44 / 120
第44話 リーズ伯爵と対決
しおりを挟む
シエナの叫びを聞いたリオは、ノックもしないで、この家の客間に飛び込んだ。
「誰だ?」
思いがけない人物がそこにはいた。
もう、何年も会っていなかったリーズ伯爵だった。
ひどく険しい顔をしている。
だが、ひどい身なりだ。
埃だらけの汚い格好で、遠くからの旅の帰りだということは一目で分かったが、そもそも貴族には見えない服装だった。
「誰だ? お前は。ノックもなしに家に入ってくるとは!」
リオは金のかかった格好をしている。一目で、どこかの貴族、それも裕福な貴族だとわかる。
「リオよ!」
シエナが叫んだ。
「リオだと?」
伯爵が顔をよく見ようとするかのように、一歩前へ踏み出した。
「リオですよ」
リオは冷たく答えた。
今は、もう立場が逆転している。
伯爵もシエナも知らないが、リオは昔のリオではない。
「お前はどこに住んでるんだ。まさかこの家じゃないだろうな」
「お父様! リオは弟なんですもの、この家に住んで当たり前……」
血走った目の伯爵がくるりとシエナを振り返った。
「リオは弟じゃない。わしの息子なんかじゃない」
シエナが驚いていた。
青紫の目が大きく見開かれていた。
声もなく。
「リオは、わしの弟夫婦の忘れ形見だ。両親が事故で死んだので、田舎の屋敷に預かったのだ」
リオはシエナを見つめた。
リオは最初から知っていた。姉ではないのだと。
むしろ、リオの方が生まれ月は早い。
「従兄弟だ。年頃の娘と一緒に住むだなんて言語道断だ。リオ、お前は田舎の屋敷にいるんじゃなかったのか?」
「まさか」
リオは伯爵をあざわらった。
「あんなところにはいられませんよ。僕は、今、騎士学校に通っています」
伯爵の目がギロリと光った。
「誰の金で? 見たところ、金回りは良さそうだが」
「あなたのお金じゃないことだけは確かですね」
リオは皮肉った。
伯父が彼のためにしてくれたことは何もない。
下男の代わりにこき使ったくらいがせいぜいだ。
学校さえ行かせてもらえなかった。
「僕は特待生試験に合格して、入学しました」
伯爵は眉をしかめた。他人の幸運を喜ぶタイプではないらしい。
「その服はなんだ。特待生になると、そんな服まで支給してくれるのか」
リオは伯爵ではなくシエナの反応をうかがった。
「特待生になったことで、養子に迎えられました。ハーマン侯爵家に」
「ハーマン侯爵家……」
「今の僕の名前は、アッシュフォード子爵です」
シエナの顔をチラリと見ないではいられなかった。
「ア、アッシュフォード子爵……?」
リーズ家の父娘はリオの顔を食い入るように見つめた。
驚きから立ち直ると、伯爵が言った。
「家のようすを見て、驚いた。娘が贅沢に暮らしている。どこから金が出ているのか……」
「シエナと結婚する約束を交わしました」
リオは平然と言った。
「婚約者の暮らしをよくするのは、当たり前です」
「な、なんだと? わしは聞いとらん」
「あなたはどうやってシエナが暮らしていたのか、ただの一度も知ろうともしなかったのでは?」
「そんなことはない。いつでも、気にしていた。だが、シエナの婚約は、親が決めるものだ」
「着ていく服もなければ、冬に薪もない生活でしたが?」
リオは婚約問題は無視して、伯爵の不備を追求した。
「それは、その、マーゴが悪いのだ。マーゴの采配がいかん」
「マーゴはあなたから一ギルの仕送りもなかったと言っていますよ」
今度はリオが一歩前に出、伯爵が後じさりした。
「服どころか、食べ物さえ買えなかった。飢え死にさせるつもりだったのですか?」
「わしだって、大変だったんだ。レイノルズ家の借金の取り立てが厳しくて。リリアスが黙って息子のボリスと結婚してくれていたら、こんなことにならなかったものを」
「相手が、あの強欲なレイノルズ家では、無事、結婚していてもどうなったことやらわかりませんけどね」
リオが詰め寄った。
「あなたがご存知かどうか知らないけど、リーズ家に対するあまりの仕打ちに、どの貴族の家もあれ以来レイノルズ家とは距離を置いています。婚約破棄を理由に、相手の家を破滅させるだなんて。しかもボリスは放蕩者で評判が悪い。親からの無理やりな結婚として悪評が立ってます」
