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第21話 偽装結婚 at ピア
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「そういうわけで、もはや偽装結婚しか……」
万策尽きた様子のボードヒル子爵とモンゴメリ卿が、マッキントッシュ家、ヒューズ家とジャックを再度呼び出して、ヒューズ邸で提案を行った。ヒューズ邸で行われたのは、ヒューズ夫人が病気で動けなかったからである。
ヒューズ家もマッキントッシュ家も、それから、とばっちりを食らったパーシヴァル家も大反対だった。
「偽装結婚までしなくったって、他に何か方法があるでしょう? なにか!」
マッキントッシュ夫人が叫んだ。
「そんなことしたら、この子の将来はどうなりますの?」
「まあ、ヒューズ家にどうせ嫁がれるなら、事情はご存知ですし、将来の花嫁を助けるだけになります……」
「まだ、婚約も決まってませんのよ!」
マッキントッシュ夫人がヒートアップしてきた。
目が吊り上がっている。
「じゃあ、北の国に行くのね?」
冷たい声で口をはさんだのは、客間に車椅子で運び込まれたヒューズ夫人だった。
マッキントッシュ夫人が黙った。
「シャーロットの北国行きを阻止するのが一番じゃないの?」
そのとおりだった。
「でも、結婚式なんかしたら……」
マッキントッシュ夫人が手を握りしめて訴えかけた。
「それは、私も困ります」
ジャックが冷淡に口を出した。
「私も結婚できなくなります」
みんながジャックを見た。
ジャックだけは関係がなかった。彼は単に友人の為に彼女を助けたに過ぎない。
「では、結婚式を挙げたことにして、ピアで新婚生活を送ればいい」
ボードヒル子爵のこの提案に、全員が大反対した。
「なんで、ピアみたいな目立つ避暑地で新婚生活を送るのよ! 新婚旅行に出かけたことにすればいいじゃないの」
「公爵は疑り深い。新婚生活を公爵に見せつけなければ納得しない」
辛抱強くボードヒル子爵が説明した。
「この街で結婚式だの、新婚旅行だのの話を公爵にしようものなら、公爵が知り合いにしゃべって歩きます。噂が広がって収拾がつかなくなる」
「ピアだって……」
「ピアは狭いし滞在期間も短い。ピアでなら、公爵の目だけに入るように工夫することが出来ます。公爵さえ騙せればいいんです。公爵と偶然出会うように細工します」
ボードヒル子爵が必死で説明した。
「公爵には、私があなた方は新婚夫婦だと吹き込みます。この二週間で、公爵には相当知り合いが増えましたが、ピアに知り合いはいませんから、新婚かどうかを疑ったところで誰にも確認できないでしょう。結婚していると納得できれば、街に戻って来てもシャーロット嬢の話はしないと思う。自分の恥ですからね。申し込んだ相手が当てつけみたいに結婚してしまっただなんて言いにくいだろうと思うのです」
この成り行きに、ヒューズ夫人は内心ニヤリとした。この偽装結婚でフレデリックは裕福なマッキントッシュ家の跡取り娘との結婚が確定するだろう。
マッキントッシュ家がフレデリックとの結婚を渋ったら、ピアでフレデリックと偽装結婚をしていた話を、ヒューズ家がひろめればいいのだ。いくら言い訳をしても、その手のうわさは広がりやすい。
「フレデリックもピアへお行きよ。この街で見つかると言い訳が立たないだろ」
ヒューズ夫人が言いだした。ボードヒル子爵がうなずいた。
「フレデリック氏もピアにいた方がいいでしょう。ただ、公爵には、あくまでもシャーロット嬢とジャックの組み合わせだけを見せておかないと、話がおかしくなります。シャーロット嬢とジャックは、同じ家に住まないといけない」
「もちろん行きます」
そう言ったのはフレデリックだった。シャーロットとジャックは無言だった。
「ベン、その家の賃料は私が払うから!」
マッキントッシュ氏が叫んだ。
「それから、パーシヴァル氏、申し訳ない! 我が家は責任をもって歓待する」
「私もピアに行く。まあ、例年通りだがね」
