【完結】君は友人の婚約者で、どういう訳か僕の妻 ~成り行きで婚約者のフリをしたら話がこじれ始めました。いろいろまずい

buchi

文字の大きさ
上 下
3 / 57

第3話 人気はあるのにダンスはできない

しおりを挟む
ダンス会場に着くと、カーラは先に立ってさっさと中に入り、ここに立てと言わんばかりに顎をしゃくってシャーロットを入り口近くの一隅に立たせた。

どうしてここに立たなくてはいけないのかしら?

初めてこんなところへやって来たシャーロットは不安だった。カーラは彼女の後ろに立っていたが、シャーロットの立ち位置は入り口近くのひどく目立つ場所だった。

通り過ぎる人々が、いちいちシャーロットの顔を見ていく。

「ね、ねえカーラ、もう少し目立たない場所の方がよくない?」

「だって、マッキントッシュのおばさまには、あなたを目立つようにしてほしいって言われたんですもの」

そう言われては黙るしかなかった。

楽団が優雅に小さく音楽を鳴らしていて、周りでは顔見知りらしい人たちが優雅に互いに話しこんだり、あいさつを交わしたりしていた。
シャーロットは誰も知らないので、黙って立っているしかなかった。


シャーロットは目立つ美少女だった。

そして、名前を知らなくても、衣装を見ればどれほどの家の娘なのか、大体のところの見当はつくというものだ。

彼女がかなり怯えていることは見ただけでわかった。
デビューしたてなのだなとわかる。

何人かの男性は、美少女が緊張して小さくなっているのを見ると、つい微笑んでしまった。
だが、緊張しているシャーロットには、何か笑われているような気がしてならなかった。
どこか変な格好なのかしら?

楽団がダンスを始めるためにだんだん音を大きくし始めると、にこやかに微笑んだ一人の男性がシャーロット目指してゆったりとやって来た。いかにもこんな場所には慣れている様子だった。

黒いくせ毛の髪、どこか魅力的な目をしたその男は、見事なまでに礼儀正しかった。彼が上流社会の一員であることは間違いなかった。

「初めまして。きれいなお嬢さん。ダンスにお誘いしてもよろしいでしょうか? 私はアーサー・モン……」

シャーロットは驚いて、その美しい青緑の目を見開いた。男性はその目をのぞき込んでにっこりした。

「もちろんですわ!」

シャーロットの背中からカーラの声が響き、シャーロットはグイッと押しのけられた。あっという間にカーラは男性が差し出した手を取った。

シャーロットは呆然とした。

自分が誘われたとばかり思っていたのだが、そうではなかったのか。

半分持ち上げた手が恥ずかしくなった。その手を見たカーラがあざけるように小さな声で囁いた。

「本当に厚かましいわね。おきれいなお嬢さんだなんて言われた途端、自分のことだと思うだなんて。あんたのことじゃないのよ」

そして、彼女はその男性とダンスフロアに一緒に向かって行った。


シャーロットは真っ赤になってしまった。
恥ずかしい。おきれいなお嬢さんと聞いた途端に自分のことだと思い込むだなんて、自意識過剰もいいところだ。カーラの言うとおりだ。
一度もこんな場所に出入りしたことがないシャーロットは、ダンスの相手に選ばれる基準がさっぱりわからなかった。