「悪評が立ったのはリリアスのせいだ。レイノルズ家とわしは被害者だ」
「ボリスはあなたの娘の美しさに目が眩んで結婚したがったのでしょうけど、レイノルズ侯爵は違う。リリアス嬢が堪えかねて逃げたことを盾にリーズ家を脅迫した。被害者はリーズ家でしょう。そんな噂があなたの耳に入らないよう、細心の注意を払ったでしょうけど」
「そんな……」
伯爵がつぶやいた。
ある意味、誠心誠意、借金を返してきたのだ。それこそ、娘のことなど顧みないほどに。それが間違っていたと言われると、なんとも言えない気持ちになる。
「あなたが知らないだけで、僕たちは婚約者です。ゴア家のジョージと婚約破棄になったのはご存知なんですよね? ジョージの一存で。そっちは認めたのですよね?」
「認めるも何も。ゴア家から、連絡があった。ゴア家の意向だ」
「どうして、認めたのです。損害賠償を取れるチャンスでしょう」
「え?」
それこそ訳がわからなくなって、伯爵は目をむいた。
「レイノルズ家が婚約破棄で賠償金が取れるなら、ゴア家からリーズ家が賠償金を取ることだって可能でしょう」
伯爵はこれまで人に強要されて、あるいはしなくてはいけないと思い込みで行動してきた。
自分から進んで賠償金を取ろうとか、そんなことに思い至るタイプではなかった。
「今回もそうだ。この家の有様を知っていて、なぜ、婚約者がいるとわからないのです? 他の誰が、こんなに金をかけてくれるのですか?」
「身内だから……」
「弟じゃありませんよ。シエナだって分かっています。愛し合っているから、結婚する予定だから、お金をかけたのです。わからないとか、知らないなどと、世の中に通用するわけがないではありませんか。もう、何ヶ月も前からの話ですよ」
「わしは辺境にいたんだ! 知ってるわけがないじゃないか!」
リオは肩をすくめた。
「ご自分の家ですよ? 知らないではすみません」
伯爵は判断がつかない様子で、顔色は灰色だった。
「僕はシエナと貴族学園のダンスパーティで踊りました。ご存知でしょうが、学園のダンスパーティをエスコートして踊るのは婚約者と決まっています。それから、騎士学校主催のダンスパーティでも、一緒に踊りました。みんなが見て知っています」
公認だと言わんばかりだった。
「そんなことは認められん。ダメだ」
「あのレイノルズ家より、金はある。貴族の格も違う。同じ爵位だけれど、歴史も領地の広さもずっと格上です。その上、養父は騎士団長だ。リーズ家にとって、ずっと有利な結婚なのですよ? レイノルズ家が逆らえるとお思いですか?」
相手は子どもだと、ずっとみくびってきたリオなのに、伯爵はその気迫と、それから理屈にビビった。
まるで別人だ。
「それとも、あなたはレイノルズ家の味方をして、ハーマン家と今後敵対する気ですか? そこまでレイノルズ家に感謝する理由はないと思われますが」
ここまで言っても、この伯爵は納得しないかも知れない。
借金が怖いのだ。
それに……シエナはリオの婚約者ではない。
ダンスだって、周りに押されて踊っただけだ。
だが、シエナはまだ学生で、社交界に出ていない。
シエナの婚約事情は社交界には知られていないのだ。リオが婚約者だと言い張っても、逆に誰も反論できないだろう。
また、あのボリスとか言う崩れた私生活を送っている男は、社交界に出ていないシエナをどこで見かけたのだろうか。
リオは頭を巡らせた。
外部の人間が大勢やってきていたあの二つのダンスパーティのいずれかだろう。
だが、時間的に、今ごろ婚約の話を持ち出してきたと言うことは、おそらく見かけたのは騎士学校のダンスパーティ会場……
貴族学園の方のダンスパーティならとにかく、騎士学校の方は、まるでリオは嫌々ダンスをしているみたいだった。
しかも、エスコートしてきたのは別人。
「あのアランの野郎、返す返すも余計なことばっかりしやがって」
アランがシエナを騎士学校のダンスパーティへ連れていかなければ、少なくとも、見つからなかったかも知れない。