モンゴメリ卿が言った。
「私は公爵の付き添いだ。当然ピアに行く」
ボードヒル子爵も言った。
万策尽きた様子のボードヒル子爵とモンゴメリ卿が、マッキントッシュ家、ヒューズ家とジャックを再度呼び出して、ヒューズ邸で提案を行った。ヒューズ邸で行われたのは、ヒューズ夫人が病気で動けなかったからである。
ヒューズ家もマッキントッシュ家も、それから、とばっちりを食らったパーシヴァル家も大反対だった。
「偽装結婚までしなくったって、他に何か方法があるでしょう? なにか!」
マッキントッシュ夫人が叫んだ。
「そんなことしたら、この子の将来はどうなりますの?」
「まあ、ヒューズ家にどうせ嫁がれるなら、事情はご存知ですし、将来の花嫁を助けるだけになります……」
「まだ、婚約も決まってませんのよ!」
マッキントッシュ夫人がヒートアップしてきた。
目が吊り上がっている。
「じゃあ、北の国に行くのね?」
冷たい声で口をはさんだのは、客間に車椅子で運び込まれたヒューズ夫人だった。
マッキントッシュ夫人が黙った。
「シャーロットの北国行きを阻止するのが一番じゃないの?」
そのとおりだった。
「でも、結婚式なんかしたら……」
マッキントッシュ夫人が手を握りしめて訴えかけた。
「それは、私も困ります」
ジャックが冷淡に口を出した。
「私も結婚できなくなります」
みんながジャックを見た。
ジャックだけは関係がなかった。彼は単に友人の為に彼女を助けたに過ぎない。
「では、結婚式を挙げたことにして、ピアで新婚生活を送ればいい」
ボードヒル子爵のこの提案に、全員が大反対した。
「なんで、ピアみたいな目立つ避暑地で新婚生活を送るのよ! 新婚旅行に出かけたことにすればいいじゃないの」
「公爵は疑り深い。新婚生活を公爵に見せつけなければ納得しない」
辛抱強くボードヒル子爵が説明した。
「この街で結婚式だの、新婚旅行だのの話を公爵にしようものなら、公爵が知り合いにしゃべって歩きます。噂が広がって収拾がつかなくなる」
「ピアだって……」
「ピアは狭いし滞在期間も短い。ピアでなら、公爵の目だけに入るように工夫することが出来ます。公爵さえ騙せればいいんです。公爵と偶然出会うように細工します」
ボードヒル子爵が必死で説明した。
「公爵には、私があなた方は新婚夫婦だと吹き込みます。この二週間で、公爵には相当知り合いが増えましたが、ピアに知り合いはいませんから、新婚かどうかを疑ったところで誰にも確認できないでしょう。結婚していると納得できれば、街に戻って来てもシャーロット嬢の話はしないと思う。自分の恥ですからね。申し込んだ相手が当てつけみたいに結婚してしまっただなんて言いにくいだろうと思うのです」
この成り行きに、ヒューズ夫人は内心ニヤリとした。この偽装結婚でフレデリックは裕福なマッキントッシュ家の跡取り娘との結婚が確定するだろう。
マッキントッシュ家がフレデリックとの結婚を渋ったら、ピアでフレデリックと偽装結婚をしていた話を、ヒューズ家がひろめればいいのだ。いくら言い訳をしても、その手のうわさは広がりやすい。
「フレデリックもピアへお行きよ。この街で見つかると言い訳が立たないだろ」
ヒューズ夫人が言いだした。ボードヒル子爵がうなずいた。
「フレデリック氏もピアにいた方がいいでしょう。ただ、公爵には、あくまでもシャーロット嬢とジャックの組み合わせだけを見せておかないと、話がおかしくなります。シャーロット嬢とジャックは、同じ家に住まないといけない」
「もちろん行きます」
そう言ったのはフレデリックだった。シャーロットとジャックは無言だった。
「ベン、その家の賃料は私が払うから!」
マッキントッシュ氏が叫んだ。
「それから、パーシヴァル氏、申し訳ない! 我が家は責任をもって歓待する」
「私もピアに行く。まあ、例年通りだがね」
モンゴメリ卿が言った。
「私は公爵の付き添いだ。当然ピアに行く」
ボードヒル子爵も言った。
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