彼女は出来るだけ陰の方に引っ込むことにした。

「勘違いするだなんて……」

別の男性が、シャーロットがさっきまでいたあたりを誰かを探すように近づいてきたが、すっかり恥ずかしくなってしまった彼女は目を伏せて一層奥に引っ込んだ。

曲が終わると、カーラが興奮した様子でさっきの男性に送られて戻ってきた。

「あら、そんな所にいたの。どうして場所を移動するの。わからなかったじゃない」

ダンスのパートナーは、今度は明確にシャーロットを見てきっぱりした調子で言った。

「そちらのお嬢さんと踊りたいな。いかがですか?」

カーラは男性とシャーロットの間に割り込むように立つと、申し訳なさそうに言い訳を始めた。

「お気遣いいただかなくても大丈夫ですわ。まだ、子どもですからダンスも十分ではありませんし」

男はむっとした様子だった。

「子どもではないでしょう? 子どもはこんなところに出入りしませんし……」

シャーロットは雲行きが怪しくなってきたので思わず小さな声で謝った。

「……申し訳ございません」

目を吊り上げたカーラがシャーロットの方を振り向いて言った。

「本当に、あなたが悪いのよ。もっとちゃんと謝れないの? ダンスを踊る前に礼儀を直さないとダメじゃないの」

そう言うと、カーラはその男性に丁寧に、しかし媚びるように微笑んだ。

「お詫びに、わたくしでよければ、もう一度踊っていただけませんでしょうか?」

男性は一瞬迷ったようだったが、一瞬カーラを睨むと、あまりのことに黙って足早に立ち去ってしまった。

「あ……」

カーラは後ろから声をかけたそうだったが、それは淑女として許される行為ではない。
彼女はくるりと振り返ると、シャーロットをにらみつけた。

「あんたが悪いのよ!……」

なぜ、怒られるのかわからない。

「こういう舞踏会のしきたりをきちんとわかってないから、さっきの男性を怒らせちゃったじゃない。何やってんの。失礼な子ね」

「あの、どこが悪かったと……」


だが、その時、もう一人、どうやら彼女を探していたらしい男性が近付いてきた。今度はずっと若い、キリッと決まった身なりの細身の男だった。

「ああ、さっき、入り口の近くにいた方はあなたですね?」

その男は、シャーロットを見て、ぱっと顔を輝かせた。そして、礼儀正しく次の相手をお願いできますまいかと尋ねた。

彼は、はっきりシャーロットの目を見てダンスを申し込んだ。

だが、またもや横からすっと手が伸びてきて、男の手を握ったのはカーラだった。

「もちろん、お受けします。もう曲が始まりますわ!」

男性は、急に相手が変わってびっくりしておたおたしている間に、カーラにダンスフロアに引きずられて行ったが、未練たらしくシャーロットを振り返っていた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【改稿版・完結】その瞳に魅入られて

おもち。
恋愛
「——君を愛してる」 そう悲鳴にも似た心からの叫びは、婚約者である私に向けたものではない。私の従姉妹へ向けられたものだった—— 幼い頃に交わした婚約だったけれど私は彼を愛してたし、彼に愛されていると思っていた。 あの日、二人の胸を引き裂くような思いを聞くまでは…… 『最初から愛されていなかった』 その事実に心が悲鳴を上げ、目の前が真っ白になった。 私は愛し合っている二人を引き裂く『邪魔者』でしかないのだと、その光景を見ながらひたすら現実を受け入れるしかなかった。  『このまま婚姻を結んでも、私は一生愛されない』  『私も一度でいいから、あんな風に愛されたい』 でも貴族令嬢である立場が、父が、それを許してはくれない。 必死で気持ちに蓋をして、淡々と日々を過ごしていたある日。偶然見つけた一冊の本によって、私の運命は大きく変わっていくのだった。 私も、貴方達のように自分の幸せを求めても許されますか……? ※後半、壊れてる人が登場します。苦手な方はご注意下さい。 ※このお話は私独自の設定もあります、ご了承ください。ご都合主義な場面も多々あるかと思います。 ※『幸せは人それぞれ』と、いうような作品になっています。苦手な方はご注意下さい。 ※こちらの作品は小説家になろう様でも掲載しています。

【完結】彼を幸せにする十の方法

玉響なつめ
恋愛
貴族令嬢のフィリアには婚約者がいる。 フィリアが望んで結ばれた婚約、その相手であるキリアンはいつだって冷静だ。 婚約者としての義務は果たしてくれるし常に彼女を尊重してくれる。 しかし、フィリアが望まなければキリアンは動かない。 婚約したのだからいつかは心を開いてくれて、距離も縮まる――そう信じていたフィリアの心は、とある夜会での事件でぽっきり折れてしまった。 婚約を解消することは難しいが、少なくともこれ以上迷惑をかけずに夫婦としてどうあるべきか……フィリアは悩みながらも、キリアンが一番幸せになれる方法を探すために行動を起こすのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも掲載しています。