貴族学園のダンスパーティで見つかったのなら、どう見ても婚約者だから安心なのに。
伯爵の方は、まったく落ち着かなかった。
自分の家なのに、家具から使用人の顔ぶれまで変わっていて、まるで他人の家のようだ。
それに見るからに上等な服を着た、とても強そうなリオが睨みつけている。
シエナだって、高そうなドレスだった。
みすぼらしい我が身が気になった。
「シエナは連れて帰ります」
「え? どこへ?」
さすがに伯爵は驚いた。
それはそうだ。
娘が父親の家以外のどこへ行くと言うのだ。
「そうですね……」
このまま、シエナをこの家に置いておいては、レイノルズ家が連れ去ってしまうかも知れなかった。
「私の親族の女性に預けましょう。まさかまだ婚約者の間柄の女性を自分の家に連れて行ったりしませんよ。まあ、私は母代わりの伯母と一緒に住んでいますがね」
リオは正直不安だった。
今の話にシエナがどう思ったか。
だが、シエナは最初ものすごく緊張した顔になっていたが、リオの長い話の間に、顔が戻っていた。
「さあ、シエナ、行こう」
「行こうって、どこに!」
伯爵がわめいた。
「親族の女性に預けます。当たり前でしょう、レイノルズ家のボリスは、信用ならん」
「親族の女性とは誰なんだ!」
実はリオには心当たりがなかった。
コーンウォール卿夫人に預けられればベストなのだが、あっという間にバレてしまうだろう。
それに夫人を自分の事情に巻き込むわけにはいかないと思った。
「どこでしょうね。非の打ちどころのない立派な女性のところですよ」
行先が思いつかないまま、リオはシエナを辻馬車に乗せた。
「誰だ?」
思いがけない人物がそこにはいた。
もう、何年も会っていなかったリーズ伯爵だった。
ひどく険しい顔をしている。
だが、ひどい身なりだ。
埃だらけの汚い格好で、遠くからの旅の帰りだということは一目で分かったが、そもそも貴族には見えない服装だった。
「誰だ? お前は。ノックもなしに家に入ってくるとは!」
リオは金のかかった格好をしている。一目で、どこかの貴族、それも裕福な貴族だとわかる。
「リオよ!」
シエナが叫んだ。
「リオだと?」
伯爵が顔をよく見ようとするかのように、一歩前へ踏み出した。
「リオですよ」
リオは冷たく答えた。
今は、もう立場が逆転している。
伯爵もシエナも知らないが、リオは昔のリオではない。
「お前はどこに住んでるんだ。まさかこの家じゃないだろうな」
「お父様! リオは弟なんですもの、この家に住んで当たり前……」
血走った目の伯爵がくるりとシエナを振り返った。
「リオは弟じゃない。わしの息子なんかじゃない」
シエナが驚いていた。
青紫の目が大きく見開かれていた。
声もなく。
「リオは、わしの弟夫婦の忘れ形見だ。両親が事故で死んだので、田舎の屋敷に預かったのだ」
リオはシエナを見つめた。
リオは最初から知っていた。姉ではないのだと。
むしろ、リオの方が生まれ月は早い。
「従兄弟だ。年頃の娘と一緒に住むだなんて言語道断だ。リオ、お前は田舎の屋敷にいるんじゃなかったのか?」
「まさか」
リオは伯爵をあざわらった。
「あんなところにはいられませんよ。僕は、今、騎士学校に通っています」
伯爵の目がギロリと光った。
「誰の金で? 見たところ、金回りは良さそうだが」
「あなたのお金じゃないことだけは確かですね」
リオは皮肉った。
伯父が彼のためにしてくれたことは何もない。
下男の代わりにこき使ったくらいがせいぜいだ。
学校さえ行かせてもらえなかった。
「僕は特待生試験に合格して、入学しました」
伯爵は眉をしかめた。他人の幸運を喜ぶタイプではないらしい。
「その服はなんだ。特待生になると、そんな服まで支給してくれるのか」
リオは伯爵ではなくシエナの反応をうかがった。
「特待生になったことで、養子に迎えられました。ハーマン侯爵家に」
「ハーマン侯爵家……」
「今の僕の名前は、アッシュフォード子爵です」
シエナの顔をチラリと見ないではいられなかった。
「ア、アッシュフォード子爵……?」
リーズ家の父娘はリオの顔を食い入るように見つめた。
驚きから立ち直ると、伯爵が言った。
