術品にエドワードは圧倒された。

彼は、今は使われていないハーマン侯爵の書斎に通された。
そして、現れた次期当主のリオにエドワードは思わず見ほれた。

美しい。男に向かって美しいはないだろうが、若い彼は肌も筋肉も張り切っていて、大きな目はなんとも麗しい。

なんて言ったっけ?
アルフレッドの妻の、あのどうしようもないアマンダがどこかから買い込んできた、男ばかりの絵姿がずらりと並んだ世にも興味のない雑誌。だが、あれに出てきそうな男だ。

あまりのことに、余計な沈黙の時間を作ってしまったエドワードは軽く咳払いをして誤魔化した。

「失礼。こんなことを申し上げてはさぞ不躾な男とお思いでしょうが、義妹のアマンダが購読している冊子を思い出してしまいまして……」

「マンスリー・レポート・メンズ・クラシックではないか」

「あ、それ……」

思い出した。

「買っていらっしゃるのですか?」

「まさか……」

リオはしかめつらをした。

「そんなことはどうでもいいので、話をしてくれ」

「本当に失礼しました。リーズ伯爵のご子息パトリック様にお目にかかって参りました……」

「どんな男だったか?」

あの伯爵の息子とは思えぬほど、しっかりしたいい男だった。

確かにめんどくさがりな傾向は伺えたが。

リオは全く会ったこともないらしかったが、熱心に聞いていた。

エドワードは話をしているうちに、このリオという男にも妙な親近感を覚え始めた。
無口で愛想が良い訳ではないが、質問は要領を得ていて、こちらの話をちゃんと正確に理解してくれている。話をしていて、気持ちがよかった。それから態度から非常に細かくシエナを気遣っていることがわかる。
まるで、エドワードがリリアスのことを思っている時のように。

あまりにも整った容姿に驚いて思わず余計なことを聞いてしまって怪訝な顔をされたが、リオは容姿だけの男ではなかった。


「エドワード殿。今度、アンジェリーナシークレットが発行されます。いわば、マンスリレポートメンズクラシックの女性版なのですが」

リオが差し出した冊子にエドワードは恐る恐る手を出した。

「これは……」

表紙はシエナだった。

「美人だ。リリアスによく似ている」

とても美しいが、同時にはかなさを感じさせる。

「この女性がボリスと言う男のもとに嫁がされる運命になったのです。借金のカタに」

ふたりが黙った。

「止めてくださったのは、アラン殿下。この方です」

もう一冊出されたのは、マンスリー・レポート・メンズ・クラシックの未発刊の最新号。

表紙はアラン殿下だった。

「セドナの王太子殿下が?」

エドワードは驚いてリオに尋ねた。リオが厳粛な顔をしてうなずいた。

彼自身は、あの日、密室でアラン殿下が何をしたのか知らない。

ボリスが不敬を働いたというのだが、経緯もよく知らない。
だが、おそらくボリスはアラン殿下の気に障ったのだ。
アラン殿下は王族にしては寛容な方だった。
多分……シエナについて触れたのが、ボリスの墓穴を掘ったのだろう。

こんなことになるとは……。シエナが自分で自分を救ったような気さえする。実際には、イライザ嬢が、自分の冊子の表紙に二人を使ったために、世論の同情を呼び込んだ。偶然とは恐ろしいものだとリオは思った。

ラッフルズ家の伝手で、弱小商人たちは力を得た。直接的にではないが、金銭的な裏付けをしてくれた。
弱い彼らは単独で行動を起こすことは怖い。だが、今、バックにはラッフルズがいる。
強大な力を持つ大商会だ。ハーマン侯爵家もひっそりと控えている。

そして、リーズ伯爵。
彼を封じ込めたのはリオ。彼の両親の資産を返せと訴訟を起こした。
リーズ伯爵は確実に負けるだろう。引退までの道筋をつけた。

名を継ぐ者が必要だったので、エドワードは一週間かけて馬車で行き来してパトリックを説得した。
パトルックがリーズ伯爵になった暁には、リーズ伯爵邸は、あふれんばかりのラッフルズ家の財力で、元通りになるだろう。そして、ラッフルズの能力をもってすれば、領地経営はどうにかなる。農産物の販路先をみつけることなど、ラッフルズにとっては、た易いことだろう。

「後は待つだけか」

「訴訟の話は、娼館から漏れ出している。いかに異常な男だったか、あることないこと話題になっています」

「逆に、ボリスを例外的に異常な人物に仕立て上げないと、娼館に貴族の客が来なくなるからな」

「いくつか嘘も混じっているのではないかと疑われますが」

「それはほっとこう。我々のせいではない」

「それに止められないませんしね」

エドワードがニヤリとした。

「そのほか少額を踏み倒された商人たちが大声で自分たちの正義を叫んでいます。まあ、これは貴族方の間では、大した噂にもならないでしょうけれど」

「貴族たち、王族たちは、ボリスがアラン殿下に対して不敬を働いたことを忘れるわけにはいかない。マズく回ると国際問題だ」

リオ、エドワード、それからあとからひっそりと参加したベイリーは額を集めた。

「王族を敵に回すだなんて」

「アッシュフォード子爵。王族なんて気まぐれなものだ。信用できるのでしょうか? 突然恩情をかけて、無罪放免などと言うことはありませんか?」

エドワードが聞いた。

「ない」

リオは言い切った。

絶対にない。アラン殿下はシエナを大事にしている。



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