殿下が恋をしたいと言うのでさせてみる事にしました。婚約者候補からは外れますね

さこの
恋愛
恋がしたい。 ウィルフレッド殿下が言った… それではどうぞ、美しい恋をしてください。 婚約者候補から外れるようにと同じく婚約者候補のマドレーヌ様が話をつけてくださりました! 話の視点が回毎に変わることがあります。 緩い設定です。二十話程です。 本編+番外編の別視点

【完結】もう辛い片想いは卒業して結婚相手を探そうと思います

ユユ
恋愛
大家族で大富豪の伯爵家に産まれた令嬢には 好きな人がいた。 彼からすれば誰にでも向ける微笑みだったが 令嬢はそれで恋に落ちてしまった。 だけど彼は私を利用するだけで 振り向いてはくれない。 ある日、薬の過剰摂取をして 彼から離れようとした令嬢の話。 * 完結保証付き * 3万文字未満 * 暇つぶしにご利用下さい

一途な皇帝は心を閉ざした令嬢を望む

浅海 景
恋愛
幼い頃からの婚約者であった王太子より婚約解消を告げられたシャーロット。傷心の最中に心無い言葉を聞き、信じていたものが全て偽りだったと思い込み、絶望のあまり心を閉ざしてしまう。そんな中、帝国から皇帝との縁談がもたらされ、侯爵令嬢としての責任を果たすべく承諾する。 「もう誰も信じない。私はただ責務を果たすだけ」 一方、皇帝はシャーロットを愛していると告げると、言葉通りに溺愛してきてシャーロットの心を揺らす。 傷つくことに怯えて心を閉ざす令嬢と一途に想い続ける青年皇帝の物語

廃妃の再婚

束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの 父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。 ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。 それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。 身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。 あの時助けた青年は、国王になっていたのである。 「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは 結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。 帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。 カトルはイルサナを寵愛しはじめる。 王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。 ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。 引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。 ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。 だがユリシアスは何かを隠しているようだ。 それはカトルの抱える、真実だった──。

つかぬことをお伺いいたしますが、私はお飾りの妻ですよね?

恋愛
少しネガティブな天然鈍感辺境伯令嬢と目つきが悪く恋愛に関してはポンコツコミュ障公爵令息のコミュニケーションエラー必至の爆笑(?)すれ違いラブコメ! ランツベルク辺境伯令嬢ローザリンデは優秀な兄弟姉妹に囲まれて少し自信を持てずにいた。そんなローザリンデを夜会でエスコートしたいと申し出たのはオルデンブルク公爵令息ルートヴィヒ。そして複数回のエスコートを経て、ルートヴィヒとの結婚が決まるローザリンデ。しかし、ルートヴィヒには身分違いだが恋仲の女性がいる噂をローザリンデは知っていた。 エーベルシュタイン女男爵であるハイデマリー。彼女こそ、ルートヴィヒの恋人である。しかし上級貴族と下級貴族の結婚は許されていない上、ハイデマリーは既婚者である。 ローザリンデは自分がお飾りの妻だと理解した。その上でルートヴィヒとの結婚を受け入れる。ランツベルク家としても、筆頭公爵家であるオルデンブルク家と繋がりを持てることは有益なのだ。 しかし結婚後、ルートヴィヒの様子が明らかにおかしい。ローザリンデはルートヴィヒからお菓子、花、アクセサリー、更にはドレスまでことあるごとにプレゼントされる。プレゼントの量はどんどん増える。流石にこれはおかしいと思ったローザリンデはある日の夜会で聞いてみる。 「つかぬことをお伺いいたしますが、私はお飾りの妻ですよね?」 するとルートヴィヒからは予想外の返事があった。 小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

婚約者様は大変お素敵でございます

ましろ
恋愛
私シェリーが婚約したのは16の頃。相手はまだ13歳のベンジャミン様。当時の彼は、声変わりすらしていない天使の様に美しく可愛らしい少年だった。 あれから2年。天使様は素敵な男性へと成長した。彼が18歳になり学園を卒業したら結婚する。 それまで、侯爵家で花嫁修業としてお父上であるカーティス様から仕事を学びながら、嫁ぐ日を指折り数えて待っていた── 設定はゆるゆるご都合主義です。

処理中です...