「家のようすを見て、驚いた。娘が贅沢に暮らしている。どこから金が出ているのか……」
「シエナと結婚する約束を交わしました」
リオは平然と言った。
「婚約者の暮らしをよくするのは、当たり前です」
「な、なんだと? わしは聞いとらん」
「あなたはどうやってシエナが暮らしていたのか、ただの一度も知ろうともしなかったのでは?」
「そんなことはない。いつでも、気にしていた。だが、シエナの婚約は、親が決めるものだ」
「着ていく服もなければ、冬に薪もない生活でしたが?」
リオは婚約問題は無視して、伯爵の不備を追求した。
「それは、その、マーゴが悪いのだ。マーゴの采配がいかん」
「マーゴはあなたから一ギルの仕送りもなかったと言っていますよ」
今度はリオが一歩前に出、伯爵が後じさりした。
「服どころか、食べ物さえ買えなかった。飢え死にさせるつもりだったのですか?」
「わしだって、大変だったんだ。レイノルズ家の借金の取り立てが厳しくて。リリアスが黙って息子のボリスと結婚してくれていたら、こんなことにならなかったものを」
「相手が、あの強欲なレイノルズ家では、無事、結婚していてもどうなったことやらわかりませんけどね」
リオが詰め寄った。
「あなたがご存知かどうか知らないけど、リーズ家に対するあまりの仕打ちに、どの貴族の家もあれ以来レイノルズ家とは距離を置いています。婚約破棄を理由に、相手の家を破滅させるだなんて。しかもボリスは放蕩者で評判が悪い。親からの無理やりな結婚として悪評が立ってます」
「悪評が立ったのはリリアスのせいだ。レイノルズ家とわしは被害者だ」
「ボリスはあなたの娘の美しさに目が眩んで結婚したがったのでしょうけど、レイノルズ侯爵は違う。リリアス嬢が堪えかねて逃げたことを盾にリーズ家を脅迫した。被害者はリーズ家でしょう。そんな噂があなたの耳に入らないよう、細心の注意を払ったでしょうけど」
「そんな……」
伯爵がつぶやいた。
ある意味、誠心誠意、借金を返してきたのだ。それこそ、娘のことなど顧みないほどに。それが間違っていたと言われると、なんとも言えない気持ちになる。
「あなたが知らないだけで、僕たちは婚約者です。ゴア家のジョージと婚約破棄になったのはご存知なんですよね? ジョージの一存で。そっちは認めたのですよね?」
「認めるも何も。ゴア家から、連絡があった。ゴア家の意向だ」
「どうして、認めたのです。損害賠償を取れるチャンスでしょう」
「え?」
それこそ訳がわからなくなって、伯爵は目をむいた。
「レイノルズ家が婚約破棄で賠償金が取れるなら、ゴア家からリーズ家が賠償金を取ることだって可能でしょう」
伯爵はこれまで人に強要されて、あるいはしなくてはいけないと思い込みで行動してきた。
自分から進んで賠償金を取ろうとか、そんなことに思い至るタイプではなかった。
「今回もそうだ。この家の有様を知っていて、なぜ、婚約者がいるとわからないのです? 他の誰が、こんなに金をかけてくれるのですか?」
「身内だから……」
「弟じゃありませんよ。シエナだって分かっています。愛し合っているから、結婚する予定だから、お金をかけたのです。わからないとか、知らないなどと、世の中に通用するわけがないではありませんか。もう、何ヶ月も前からの話ですよ」
「わしは辺境にいたんだ! 知ってるわけがないじゃないか!」
リオは肩をすくめた。
「ご自分の家ですよ? 知らないではすみません」
伯爵は判断がつかない様子で、顔色は灰色だった。
「僕はシエナと貴族学園のダンスパーティで踊りました。ご存知でしょうが、学園のダンスパーティをエスコートして踊るのは婚約者と決まっています。それから、騎士学校主催のダンスパーティでも、一緒に踊りました。みんなが見て知っています」
公認だと言わんばかりだった。
「そんなことは認められん。ダメだ」
「あのレイノルズ家より、金はある。貴族の格も違う。同じ爵位だけれど、歴史も領地の広さもずっと格上です。その上、養父は騎士団長だ。リーズ家にとって、ずっと有利な結婚なのですよ? レイノルズ家が逆らえるとお思いですか?」
相手は子どもだと、ずっとみくびってきたリオなのに、伯爵はその気迫と、それから理屈にビビった。
まるで別人だ。
「それとも、あなたはレイノルズ家の味方をして、ハーマン家と今後敵対する気ですか? そこまでレイノルズ家に感謝する理由はないと思われますが」
ここまで言っても、この伯爵は納得しないかも知れない。
借金が怖いのだ。
それに……シエナはリオの婚約者ではない。
ダンスだって、周りに押されて踊っただけだ。
だが、シエナはまだ学生で、社交界に出ていない。
シエナの婚約事情は社交界には知られていないのだ。リオが婚約者だと言い張っても、逆に誰も反論できないだろう。
また、あのボリスとか言う崩れた私生活を送っている男は、社交界に出ていないシエナをどこで見かけたのだろうか。
リオは頭を巡らせた。
外部の人間が大勢やってきていたあの二つのダンスパーティのいずれかだろう。
だが、時間的に、今ごろ婚約の話を持ち出してきたと言うことは、おそらく見かけたのは騎士学校のダンスパーティ会場……
貴族学園の方のダンスパーティならとにかく、騎士学校の方は、まるでリオは嫌々ダンスをしているみたいだった。
しかも、エスコートしてきたのは別人。
「あのアランの野郎、返す返すも余計なことばっかりしやがって」
アランがシエナを騎士学校のダンスパーティへ連れていかなければ、少なくとも、見つからなかったかも知れない。
貴族学園のダンスパーティで見つかったのなら、どう見ても婚約者だから安心なのに。
伯爵の方は、まったく落ち着かなかった。
自分の家なのに、家具から使用人の顔ぶれまで変わっていて、まるで他人の家のようだ。
それに見るからに上等な服を着た、とても強そうなリオが睨みつけている。
シエナだって、高そうなドレスだった。
みすぼらしい我が身が気になった。
「シエナは連れて帰ります」
「え? どこへ?」
さすがに伯爵は驚いた。
それはそうだ。
娘が父親の家以外のどこへ行くと言うのだ。
「そうですね……」
このまま、シエナをこの家に置いておいては、レイノルズ家が連れ去ってしまうかも知れなかった。
「私の親族の女性に預けましょう。まさかまだ婚約者の間柄の女性を自分の家に連れて行ったりしませんよ。まあ、私は母代わりの伯母と一緒に住んでいますがね」
リオは正直不安だった。
今の話にシエナがどう思ったか。
だが、シエナは最初ものすごく緊張した顔になっていたが、リオの長い話の間に、顔が戻っていた。
「さあ、シエナ、行こう」
「行こうって、どこに!」
伯爵がわめいた。
「親族の女性に預けます。当たり前でしょう、レイノルズ家のボリスは、信用ならん」
「親族の女性とは誰なんだ!」
実はリオには心当たりがなかった。
コーンウォール卿夫人に預けられればベストなのだが、あっという間にバレてしまうだろう。
それに夫人を自分の事情に巻き込むわけにはいかないと思った。
「どこでしょうね。非の打ちどころのない立派な女性のところですよ」
行先が思いつかないまま、リオはシエナを辻馬車に乗せた。
21
お気に入りに追加
516
あなたにおすすめの小説
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
【完結】魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜
光城 朱純
ファンタジー
魔力が強いはずの見た目に生まれた王女リーゼロッテ。
それにも拘わらず、魔力の片鱗すらみえないリーゼロッテは家族中から疎まれ、ある日辺境伯との結婚を決められる。
自分のあざを隠す為に仮面をつけて生活する辺境伯は、龍を操ることができると噂の伯爵。
隣に魔獣の出る森を持ち、雪深い辺境地での冷たい辺境伯との新婚生活は、身も心も凍えそう。
それでも国の端でひっそり生きていくから、もう放っておいて下さい。
私のことは私で何とかします。
ですから、国のことは国王が何とかすればいいのです。
魔力が使えない私に、魔力石を作り出せだなんて、そんなの無茶です。
もし作り出すことができたとしても、やすやすと渡したりしませんよ?
これまで虐げられた分、ちゃんと返して下さいね。
表紙はPhoto AC様よりお借りしております。
ぼっちな幼女は異世界で愛し愛され幸せになりたい
珂里
ファンタジー
ある日、仲の良かった友達が突然いなくなってしまった。
本当に、急に、目の前から消えてしまった友達には、二度と会えなかった。
…………私も消えることができるかな。
私が消えても、きっと、誰も何とも思わない。
私は、邪魔な子だから。
私は、いらない子だから。
だからきっと、誰も悲しまない。
どこかに、私を必要としてくれる人がいないかな。
そんな人がいたら、絶対に側を離れないのに……。
異世界に迷い込んだ少女と、孤独な獣人の少年が徐々に心を通わせ成長していく物語。
☆「神隠し令嬢は騎士様と幸せになりたいんです」と同じ世界です。
彩菜が神隠しに遭う時に、公園で一緒に遊んでいた「ゆうちゃん」こと優香の、もう一つの神隠し物語です。
悪役令嬢を陥れようとして失敗したヒロインのその後
柚木崎 史乃
ファンタジー
女伯グリゼルダはもう不惑の歳だが、過去に起こしたスキャンダルが原因で異性から敬遠され未だに独身だった。
二十二年前、グリゼルダは恋仲になった王太子と結託して彼の婚約者である公爵令嬢を陥れようとした。
けれど、返り討ちに遭ってしまい、結局恋人である王太子とも破局してしまったのだ。
ある時、グリゼルダは王都で開かれた仮面舞踏会に参加する。そこで、トラヴィスという年下の青年と知り合ったグリゼルダは彼と恋仲になった。そして、どんどん彼に夢中になっていく。
だが、ある日。トラヴィスは、突然グリゼルダの前から姿を消してしまう。グリゼルダはショックのあまり倒れてしまい、気づいた時には病院のベッドの上にいた。
グリゼルダは、心配そうに自分の顔を覗き込む執事にトラヴィスと連絡が取れなくなってしまったことを伝える。すると、執事は首を傾げた。
そして、困惑した様子でグリゼルダに尋ねたのだ。「トラヴィスって、一体誰ですか? そんな方、この世に存在しませんよね?」と──。
悪役令嬢エリザベート物語
kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ
公爵令嬢である。
前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。
ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。
父はアフレイド・ノイズ公爵。
ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。
魔法騎士団の総団長でもある。
母はマーガレット。
隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。
兄の名前はリアム。
前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。
そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。
王太子と婚約なんてするものか。
国外追放になどなるものか。
乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。
私は人生をあきらめない。
エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。
⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
女神に頼まれましたけど
実川えむ
ファンタジー
雷が光る中、催される、卒業パーティー。
その主役の一人である王太子が、肩までのストレートの金髪をかきあげながら、鼻を鳴らして見下ろす。
「リザベーテ、私、オーガスタス・グリフィン・ロウセルは、貴様との婚約を破棄すっ……!?」
ドンガラガッシャーン!
「ひぃぃっ!?」
情けない叫びとともに、婚約破棄劇場は始まった。
※王道の『婚約破棄』モノが書きたかった……
※ざまぁ要素は後日談にする予定……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる